どうも婚約破棄した王子ですが助けてくれませんか?

得る知己

第1話プロローグ

 地球とは別の星にメルベーユと呼ばれる王国があった。この国を統べるのは王侯貴族と呼ばれる特別な存在。彼ら彼女らは、魔法と呼ばれる不思議な力で人々を支配し、繁栄させてきた。


 国の頂点。国家最高の権力者一族、王家に彼は生を受けた。名はリチャード。


 金髪碧眼。眉目秀麗。白のタキシードと白馬が似合う物語に出てくる王子のような外見。


 時に優しく、時に冷たく、時に激しく、時に甘い。もしこの世界が乙女ゲームなら彼は間違いなく攻略対象となっていただろう


 彼には仲間がいた。


 青い髪に知的な眼鏡。頭脳明晰な宰相の義息子シーザー。赤い髪にワイルドな顔立ち。筋骨隆々な騎士見習いのラルフ。


 そして、紅一点。ピンクブロンドの髪に可憐な容姿。天真爛漫な男爵令嬢のアリス。


 リチャード達は、王国最高峰の教育機関と名高い王立魔法学園に通っていた。数々の苦難を乗り越え、仲間たちと絆を深め、淡い恋心を実らせ、彼と彼女は青春を謳歌していた。


 季節は過ぎ、リチャード達が卒業を迎える日。


 卒業式は終わり。学園の講堂では、卒業を記念したダンスパーティーが開催された。既にパーティーの開始時間は過ぎている。そんな中、パーティー会場の中央にはリチャード達4人の姿があった。彼らは、とある女子生徒と対面している。シーザーとよく似た青い髪を縦ロールにした豪奢な髪。険の強そうな凛とした瞳。まるで、乙女ゲームに出てくる悪役令嬢のような少女だ。


「イザベラ! お前は自分が何をしたのか理解しているのか!」

「皆目見当もつきませんわリチャード様。それよりも貴方様こそ何をしているのでしょうか? 婚約者であるわたくしを放っておいて……そちらの彼女と随分と距離が近いと思いませんか?」


 怒りが滲むリチャードの問いに、イザベラは済ました顔で答える。しかし、その瞳は鋭くアリスを睨みつけていた。


「お前なんかに指図される覚えはない。部をわきまえろ!」

「……貴方様はもう少し立場をわきまえてくださいな。愛人を作るなとは言いませんが、あまりやんちゃが過ぎればこちらも黙っていることは出来ません」

「貴様ッ!」

 

 リチャードとアリスは愛し合っていた。親同士が決めた婚約者のイザベラよりも深く、甘く、確かな絆で結ばれていた。故に、愛する人を愚弄されリチャードは激高する。


 たとえ、社会的に見ればイザベラの言葉が正しくとも、真実の愛という正義を掲げるリチャード達には関係ない。


 リチャードたちとイザベラはその後も幾つかの口論を繰り返す。困惑する周囲を放って。自分たちだけの世界を築き上げる。


 時は来た。これから先の彼らの運命を、そして、王国の未来を決定づける始まりの言葉をことほぐむ。


「王国が第一王子たるこの僕リチャード・メルベーユの名の元に宣言する。イザベラ・ローズフィート、貴様に婚約破棄を言い渡す!!」


 運命が動き出す。それは、古びた歯車がかみ合うようにゆっくりと、それでいて、確かに動き出す。その影響は徐々に広がり、気が付いた時には最早手遅れ時間切れ。最後に待つのは喜劇か悲劇か。


「アリス。僕は君を永遠えいえんに愛すると誓うよ」

「リチャード様。私も貴方様を永遠とわにお慕い申し上げます」 


 恋に焦がれて身を焦がす。今はまだそんな結末を知る由もない。

 

 どんな世界にもどんな時代にも人の世界に悲劇と喜劇はつきものだ。


 悲劇を笑い、喜劇に泣き、失敗に勇み、成功に落ち込む。矛盾を孕んだ物語の積み重ねが歴史を作るのだろう。


――これは、愛の物語。真実の愛という虚像を求めた少年少女が破滅する。愛を否定する物語。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る