第40話 想定外のスキル
受付を通り過ぎ、孫と一緒にダンジョンへ。
手で触れた限りでは難度は★★と割と高め。
出てくるモンスター分布は相変わらずスライム系列だが、青よりも厄介な緑、黒、赤が複数で。黄色に至っては奪い合いだった。
その横で光苔採取に汗をかく姿を見せるものもいる。
役割分担だ。戦闘に精を出すもの、採取に精を出すもの。
どれかが偏りすぎても良くないものなのだ。
「結構上手な人たちが多い印象だね」
「そうだねー。やっぱり慣れもあるんじゃないかな?」
「その様だ。失礼、少し横で作業をさせてもらっても宜しいかな?」
孫との会話を切り、光苔採取人へと声をかける。
まだ若い年齢の方だ。二十代を出るか出ないか判断がつかないが、VRでうまく行かずにリアルに逃げてきたとその顔に書いてある。
「ああ、どうぞ。貴方もお小遣い稼ぎですか?」
「そんなところです。では失礼しまして。よっと!」
スコップを取り出し、スキルを発動して壁に向かって突き立てる。
バガン! 破砕音と共にスコップを突き刺した範囲5メートル圏内を綺麗に五センチ同時に削った。 ポロポロと落ちる水晶を拾い上げ、肩掛け鞄にしまった。
「失礼しました。では美咲、違うポイントに行こうか」
「いやいやいやいやいや!」
孫を促してその場を立ち去ろうとする私へ呼びかける声。
何事かと思って振り返ると、先程光苔を必死に採掘してた子が幽霊でもみた様な顔で私をみている。
「どうしました?」
「どうしたもこうしたも、さっきのは一体なんです?」
「採掘からの派生スキルだよ。岩盤工事って言うんだ。グレードアップした武器で壁をいい感じに掘ると生えるからおすすめ!」
「え、教えて良いんですか、そのネタ。秘匿情報なんじゃ?」
むしろ聞いてきた方が戸惑うのが面白い。
「別に、全然良いんじゃない? 私がこの通り生い先が短い身だし、孫は私ににずに優秀だ。私なんかたいしたことしてないよ。だから情報もどしどし提供する」
「でもお爺ちゃん、シグレちゃんのパパは頭抱えると思う」
「秘匿する方がダメでしょうに。あ、ちなみに獲得スキルポイントは20と割と重いから入手するかどうかは君次第だよ?」
「そんな上手い話はなかった」
「そりゃあそうさ。私だって苦労……は一切してないけど、それなりにやり込んだ末に見つけた情報だからね」
「苦労はしてないんだ?」
「自分でも楽しんで手に入れたものだからね、それを苦労と言ってしまったらダンジョン探索なんてできないでしょ?」
敵わないな、と若者が手を上げる。
そこで私の名前を聞きそびれていたのを思い出したのか、自己紹介を始めた。
「ご挨拶が遅れました。僕は蜂楽満重。探索者になりたての新人です。どう顔見知りおきを」
「これはご丁寧にどうも。私は笹井裕次郎。孫のいるお爺ちゃんです」
「笹井? もしかしてこのダンジョンを最初にクリアした先駆者さんですか?」
「よくご存知で。まぁ運が良かっただけですよ」
「いえ、知らずとは言え不躾な考えを持ってしまったのも事実です。それだったら珍しいスキルを持っていたって不思議じゃありません」
何やら随分と腰が低い青年だ。
これはきっと親の教育の賜物だろうな。
素性を知るなり手のひら返し。
ロウガ君やギン君に通ずるものがある。
これは結構なお坊ちゃんだったりするな。
「本当にたいしたことはないよ。そうだ、良かったら一緒に潜ってみる? ずっと屈んでばかりも疲れるでしょう? たまには運と背筋を伸ばしてみるのも良い」
「ありがとうございます。ですがせっかくのお孫さんとの憩いの時間、お邪魔してしまって良いものか」
ほら、対応に育ちの良さが出てる。
普通はラッキーぐらいに済ますだろうに。
「良いよね、美咲?」
「うん、大丈夫。今日はキャディとお爺ちゃんのバトルがメインだし、私はくーちゃんのお世話があるから」
「と、言うことだ。別に矢面に立てだなんて言わないよ。光苔以外の仕事も体験してみたらどうか、と言う提案だね」
「でしたらよろしくお願いします」
「では今日は勉強していくと良い」
こうして私の探索に新しいパーティメンバーが加わった。
対峙するモンスターはスライム、ロックスライムと多岐に渡る。
「数が多い。こんな時は、こうだ“ネクストボール”」
肩幅に合わせて両足をどっしりと構え、地面につけたパタークラブの中心にエネルギー弾がセットされる。
「チェインクリティカルとコアクラッシュ、ハードショットもおまけして、シュート!」
ヒュパッ!
空を切るスイングから、出鱈目に天井や壁、床に跳弾するエネルギー弾。
エネルギーの塊なので壁にぶつかっても消滅せず、チェインクリティカルの影響で跳弾するたびに速度と威力が上がると言うおまけ付き。
たった一打でフィールドのモンスターが半壊になった。
それでも仕留めきれない場所へ、
「キャディ!」
「くわ!」
根を張るからの採掘アタックでロックスライムの甲殻を粉砕!
「こいつもおまけだ!」
ネクストボールに岩盤工事を付与したショット。
こっちは当たった場所に岩盤工事が付与される関係上、跳弾させずに狙い撃つ。
「ナイスショット!」
テンジョンにぶつかって崩落事故みたいになったけど、戦闘終了したのでヨシ!
ただ付き添いの蜂楽君はなんとも言えない顔をしてたな。
やっぱりダンジョン内でゴルフするのはおかしかったかな?
「なんと言いますか、いろんなイメージが音を立てて砕け散りました。ええ」
「お爺ちゃんは常識の枠に囚われないからねー」
孫の褒め言葉とも受け取れない助け舟に、確かに調子に乗ったことが認めよう。逆に言えば、固定観念に囚われすぎだと思うんだよね。
「そうは言うけど蜂楽君。ダンジョンのルールに我々人類が従う理由なんてある?」
「それはそうなんですけど……ダンジョンは結構我々にルールを強いて来ますよね? テイマージョブロスト事件とかもそうですし」
「あれは流石に擁護できないしねぇ。君、とても可愛がってる家族同然のペットを、知り合いに預けけたあと小遣い欲しさに売ったって聞いて許せる?」
「ぶっ殺します。そいつが泣いて詫びても追い詰めて社会的にも殺します」
例えを切り出したのに感情強めに答えを返してきた。
そして自分がいったいどれくらい歪んだ質問をしたのか自覚した様だ。
「はッ!? 僕は一体……」
「己の発言の歪みを自覚した様で何より。テイマーのエッグ売買は子育てを放棄するネグレクト親どころかそれを販売する外道行為だ。ダンジョンじゃなくたって怒るよ」
「言われてみれば確かに! それを理解せずにまんまとその思想に染まるところだった! 僕は自分で自分を許せない!」
自らの頬を殴り、もんどり打って倒れる蜂楽君。
随分と愉快な性格の子だね。
「おーい、大丈夫ー?」
「くわー?」
孫とキャディが地面に鬱憤をぶつけてる青年を憐れむ顔で見た。
それからしばらくして、正気に戻った彼は膝を払うと何事もなかったように合流する。なぜ自分の洋服がこんなに汚れてるのか理解に苦しむといった風だ。
「すいません、心を乱しました。もう大丈夫です、先に進みましょう」
「なかなかに難儀な人だね、君。VRで生きづらいんじゃない?」
「僕のことはいいじゃないですか、それよりも先を急ぎましょう」
さっきまでオドオドしてたのに、急に頼もしくなっちゃって。
これで戦闘も任せられたらいいんだけど、戦闘中は孫の後ろに隠れるのがねぇ。おかげで孫から白い目で見られてるよ。口だけの男という意味で。
まぁ得手不得手があって然るべしだし、無理強いするのも違うからね。
“ピロン”
そんな時、レベルが上がって20となる。
そこで目にしたのは……
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
<獲得可能スキル>
☆挑発Ⅰ【怒】付与
☆採掘Ⅰ【採掘取得品+1】
☆採取Ⅰ【採取取得品+1】
☆☆☆煽り芸Ⅰ【怒】範囲付与
☆☆☆☆☆ドヤ顔Ⅰ【憤怒】付与
★消火Ⅰ【殴・貫】火特効
★伐採Ⅰ【斬・貫】木特効
★水切Ⅰ【斬・貫】水特効
★剣閃Ⅰ【斬・貫】闇特効
★漆黒Ⅰ【斬・貫】光特効
★★★受信【ダンジョン外から電波受信】
★★★送信【ダンジョン外への電波送信】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「おっと、これは?」
「どうしたの、お爺ちゃん」
「いや、ちょっと」
なんとも反応に困るスキルが生えた。
表に出してしまっていいのか大いに悩む。
探索に必須であると同時に、ゲーム感覚で遊びにきそうな若者が溢れそうな危惧もある。それこそ配信を主にしたライバーなんかが迷惑行為なんてし出したら目も当てられない。
流石に表に出すのは法整備が整ってからだな。
それはそれとして身内に自慢しまくろう。写真とか持って行きたいと思ってたんだよね。
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