第3話(1)朝のランニング
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エメラルドに促され、山田が長テーブルの短い辺に置かれた椅子に座る。すっかり定位置だ。それを見て、エメラルドが声を発する。
「それでは……いただきます」
「いただきます」
山田と向かい合う場所の椅子に座ったエメラルドに続き、左右両側に座った六人の妹たちが食前のあいさつをする。昼食以外、朝食と夕食はよほどのことが無い限りは、七姉妹揃って食事をすることがこの家のルール。七人は山田の用意した朝食をそれぞれ口に運ぶ。
「うん、今日も美味し~い♪」
「へ~今日もやるね」
トパーズがほっぺたを抑え、ダイヤモンドが感心したように頷く。
「……食事のメニューが大分違うようね?」
エメラルドがテーブルの上に並べられた料理を見て山田に問う。一瞬緊張が走るが、山田は冷静に答える。
「朝はがっつりという方は少ないようでしたので、おかずは1~2品、多くとも3品にとどめました。それぞれの栄養バランスを考えてのおかずになっています」
「わざわざ作り分けたの⁉」
「はい」
「ふ~ん」
山田の答えにトパーズが満足そうに頷く。
「特にお二方……」
「え? ウチら?」
「オレらがなにか?」
「夜型の生活で朝はキツイとのことでしたので、消化しやすいメニューにしてあります」
「おお~深夜配信で疲れたウチには結構な気遣いだね~」
「これなら、飲み会明けでもいいわな……」
ダイヤモンドと、その左隣に座るアクアマリンが明るい表情になる。
「本来ならその乱れた生活リズムを見直すのが先でしょう……食事だけで良くなったら誰も苦労しないわ」
二人の斜め前に座るアメジストが呆れ気味に呟く。ダイヤモンドが首を傾げる。
「今日はまた大分絡んでくるね~?」
「絡んだつもりはないわ」
「チャンネル登録者数、トリプルスコア付けちゃったこと……怒っている?」
「怒っていないわ! 元々眼中にないわよ!」
「そのわりにはムキになるな」
「マリ姉には関係ないでしょ! 数字も伸びない人はお呼びじゃないの!」
「あんだと……」
アクアマリンがアメジストを睨む。アメジストも負けじと睨み返す。
「……やめろ、食事の席だ」
「! ちっ」
「! ふん……」
エメラルドが低い声でたしなめる。アクアマリンとアメジストは互いに目を逸らす。
「な、なんか、楽しい話題はないかしら~? オパちゃんはどう?」
「え、ボ、ボク⁉」
「昨日は夜遅くまで盛り上がっていましたね」
サファイアがボソッと呟く。アクアマリンが笑う。
「どうせゲームだろう?」
「ゲームの内容によるわ、タイトルは?」
「マリンお姉ちゃんもアメお姉ちゃんも決めつけないでよ、ゲームばかりやると思う?」
「思うぞ」
「思いっきり。って、中学時代はそんな感じだったじゃないの」
「ふふん、高校生になってボクは変わったのさ!」
「変わったってどういうところが?」
トパーズが尋ねる。
「良くぞ聞いてくれました。トパお姉ちゃん! ボクは昨日、勉強をしていたんです!」
「嘘だ~」
「いやいや、ダイヤお姉ちゃん、これが本当なんだって」
オパールは斜め前に座るダイヤモンドに語る。ダイヤモンドが首を傾げる。
「確かに昨日はゲーム誘ってもこなかったね……これはマジか?」
「マジだよ、マジ、ガーセンに付きっ切りで家庭教師してもらったんだから!」
「「「「「「!」」」」」」
「あ、あの……!」
山田が机の下でオパールの足を軽く蹴る。
「いてっ! あ、ああ、ガーセンもとい山田パイセンね」
「違う! 呼び名の問題じゃない!」
山田が慌てる。ダイヤモンドが笑い、アクアマリンが戸惑い、アメジストが顔をしかめる。
「お~もう部屋に上げるとは、やるね~オパ」
「ちょ、ちょっと早いんじゃねえか⁉ こういうのはもっと段階を踏んでからだな……」
「……破廉恥だわ」
「3人とも違うって! 勉強みてもらっただけだから!」
「……行ってきます」
釈明する横で、サファイアが食事を終えて出かける。トパーズが手を振る。
「いってらっしゃ~い♪」
「気をつけてな」
「はい……」
エメラルドの言葉にサファイアは静かに頷く。トパーズが声をかける。
「ほら~皆も早くご飯たべちゃいなさ~い」
「……はっ」
準備運動を終えた後、サファイアは走り出す。
「あらためて……」
「む!」
「おはようございます」
自分にいつの間にか並走してきた山田の姿に驚きながらも平静を保つ。
「……なんですか?」
「え?」
「オパを落とした次は自分狙いですか?」
「お、落としたって、人聞きの悪い、本当に勉強を教えただけですよ」
「てっきりエメラルド姉さんやトパーズ姉さんから突き上げを喰らっているのかと思っていましたが……」
「詳細は学校が終わって、帰ってからゆっくり話を聞くということで……」
山田は首をすくめる。サファイアはずれた眼鏡を直しながら呟く。
「それはご愁傷様です。短い家政夫生活でしたね」
「いやいや、本当にやましいことはなにもしていません」
「冗談ですよ、お二人もそれはちゃんと分かるでしょう」
「あ、ああ、そうですよね……」
「ただ、本人が良いからと言って、安易に女の部屋に入るのは軽率ではないでしょうか?」
「うっ……おっしゃる通りです」
「何らかの罰があるかもしれませんね」
「う~ん、そりゃ参ったな~」
「……」
サファイアは内心驚いていた、ジャージ姿で走って通学している自分に事も無げについてくる山田の走力に関してだ。サファイアは山田の方に顔を向ける。山田が首を捻る。
「どうかしましたか?」
「何故、並走しようと? 電車の方が楽でしょう」
「いや、常日頃、どれくらいのカロリーを消費するのかなと思いまして、食事メニューもそれに合わせて用意できたらなと考えているんですよ」
「⁉」
サファイアが驚く。二人は揃って学校に到着した。
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