初恋、諦めようか迷っています。
しろがね
第1話 人生で初めての恋をした
中学2年の冬、僕こと、霧崎真琴は、人生で初めての恋をした。
その瞬間は、僕が通っている塾で訪れた。
ある少女が教室に入って来た瞬間、僕は思わず目を奪われたのだ。
――めちゃくちゃ綺麗な子だな……。
そう思った。
そのうち、先生がやってきて、「――えー、今日から一緒に勉強することになった新しい仲間を紹介したいと思います」と事務的に告げ、彼女を前に呼び出した。
少し緊張気味に彼女が前に出てきた。
「――永井鈴音です……。第1中に通っています……。これからよろしくお願いします……」
とてもか細い声だった。
しかし、声はとても透き通っていて、教室に涼しげな風が吹いたように感じた。
一瞬の沈黙の後、先生が「永井さん、ありがとうございます。席に戻ってください」と言い、永井さんは、席に戻っていった。
その後の授業は、どうなったかというと、僕は、彼女が、板書を一生懸命に書き写す姿や頬杖をついて授業を聞く姿に見惚れて、全く授業を聞いていない、そんな有様だった。
「今日の授業は、ここまでにします。次回、英単語テストを実施しますので、しっかり勉強するように」と言い残し、先生が教室を出ていった。
僕はというと、授業が終わったことにも気づかず、ぼーっとしていた。
「おい! まーこーとー! 聞こえてる!?」
その声で、僕は、ハッとした。
「なんだ、始か……」
「なんだとは、なんだ!! いつもなら、授業が終わった瞬間『始! 帰るぞ! コンビニでチキン食ってから帰ろうぜ!』って、ダッシュで帰るのに、今日は様子がおかしいから、声をかけてやってるのに!」
話かけてきたのは、藤川始。一応、僕と同じ第2中に通っていて、僕の親友だ。
「あー、悪かったね。今日の授業が退屈過ぎて、ぼけーってしてたら、授業終わってた」
こいつに、新しく塾に入って来た女の子に一目惚れしたなんて言ったら、からかわれるのが目に見えてるので、とっさに思いついたテキトーな返答をした。
「ふーん」
何やら、納得していないみたいだ。
「何かな?」
「いやー、今日塾に新しく入った子が綺麗だったから、うっかり見惚れて、授業聞いてなかったんじゃないかなーって思って!」とニヤニヤしながら、僕を見てきた。
――こいつ! なぜ!?
「あっ、その反応――図星……?」
おどけて、始が聞いてくる。
「――まあ、確かに綺麗だなとは思ったけど、そういうのじゃないから。はい、この話終わり!」
「へー……」
「ほら、帰るよ」
始は、納得していなさそうだが、これ以上話を続けると、面倒なことになる予感がしたので切り上げることにした。
***
始と一緒に塾を出ようとしたときに、同じクラスの女子たちと話す永井さんを見つけ、つい、目で追ってしまっていた。そして、あまりにも僕が、永井さんを見すぎていたのか――、
――あっ……。
永井さんと目があった。
すると、永井さんがこちらにやってきて……。
「えっと……私とどこかで会ったことありますか?」と僕に聞いてきた。
「あっ……。いやっ……。その……新しく入って来たばかりの子だからつい気になって……。気分を悪くしたなら謝るよ……」と不審な挙動を見せながら応答してしまった。
――ああああああああ! 終わった! 俺の初恋! 初日にして終わったよ! 絶対ジロジロ見てキモイって思われたよ!
すると、永井さんが口を開いた。
「別に気にしてないからいいよ。君の名前は?」
「僕!? えっと、霧崎真琴です――第2中に通ってます」
「霧崎君だね――ええっと、さっきも自己紹介したけど、永井鈴音です……。これからよろしくね」
――やばい、顔が熱い……。にしても、永井さん、顔ちいさっ!?
そんなことを考えている内に、よくわからないがなんとかなったことに気づいた。
――ありがとう……。恋の神様……。
「あっ……。えっと……こちらこそよろしく」
「それじゃ、そろそろお母さんが車で迎えに来るから――またね」
「あ、うん、またね」
そう言うと、永井さんは話していた女子たちの方に戻り、挨拶をして、塾を出ていった。
「おい、やっぱり永井さんに一目惚れしたんじゃ……?」
隣で僕と永井さんの会話を聞いていた始が話しかけてきた。
「だーかーらー! さっきも言ったけど、そういうのじゃないし、ただ、新しく入って来た子だから気になっただけ!」と若干怒り気味に答えた。
「あー、はいはい、悪かったよ。コンビニでチキン買ってやるから機嫌直してくれ」と始がめんどくさそうに言い放った。
「うむ、許そう」
「安直な奴だなあ……。お前は」
コンビニのチキン1つで機嫌を直してしまう、自分の安直さに思わず自分でも笑ってしまった。
――にしても、幸運にも、初めて恋をした初日に、その好きな女の子と短いながらも会話できたし、良い滑り出しなのでは!?
挙動不審になりながら応答したことなど完全に忘れ、人生初の恋に胸を躍らせながら始と塾から一番近いコンビニへと向かっていった。
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