星のサイリウム
示す者と守る者の邂逅。
「ありがとうな。匿ってくれて」
《Bar MIKE》にて
「何も言わないんだな・・・」
彼女も病院に行けなど、無粋なことは言わなかった。
先程の電話口でも「わかった」の一言だけ、店に辿り着いた
「止めても聞かないのがアンタでしょ」
ため息交じりに吐いた言葉と同時に、バンテージが巻き終わった。
だけれど
「正直・・・、こんな風になるアンタを見るの、怖いんだけど・・・」
だが、電話もメールも「当校にいじめなど存在しない」と一蹴。
加えて、悪評にたいそう過敏らしい。
書き込みなど、一時間と経たないうちに消されてしまう周到さだ。
本人に諦めるように言おうにも、このざまだ。
「・・・・・悪いな」
「ほんとだよ。なんでもっとうまくやらないのか、なんでもっとうまく立ち回らないのか、なんでこんなにも鈍いのか、なんで人の言うことを聞かないのか、なんでこうひとりで突っ走るのか、なんで全部ひとりで勝手にきめるのか、なんでもっと頼ってくれないのか、なんで手の届かない場所にいるのか、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで・・・」
「そこはかとなく私情を感じるなぁ!?」
苛立ちを浮かべながら立ち上がった
触らぬ神に祟りなし、ではあるが、そもそもの原因が
だけれどそんな気遣いも杞憂に終わった。
ボトルの並べられたガラスケースの前を歩んだ
その表情は、安心したように薄く笑っていたのだ。
彼女はその先の鍵かけから、アイアンマンのストラップがついた鍵を持ち上げた。
「準備、できてるよ」
その手がくいくいと、スタジオへと誘う。
彼女のいたずらで悪魔的な様子に、
「ああ、頼む」
そうして、彼は二日後の文化祭に挑んだ。
◇ ◇ ◇
文化祭当日、
「いらっしゃいませー!たこ焼きでーす!」
「2-4組でメイド喫茶やってます!」
「お化け屋敷だぞーーー」
校門では、眩暈がするほどに人が流れていた。
立ち並ぶ店々と、目に映る色彩豊富な垂れ幕に、この日のために印字したクラスのごとのTシャツが、生徒ら独自の個性を露わにする。
校門にかかるアーチには、デカデカと高校の名前の末尾に「祭」の文字が。
校内も、目に映るすべてが学生の感性と創意工夫をふんだんに盛り込んだ努力の証だ。
この景色、生涯で三度、もしくは六度。
機会は数えられるほどに多くとも、それを無為無駄に終わらせるには、あまりにも眩しい。
なぜなら今この時は、人生でたった一度きりなのだ。
歓声、喝采、談笑、はたまた叫び、しかして善なる狂乱。
彼らには目に入るものすべてがキラキラと輝いているのだ。
もしかすれば彼らも、この時間が人生において
だからこんなにも、喜び狂うのだ。
だが、そうでない者もいるかもしない。
大人な性格で、または演じたかったから自分を抑えたかもしれない。
恥ずかしがり屋な性格だったからカメラに映ることを恐れて人影に身を隠したかもしれない。
そういった小さな後悔が、数えきれないほどあるのかもしれない。
だけど、それでもいいのだ。
それでも輝かしい思い出となるのだ。
突き詰めれば立っているだけで良い。
なので間違いなどありようはずもないし、どんなに憎たらしくて偏屈な不良生徒でも心配ないので悪しからず☆。
若さというのは、それほどまでに慈悲深く、あまねく人々を照らす温かな陽だまりのようで、こんなにも特別なのだ。
————————————————————————
そんな明るい方とは離れた場所で、ふたりの男子生徒が密かに接触していた。
「もう仕向けて来ないんだな」
校舎裏に呼び出された
「ここまでやってるんだから、もう意味ないだろ。それとも、あと一押しで壊れるのか?」
「試してみるか?」
「・・・・いや、やめとこう。さすがに直前じゃあな、こっちもそんな暇じゃない」
「なら雑談ってわけじゃないだろ?」
暇じゃないのはこちらも同じなので、早々に本題に入らせる
その催促を受けてか、顔に少しの不機嫌さを滲ませた
「ステージイベントを辞退しろ。もちろんタダってわけじゃない。文化祭が終われば、お前の姉貴の誤解を解こう」
それは
「使えるものはすべて使う。なにひとつ惜しまない。全面的に協力する。だからそれまでは静かにしていろ」
それは悪性の根絶に他ならなかったのだ。
彼に同意すれば、安全に、確実に、
彼の支配力の前では、それは赤子の手をひねるように簡単なことだろう。
「・・・・帰るとさ、いつも扉の先に姉さんがいるんだ」
だけれど
「すごく静かだけど生活音が聞こえてくる。呼吸さえもだ」
なぜなら、その方法では彼の目的は達し得ないのだ。
それに・・・・。
「今までは、ただ部屋から出てこれないだけだと思ってた・・・。だけど違ったんだ・・・。姉さんは泣いていたんだ」
そんな時間のかかる手を彼がとるはずがなかった。
「もしも姉さんが、今も自分に耐えきれずに苦しんでいるのなら」
好きなモノを嫌いになったのなら。
「もしも、今も泣いているのなら」
自分を嫌いになって、それを責めているのなら。
「俺はそんなの一日だって耐えられない」
すぐに解放してあげたい。
「一秒も我慢できない」
見過ごせるはずがない。
「そうか・・・、この手だけは使いたくなかったが、残念だ」
そうして
「
校舎の向こうから、学園の象徴であり歌姫である
「あれ?話してたの?・・・・って
「学内祭、凄かったよ!
彼女は目を輝かせて
「お互い、全力で頑張ろう!言っておくけど、絶対に負けないから!」
あまりの猪突猛進ぶりに、おもわず毒気を抜かれた
だが、それも一瞬で、すぐにその表情は心配に置き換わる。
「
どうやら彼女の中では、それが気がかりだったらしい。
その状態を憂いた彼女のプロデューサーである
「亜美、本番前だ。集中しておけよ」
「でも、やっぱり心配だよ」
「そうだけど、それは
振り返り、眉を下げる
「その通りですよ、
目線を飛ばすが、
「さあ?
手元の時計を確認した
ふたりの最初で最後の邂逅は、そうして幕を閉じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※
次回「母は閃光、わたしは茜。」
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