第49話 勉強会
いつものように授業を受けている内に、気づけば放課後になっていた。
「それじゃ、今週からテスト週間だからお前らしっかり勉強しろよー」
僕たちの担任の寺川先生は、いつも通りの気だるげな声で言うと、教室を出て行った。
先生も言っていたが、今日からテスト週間で来週からテストが始まる。
そのため、僕は、これから秀一と樹の2人と勉強会をすることになっているのだが、今朝の秀一の鈴音に接する態度が気がかりで仕方がなかった。
もしも、僕の予想が当たってしまったら……と、僕は、怖かったのだ。
僕がそんな風に考えていると――
「真琴、どうした? 早く行こうよ」
秀一が荷物を持ちながら僕に話しかけてきた。
樹も荷物を持って秀一の後ろに立っている。
「あ、うん……!」
僕が慌てて立ち上がると、すぐに秀一と樹が歩き始め、僕は、その後を追った。
***
僕たちは、勉強をし、適度に休憩もはさめそうな所を探した結果、カラオケで勉強することになった。
ファミレスや某有名ハンバーガーチェーン店なども候補に挙がったが、あまり長居するには向かないと考え、避けることにした。
ファミレスなどを避けてカラオケに来たは、いいのだが――
「なんかめちゃくちゃ広い部屋に通されたね……」
秀一が通された部屋の大きさに驚きと戸惑いが混じった表情を浮かべながら言った。
「間違いない……」
樹も苦笑いをしながら言った。
おそらく僕たちが通された部屋は、普段は、いわゆるVIPルームと呼ばれる部屋だろうと思われる。
普通、追加料金を支払わないと入れないはずだが、なぜかこの部屋に行くように案内されたのだ。
「本当にこの部屋であってる……?」
僕は、部屋を間違えているのではないかと思って、部屋番号が書かれた伝票を持っている樹に聞いた。
樹は、1度、部屋の外に出て、ドアに書かれた番号と伝票の番号を交互に確認して言った。
「間違ってないね。それに、ちゃんと学割コースで案内されてる」
「「ええ……」」
僕と秀一が同時に困惑の声を上げた。
「まあ、何か手違いだったらフロントから電話かかってくると思うし、それまでここに居よう」
樹は、そう言うと、荷物を置き、見るからに通常の部屋よりふかふかしてそうな席に腰かけた。
「そうだね」
秀一も荷物を置いて席に腰かけたため、僕もとりあえず席に腰かけた。
***
僕たちは、その後、待てど暮らせどフロントから連絡がなかったため痺れを切らして、電話をかけたところ、手違いでなく、混雑していないため、店長の厚意で追加料金なしでVIPルームに通されたと説明を受けた。
「「「……」」」
説明を受けてから、僕たちは、当初の予定通り勉強を始めたのだが――
「これ、全然集中できないね……」
秀一が左右の壁にプロジェクターによって映しだされる映像を見ながら言った。
僕たちは、ただでさえ、3人という人数に対してあまりに広い部屋に通されて落ち着かないのに、大画面で表示される映像に気を散らしていた。
「やっぱ、気が散るよな……。気が散るからモニターの電源切れないかなって思って、電源探してるけど見当たらないし……」
樹がため息をつきながら言った。
「店長さんには、申し訳ないけど部屋を変えてもらえないか掛け合ってみる……?」
僕は、厚意でVIPルームに通してくれた店長さんに申し訳なさを感じながら言った。
「うん……。とりあえず言ってみよう」
秀一がそう言うと、樹が受話器を手に取ってフロントに連絡していた。
しかし――
「なんか、他の部屋が1時間半後に予約が入っちゃったり、急にヒトカラしに来た人が増えたから無理だって……」
電話を終えた樹が肩を落としながら言った。
「おお……。マジか……」
秀一が困ったように笑った。
「うーん……。どうしようか……? 今からでもファミレスとかに移動する……?」
僕がそう言うと、秀一は、しばらく考えるそぶりを見せた後――
「なんやかんやこの3人で放課後一緒にいるの初めてだし、今日は、このままカラオケで遊んでかない……?」
秀一がおそるおそる言った。
――確かに言われてみれば、3人で放課後に遊んだことないし、いい機会なのかもしれない。
「うん……! そうしようか……! 前から3人で遊んでみたかったし……!」
僕は、秀一の提案に乗ることにした。
――後は、樹が何て言うかだけど……。
そう思いながら樹の方を見ると――
「明日から、本気で勉強するんならいいんじゃない……?」
樹は、僕が思ったよりも乗り気な様子で言った。
「そうと決まれば、歌おうか!」
秀一がマイクを片手に言った。
***
歌い始めて1時間が経った。
3時間パックで入ったため、本来ならまだまだこれからというところだ。
しかし――
「真琴も秀一も無理なキーの曲歌いすぎだろ……」
樹が呆れたような顔を僕と秀一に向けてきた。
僕と秀一は、共通のお気に入りの男女ツインボーカルの高音と鋭利なギターサウンド、そして、テクニカルなドラムが特徴のスリーピースバンドの曲をデュエットで歌いすぎて完全に喉を潰していた。
「まだだ……。まだ、いける……」
秀一がガラガラの掠れた声で言った。
「僕もまだいける……」
僕も秀一に追随して、掠れた声で言った。
そんな僕と秀一を見て――
「いやいや、さっきから咳きこんでるしメロンソーダでも飲んで休めって……」
樹は、さらに呆れた顔をして言った。
僕は、前に、愛理と遊園地に出かけたときに、こんな風に『まだいける……』とか言いつつ、結局、休憩することになったことを思い出し、操作していたデンモクをテーブルに置いて、メロンソーダを一口飲んだ。
僕がメロンソーダを飲んだのを見て、秀一もメロンソーダの入ったグラスに手を伸ばし、口をつけていた。
「はあ……。メロンソーダを飲んだら一気に喉の疲れを実感したよ……。ひとまず休憩にしようか」
秀一が、苦笑いをしながら言った。
「そうした方がいいよ」
樹が若干ため息まじりで言った、その直後のことだった――
「そういえばさ、俺、秀一に聞きたいことがあるんだった……!」
樹は、急に思い出したかのように立ち上がりながら言った。
僕の心拍数が一気に上がったのを感じる。
目の前のカラオケを楽しんで、目を逸らしていたがその時が来てしまった。
「え、何かな……? 悪い話じゃないよね……?」
秀一は、何を聞かれるかわからずに、緊張気味な様子だった。
「全然そんなんじゃないから安心してよ」
樹が若干ニヤニヤしながら言った。
「それならいいんだけど……」
秀一は、少し安心しつつも、困惑しているような表情を浮かべた。
「まあ、真琴とも言ってたんだけど、秀一、永井さんと話すときだけ態度違くない? って、思って……。実際のとこどうなの……?」
樹がそう言うと――
秀一は、顔を一気に赤くした。
「えっ……!? なんでわかるの!? うまく隠していたつもりなのに!」
秀一がいつもじゃ考えられないくらい慌てながら言った。
――やっぱり、秀一は、鈴音のことが……。いやいや……まだ、好きとははっきり言っていないし……。
もう答えは、今の秀一の様子を見れば、それ以上は、聞かずともわかるほどだが、僕は、未だに自分の予想は、外れていると思いたかった。
そんな僕を他所に樹と秀一の会話は、どんどん進んでいく。
「あれで隠せてたつもりなの……? 真琴と俺が気づくくらいだよ……?」
秀一が困惑気味に言っていた。
「あはは……。まあ、バレちゃったならしょうがないなー……」
そう言う秀一の顔は、みるみる赤くなっている。
そして、秀一は、顔をこれ以上赤くできないくらい染め上げ――
「うん……。正直に言うと、俺、永井さんのことが好きなんだ……」
秀一は、鈴音のことが好きだと、嘘偽りのない純粋な鈴音への恋愛感情を僕と樹の前で吐露した。
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