第7話(1)オールナイト配信の是非

                  7


 山田が長テーブルの短い辺に置かれた椅子に座る。彼の定位置としてお馴染みとなった。それを見て、エメラルドが声を発する。


「それでは……いただきます」


「いただきます」


 山田と向かい合う場所の椅子に座ったエメラルドに続いて、左右両側に三人ずつ座った六人の妹たちが食前のあいさつをする。昼食以外、朝食と夕食はよほどのことが無い限りは、七姉妹揃って食事をすることがこの家のルールの一つである。七人は山田が用意した朝食をそれぞれ口に運ぶ。


「……今日もとっても美味しいわね」


「ありがとうございます。あの、トパーズさんはいかがでしょうか?」


「……」


「トパーズさん?」


「え? あ、ああ、とっても美味しいわよ」


「……食事のメニューがまたちょっと違うようね? 特にダイヤの分……」


 エメラルドがテーブルの上に並べられた料理を見比べながら山田に尋ねる。山田は頷きながら落ち着いて答える。


「ほぼ徹夜あけなので、それに配慮してみました……」


「昨夜は大分お楽しみだったようね」


「いや、エメ姉ちゃん、言い方ってもんが……」


 エメラルドの言葉にダイヤモンドは苦笑する。


「とはいえ……」


「え?」


「夜通し部屋に二人きりっていうのは感心しないわね」


「い、いや、変なことはなかったよ⁉」


「分かっているわよ、それとも本当になにかあったの?」


「な、なにもないって!」


「冗談よ」


「な、生配信でそんなことするわけないでしょ」


「それにしてもオールナイト配信は、今後は出来る限り控えて欲しいわね」


「え~好評だったんだけどな~」


 エメラルドに対し、ダイヤモンドが唇を尖らせる。


「高校生をそういうのに付き合わせるのは感心しないわ」


「え~ネットちゃん、楽しかったよね?」


「ま、まあ、それはそうですね……」


 ダイヤモンドの問いに山田が頷く。エメラルドが頭を軽く抑える。


「楽しいとかそういう問題じゃなくて……」


「じゃあどういう問題?」


「騒音とかあるでしょう」


「どうだった?」


 ダイヤモンドがアクアマリンに尋ねる。


「まあ良いんじゃねえの? オレは全然気にならなかったぜ?」


「マリ、貴女は夜型人間だからそうでしょうけど……」


「この家は防音しっかりしているでしょ」


 ダイヤモンドが大げさに両手を広げる。


「トパはどうだった?」


「………」


「トパ?」


「え? あ、ああ、別に気にならなかったけど……」


「ふむ、じゃあ下の階は? サファ、うるさくなかった?」


「いえ、別に」


「そう……」


「それに……」


「それに?」


「配信内容も面白かったと思いますよ」


「あ、見てくれたんだ♪」


 サファイアの言葉にダイヤモンドが笑顔を浮かべる。


「全てを見たわけではないですが……過去一を争う出来ではなかったでしょうか」


「おっ、そこまで言ってくれるとは嬉しいね~♪ アーカイブ残しているから見てよ」


「空き時間に見させていただきます」


「サファちゃんがそんなに言うならボクも見ようかな」


 サファイアの隣でオパールも呟く。


「ぜひ見てよ、お友達にも宣伝して」


「オッケー、分かったよ」


「アメちゃんも見てよ」


 ダイヤモンドがアメジストに語りかける。


「まあ、気が向いたら」


「神回だからさ」


「身内が褒めているだけで大げさな……」


「SNSで発信してもらっても良いよ」


「声優がVTuberさんを褒めるというのもどうかと……」


 アメジストが困った顔になる。アクアマリンが笑う。


「商売上のライバルみたいなもんだからな」


「マリンもSNSで発信してくれて良いんだよ?」


「あん? 嫌だよ」


「なんでよ」


「VTuber見てますなんて、ロックじゃねえよ」


「なんじゃそら」


「……頭の悪い答えね」


「なんだと?」


 アメジストをアクアマリンが睨む。サファイアが口を開く。


「……ごちそうさまでした。それでは行ってきます」


「ほらほら、お前らも出かけろ」


 エメラルドが声をかける。


「は~い」


「行ってきます」


「……失礼します」


 オパールとアメジストと山田が出ていく。


「今日は曲でも作るか……」


「ネタを探さないとな~あ、マリン」


「なんだよ?」


「久しぶりに動画のBGM作ってくれない?」


「嫌だよ」


「え~なんでよ?」


「発注が曖昧なんだよ、『良い感じのよろしく!』とか……」


「そういうしかなくない?」


「曲作りをなめんな……」


 アクアマリンとダイヤモンドが部屋に戻る。エメラルドがトパーズに尋ねる。


「うむ……この問題もとりあえずはおいておくか。それで良いな、トパ?」


「………」


「おい、トパ」


「え? あ、そ、そうね……」


「どうかしたのか?」


「いいえ、別に。あ、食器片づけるわね」


 トパーズがエメラルドの分の食器も持っていき、流しで洗い物を始める。その姿を見て、エメラルドは目を細める。


「ふむ、手は打っておくか……」


 エメラルドが食後のお茶をすすりながら呟く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る