最終 第Ⅰ章 あまねくすべては、その星(歌)に
瞳を見た「守る者」、歌を聞いた「示す者」
昨日に
玄関から出た彼は肌寒くなりだした外気に身震いした。そのことに、季節は進むものなのだと、少しの嘆息を漏らす。
時間だけが過ぎている。それに対して、関係性を恐ろしく遅い。
それに・・・・。
「おはよう、
「・・・おはよう、
これだけ時間をかけても、やっとスタートラインに立てただけなのだ。
隣に戻ってきた彼女に、心の奥底で安堵を浮かべた。
本当に、冗談のような奇跡であり、彼女自身の度量の広さに驚くばかりだ。
てっきりこちらが頭を下げるなり、懇願するなりで、なんとかなるかも怪しいものだと思っていた。
それがこうして肩を並べて、また一緒に学校に行けることになるなんて・・・・。
「で?どうするの?
「そうだな・・・原因は、わかってるんだ」
だけど、まだ障害はある。
きっとこれが一番の問題だ。
「ちょっと状況を整理する必要がある」
◇ ◇ ◇
学校についた
「明日さ、隣町に行かない?」
「わざわざ?なんで?」
「まあ、来てからの楽しみだって!行こ!」
午前の授業を終えた昼下がり、賑やかになった
(あの人はどこのクラスの人なのだろう・・・)
一方的に、名も告げずに、どこかへ去ってしまったあの強面の先輩生徒。
おそらく、
姉にいったい何が起きたのか、わかるかもしれない。
(俺が守らないと・・・)
—————————————————————
時は遡り昨日、都内某所のボイススタジオでトレーニング励む
少しずつ、積み重ねるようなその声は、スタジオの中に、深く、遠く、響いていた。
「もっと・・・・もっと頑張らないと・・・」
発声に納得のいっていない彼女は、試行錯誤を繰り返しながら、自身の本物の声を探す。彼女が追い求めているモノは、人の心に染み渡るように響く歌声だ。
「La———————」
額に滴る汗、歪む眉間、開かれた口角。
スタジオの窓ガラスを震わせる声量は、彼女のこれまでの努力の証であり、人々を魅了する響きは、彼女の才能であった。
かれこれ一時間半は経ったかというところで、微かに喉のしわがれを感じた。
ここが潮時かと、まだ研鑽を求める
そうして向かったのは隣室の事務室だ。
「
そうして立ならぶ灰色ケースを抜けた先、こちらも同色系統の鼠色のデスクに、
「寝てるの?」
けれど彼の姿は、最後に見たものとは違っていた。
彼は確かに、パソコンに向かってひたすらに作業を行っていたはずだが、今では机に突っ伏して眠っていた。
「あーあ、目に隈なんてつくって・・・。台無しじゃん」
彼の顔は、まるで死人のように色素が薄くて、傍から見てもわかるように、不健康そのものだった。
彼の顔から視線を外して、画面に移す。
彼がここまで必死な理由はそこにあった。
(いよいよ・・・ここまできた)
そこには、芸能事務所への招待と、その条件がある。
(今度の文化祭で、アンケートで、結果を出す。すべてはそれにかかっている)
でも、このチャンスは、今まで待ち望んだものだ。
絶対にものにしなければ・・・。
「んっ・・・・すまん、寝てた」
胸に想いを秘めた時、
目をこすった彼は、
「いいよ、ここのところ、ろくに寝てないでしょ?無理しちゃダメだよ」
「そういうわけにはいかない。今が一番、大事な時だ。多少の無理はしてでもやり切らないと、それに休むのは後でもできる」
「もう、そうやって先送りにして・・・悪い癖だよ」
「ははっ、すまんすまん。でもやっと掴んだチャンスだ」
「帰ろうか」
そう優し気に声をかけて、壁際に掛けた鍵を取って、鞄を持ち上げた。
それを合図に、
「
それは宣言であり、彼の覚悟であった。
「君の歌声は人を救えるんだ」
自分以外はいなくなった事務所内で、
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※
次回「瞳を見た「示す者」、歌を聞いた「守る者」」
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