第1話(2)誤解の果てに
ミディアムロングのボリュームある髪型で髪色がピンク色、ラフな服装の女性が端末片手に入ってきた。こちらも顔立ちが緑メッシュや水色ウルフ、紫姫カットとよく似ている。緑メッシュがため息交じりで注意する。
「……生配信は自分の部屋以外禁止って言ったでしょう」
「いや~痴漢行為を目撃された男が、お礼参りに凸ってくるなんて、そうそうないレアなイベントだって、これはバズるよ~」
「やめなさい……」
「いやいや、インフルエンサーとしてはこのチャンスは逃せないって~」
「……何度も同じことを言わせないで」
「あ、はい、ごめんなさい……」
緑メッシュの迫力にピンクミディアムはすぐに端末をしまった。水色ウルフは苦笑する。
「ビビるくらいなら最初からやるなよ……」
「ついついやっちゃうんだよね~」
ピンクミディアムは舌をペロッと出す。
「映像だけ止めて、配信はそのままっていうことはしてないわよね?」
「嫌だなあ~アメちゃんみたいにそんな腹黒なことしないって~」
「は、腹黒って! 計算高いと言って!」
紫姫カットが若干ムっとする。ピンクミディアムが山田の隣に座る。
「!!!!」
いきなり距離感を詰めてきたことに山田は驚き、うつむき加減になる。ピンクミディアムがそんな山田の顔を覗き込む。
「どれどれ、凸者くんのお顔は……結構イケメン寄りのフツメンじゃん♪」
「それ褒めているの?」
紫姫カットが冷ややかな視線を向ける。
「うん?」
「どうかしたのか?」
水色ウルフがピンクミディアムに尋ねる。
「この子の顔、どこかで見たような……」
「まさか、お知り合いだって言うの?」
「う~ん、やっぱ違うかな♪」
ピンクミディアムの言葉に緑メッシュはため息をつく。
「なによそれ……なんだか興が削がれたわ……やっぱり通報かしらね……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
山田が声を上げる。
「待たない」
「そ、そんな……」
「ただいま……」
「お姉ちゃんたち、何やっているの?」
「!」
そこにショートボブで若干青みがかった髪色の眼鏡の女性と、ストレートロブの少し明るいオレンジの髪色の女性が部屋に入ってきた。二人とも学校の制服を着ている。顔立ちは二人とも、緑メッシュ、水色ウルフ、紫姫カット、ピンクミディアムに似ている。
「あら?」
「あれれ?」
「二人ともお帰りなさい。もう済んだから、部屋に戻りなさい」
緑メッシュが声をかける。青ショートボブが首を傾げる。
「済んだ?」
「ええ」
「生徒会の人がうちに何か用?」
「! オパ、今なんて言った……?」
緑メッシュがオレンジロブに尋ねる。
「え? その人、ボクらの学校の生徒会の人だけど……」
「!!!!!」
山田が顔を上げて、オレンジロブを見る。青ショートボブが再び首を傾げる。
「そうでしたか?」
「もう、サファちゃんは学校のことに興味無さすぎ!」
オレンジロブが呆れる。緑メッシュが二人と山田を見比べて呟く。
「そういえば、同じ学校の制服ね……」
「生徒会が痴漢行為とか、世も末ね……」
「色々とストレスが溜まるんじゃない?」
「だからって許されるもんじゃねえよ」
紫姫カットが呆れ、ピンクミディアムが自分の考えを述べる。それについて、水色ウルフが反応する。青ショートボブが三度首を傾げる。
「痴漢行為……?」
「あっ! 思い出した! 今朝の駅のホームで!」
オレンジロブが山田を指差す。緑メッシュが呟く。
「そう、我が社の社員に痴漢行為をしてくれたのよ……」
「そういえば、そんなこともありましたか……」
青ショートボブが顎に手を当てる。緑メッシュが尋ねる。
「なに? アンタもその場に居合わせたの? 電車を使うなんて珍しいわね」
「そちらの彼は、痴漢を咎めたのです」
「!!!!!!」
山田の顔が驚きの後、パッと明るくなる。
「え? ボコボコにされたんでしょ?」
「本当の犯人が上手く逃げましたから、間違われたのです」
「ほう……」
「もっともその犯人も構内で駅員さんが捕まえたみたいですが」
「ふむ……」
「社員さんに詳細を確認したのですか?」
「……ちょっとバタバタしていたから」
「社員のケアも大事な仕事でしょう。キレ者女社長が聞いて呆れますね」
「う、うるさいわね……」
青ショートボブの言葉に緑メッシュがたじたじになる。その傍らでオレンジロブが満面の笑顔を浮かべて話す。
「よく分からないけど、良かった! 誤解が晴れたんだね!」
「いや、まだだ……」
「え?」
水色ウルフの言葉にオレンジロブが首を傾げる。
「昼間のラーメン屋での無銭飲食、その後どさくさ紛れの痴漢行為がある!」
「どういう状況ですか?」
青ショートボブが眼鏡の縁を触りながら首を捻る。
「みんな~そろそろご飯出来たわよ~」
「‼」
黄色いセミロングの髪をポニーテールにまとめたエプロン姿の女性が部屋に入ってきた。顔立ちは緑メッシュ、水色ウルフ、紫姫カット、ピンクミディアム、青ショートボブ、オレンジロブに似ている。
「あら、あなたは……」
「ちょうどいい! 昼間にトパ姉のバイトしている店で無銭飲食かました野郎だぜ!」
水色ウルフが山田を指差しながら声を上げる。黄色ポニーテールは首を傾げる。
「無銭飲食?」
「わ、忘れたのかよ⁉」
「ランチタイムは忙しいからねえ……」
「そ、それでも忘れるか⁉ 結構な事件だろ!」
「待って……ああ、思い出した、この子は無銭飲食の方を追いかけて捕まえてくれたのよ」
「なっ⁉」
「ありがとう、店長も助かったって言ってたわ」
「い、いえ……」
「そ、それでもどさくさ紛れの痴漢行為がまだある!」
「痴漢行為? ああ、勢い余って、通行人の女性とぶつかって転んじゃったのよね~」
「んなっ⁉」
「!!!!!!!」
山田の顔がさらにパッと明るくなる。黄色ポニーテールが笑う。
「誤解は解けたかしら?」
「まだよ……」
「あら?」
紫姫カットの言葉に黄色ポニーテールが首を傾げる。
「私たちのストアイベントでの痴漢行為がまだ残っているわ!」
「痴漢行為とは?」
「女性ファンのスカートの中を盗撮したのよ」
青ショートボブの問いに紫姫カットが答える。オレンジロブがびっくりする。
「ええっ⁉ そんなことをする人には……」
「人は見かけによらないものよ!」
「それなんだけどさ~」
ピンクミディアムが手を挙げる。紫姫カットが尋ねる。
「何よ?」
「そのニュースに興味を示したら、ウチのSNSにさっき詳細報告のDMが来てさ、どうやらこの子は犯人を取り押さえたお手柄少年みたいだよ~」
「えっ⁉」
「そうでしょ?」
ピンクミディアムが山田に問う。山田が頷く。
「は、はい、そうです……」
「なんだってアニメショップに?」
「妹がアニメファンなので、頼まれていたものを買いに行こうと……」
「そうなんだ、まあ、それはいいや。これで全ての誤解は解けたね」
「ちゃんと確認したのですか?」
青ショートボブが呆れた視線を紫姫カットに向ける。紫姫カットがぶつぶつと呟く。
「い、いや、ドタバタしていて……あのマネージャー、ちゃんと説明しなさいよ!」
青ショートボブが山田に向かって頭を下げる。
「……不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」
「い、いえ……」
「しかし……貴方自身ももう少し釈明すれば良かったのに」
「い、いや、綺麗な女の方が多くて緊張しちゃったと言いますか……」
「綺麗はともかく……何故男性がここに?」
青ショートボブが緑メッシュに尋ねる。全員の視線が緑メッシュに集まる。
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