第12話(4)お風呂で……(ムフフとは言っていない)

「な、なんで、みんながここに揃っているのよ⁉」


 アメジストの大声が響き渡る。


「お~さすが、プロの声優、声が響くね~」


「変なところで感心しないで!」


 アメジストがダイヤモンドに向かって声を上げる。


「正しい発声法が出来ていますね……」


「サファイア、冷静に分析もしなくていいから」


「でも、やっぱり凄いなあ~ねえ、アクアマリンお姉ちゃん」


 オパールがアクアマリンに話しかける。


「ふん……まあ、声は出てるが、ロックさには欠けるな……」


「ロ、ロックさ?」


 オパールが首を捻る。


「誰か私の疑問に答えなさいよ! なんで七姉妹が同じ時間に入浴しているの⁉」


「……さあ?」


「さあ?って! 私がこの時間帯に入浴するというのは共有スケジュールに上げていたでしょ⁉ まさか目を通していないの⁉」


「……もちろん目は通しましたが、アメジストお姉さんはこの時間帯ではなかったように思いますが」


「あ、サファちゃん、こっちはボク、オパール、アメお姉ちゃんはそっち」


「ああ、これは失礼しました……」


 オパールの指示に従い、サファイアはアメジストの方に向き直る。


「入力ミスじゃねえか?」


「そ、そんなイージーなミスをするはずがありません!」


 アクアマリンの言葉にアメジストが反発する。


「まあ、良いじゃないのさ~」


「……ダイヤ姉、貴女の仕業ですわね?」


「え? なんで?」


「こんなことが出来るのは貴女くらいしかいません。実行に移そうというのも……」


「そ、そんなことをして、ウチに何の得が……」


「何の得がなくてもするでしょう、貴女なら」


「偏見が酷くないかな?」


「まあまあ、良いじゃない、たまには姉妹水入らずの時間っていうのも……」


 トパーズが口を開く。ダイヤモンドが拍手する。


「さすが! トパ姉ちゃんは良いことを言う!」


「……水入らずって、朝夕ほとんど、顔を合わせているでしょう?」


「あら、そういえばそうね……」


 トパーズが頬を抑える。


「私が一人でいられるこの時間を大切にしているのは分かっているでしょう⁉」


「家族旅行に来たものだと思えば良いんじゃないかな?」


「所要時間5分の家族旅行ってなんなのよ⁉」


 オパールに対し、アメジストが声を上げる。


「広い風呂なんだ、おまえが離れれば良いじゃねえか」


「私はこの曜日はこの位置で入浴すると決めていますの!」


「め、面倒くせえなあ……」


 アクアマリンが天井を見上げる。サファイアが淡々と呟く。


「日々の生活ルーティンですね、これを疎かにしては、パフォーマンス低下につながってしまう恐れがあります……」


「同調しちゃったよ……」


 アクアマリンが呆れる。


「さすがサファイア! 違いが分かる子ね! ただ、トパ姉さんの方を向いているけど」


「ああ、これはまた失礼……」


「今サファイアが言ったように日々のルーティンというのは馬鹿に出来ないもので……」


「アメ、うるさい……」


 エメラルドがボソッと呟く。


「え?」


「いい加減観念して、静かにしなさいよ……」


「は、はい……」


 エメラルドの迫力に圧されて、アメジストは黙る。ダイヤモンドが口を開く。


「いや~しかし、こんなこともあるんだね~」


「ダイ、白々しい……」


「うん? な、なんのことかな?」


 エメラルドの呟きにダイヤモンドが首を傾げる。


「まあ、時間帯をいじったのは、アメとサファ以外は大して気にしないからいいけど……」


「けど?」


「……映像とか回してないでしょうね?」


「ま、まさか! そんなことするわけないでしょ!」


「アンタ、配信の為ならなんでもするじゃないの」


「だから偏見が酷いよ!」


「……信じていいのね?」


「うん」


 ダイヤモンドがエメラルドの目を見て頷く。もっとも湯気でよくは見えないが。


「かわいい妹を警察に突き出さずに済んで良かったわ……」


「は、ははっ……」


「一晩くらいお世話になった方が良いネタになるんじゃねえの?」


「ちょいちょい、マリン、それって笑えないから!」


 ダイヤモンドがアクアマリンに突っ込みを入れる。


「あ、あのさ……」


「? どうしたの、オパちゃん?」


 おずおずと口を開くオパールにトパーズが気づく。


「せっかくの機会だから、お姉ちゃんたちにも聞いてみたいなと思って……」


「な~に?」


「パイセン……山田さんのことをどう思っている?」


「「「「「「⁉」」」」」」


 オパールの問いに6人は――程度の違いはあれど――驚く。


(おおっ⁉ そういうガールズトークが出ることを期待していたけど、その口火を切るのが、まさかオパールとは! なんだかんだで遠慮しがちだった我が末妹が、いつの間にか――色んな意味で――大きくなって……)


 ダイヤモンドは感慨深げに頷き、オパールの側に回り込み、肩をガシッと掴む。


「きゃっ⁉ ど、どうしたの、ダイヤモンドお姉ちゃん?」


「ふっ……」


 ダイヤモンドは無言で右手をサムズアップする。


「えっ⁉ なになに、それはどういう意味⁉」


 オパールが戸惑う。サファイアが腕組みしながら答える。


「良いトレーニングパートナーだと思っています」


「ああ、朝はいつも一緒にランニングしているよね……」


「それだけではなく、サッカーの練習、チェスの対局、eスポーツの対戦……いつも非常に助かっています……」


「酷使し過ぎじゃねえか?」


「ハードワークを課していますわね……」


 アクアマリンとアメジストが苦笑する。


「……皆さんの都合が悪いようならば、スケジュールを見直しますが?」


「い、いや……」


「そういうわけではないですけど……」


(おおっ⁉ サファイアからの牽制! マリンとアメが封じられた! 論理的な攻め!)


「アメジストお姉ちゃんはどう思っているの? 一番反対していたよね?」


謎に盛り上がるダイヤモンドの横で、オパールが尋ねる。


「え……ま、まあ、台本の読み合わせに付き合ってくれるから助かっているわ。男性役のセリフを読んでくれるだけでも大分違うものだから。それに……」


「それに?」


 アメジストは先日、山田の背中に抱き着いたことを思い出す。


「な、なんでもないわ!」


 アメジストが湯船に顔をつける。


(おおっ! これはなんでもないことはない反応! なにかがあったのか⁉)


「? アクアマリンお姉ちゃんは?」


「え? そ、そうだな……なかなかロックなんじゃねえか?」


「なかなか好意的に思っているってことだね」


「な、なんでそうなるんだよ!」


「だって、ロック=良いってことでしょ?」


「そ、それは……まあ、そうだよ……」


「認めた、ロックだね~」


 オパールが笑みを浮かべる。


「う、うるせえな……トパ姉はどうなんだよ?」


「え? かわいいわよね……」


「「「「「!」」」」」


「それでいて、時々見せる男らしいところにドキっとしちゃうわ~」


(は、発言の真意がわかりにくい! さすがは大人の女性!)


「エメちゃんもそう思うでしょ?」


「えっ⁉ そ、そうだな、そういうこともないことはないかな……」


(こっちは比較的分かりやすいな……大丈夫か、長女)


「と、とにかく、色々とよくはやってくれてるからね、今後もしばらくは彼に家政夫を続けてもらうことで良いわね?」


「「「「「「良いです」」」」」」


 エメラルドの問いに6人が頷く。


「それじゃあ、そろそろ上がりましょう……」


「え、ちょっと待って! ウチにはなにも聞かないの⁉」


「ふふっ、ダイちゃんは昔から結構分かりやすいわよねえ~エメちゃん?」


「ああ、バレバレよ」


「ええっ⁉ そ、そんな……」


「へっ、顔が赤くなっているぜ」


(ま、まさかの事態⁉ しかし、こうなる前に彼のスケジュールを調整し、この時間に入浴するよう誘導したのに……鉢合わせして、『キャーッ! ガーネットさんのエッチッー!』的な展開を期待したのに、彼は何をやっているの? まさかのラッキースケベ属性なし⁉)


 ダイヤモンドは顔を両手で抑えているとき、山田はリビングでついつい居眠りをしてしまっていた。ある意味ではラッキーであった。

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