あのまばたきの意味

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あのまばたきの意味

 それは予定通りの訪問だった。

 一軒家がある。

 日下くさか由貴ゆきは、借りていたノートを返却しに友人である高坂こうさか綾香あやか宅に行った。

 由貴は玄関先で、呼び鈴を押す。

 しかし、綾香は、なかなか出てこなかった。

 由貴は少し不安になる。

 二度目の呼び鈴を押そうとした時に、近づいて来る足音。

 そう思っていると突然ドアが開いた。

 綾香が出てくる。

「や、綾香」

 由貴が呼びかける。

 すると、綾香は緊張した面持ちで由貴を迎えた。

「ゆ、由貴。どう、したの?」

 表情と第一声で、由貴は違和感を覚えた。

 今日、この時間に由貴が借りていたノートを返しに行くことは伝えていたし、綾香も分かっていたハズだ。

 それにも関わらず、綾香はまるで予想外の来客があったかのような反応をしたのだ。

「借りとったノートを返しに来たやけど」

 由貴はノートを差し出す。

「そうな、んだ。ごめんね、わざわざ」

 その時、由貴は綾香が瞬きをするのを見た。

 瞬き?

 いや、これは目配せだった。

「……綾香、少し教えて欲しいんやけど、この数学の解き方を教えてくれへん?」

 由貴は、借りた国語のノートを開く。

 筆記用具を出し、ノートに書く。

《どないしたん?》

 綾香が書く。

「……こ、の公式の解、き方はね」

 鉛筆を動かす。

《男が1人いるの》

 と、書いた。

 由貴は言葉を失う。

 そして、すぐに理解する。

 綾香は、この家の中に誰か知らない人が居て、助けを求めている。

《どこや?》

 と、由貴は書き込む。

《すぐ左》

 と、綾香はすぐに返事を書く。

 その瞬間、由貴は玄関に入る。

 すると、男が居た。

 包丁を持っている。

 由貴は驚愕するが、男はもっと驚いたようだ。

 次の瞬間、由貴は左足裏を使って男の右脛を蹴る。

 それが打撃地獄の始まりだった。

 男の顎を右拳で斜め下からを突き入れる。

 その右拳を胸に突き入れる。

 右手の甲を男の顔面に入れる。

 右拳を胸に突き入れる。

 右手刀で男の右頸部で打ち。

 右手刀を返し男の左頸部を打つ。

 最後に右脚を引きながら右肘を回し、馬歩になりながら右肘を男の胸に叩き込んだ。

 由貴は、このほぼ右手八連撃をわずか3秒足らずで、男に叩き込んだ。


 【翻子拳ほんしけん

 その拳は素早く、隙のない連打は一挂鞭いっけいべん(長い爆竹)のごとしと称賛される程だ。

 動作が小さい為に一撃の威力は弱いが、その問題点を素早い連打で解消する。


 男は気絶をしていた。

「このやらが! 警察呼び!」

 由貴は叫ぶ。

 友人の鬼のような強さに呆然としていた綾香だが、我に帰ると慌ててスマホを取り出していた。

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