第29話 バードダンジョン④

 中から出てきたのは……くちばしがカモノハシの様な真っ平らになり、背中から植物の苗が生えた、ペンギンの様な水かきの付いた鍵爪を生やす卵だった。

 卵の色は虹色から完全に薄緑へと変化していた。

 属性は木に統一されちゃったかな?

 

 それはそれとしてキャディの姿に目を張る。

 毎度思うけど……なぁに、これぇ!


「なんというか、これまた珍獣が出てきたな。やっぱりこれ使ったほうがいいんじゃないか?」


 二重さんがさっき手渡した『キマイラソウル』をちらつかせてくる。

 いや、うちの子にそんなものは必要ない。

 私は容姿には拘らない主義なんだ。

 見れば種族にまた変更点が見られた。


 種族:鳥/植物


 うーん、これ。一般人が考えるペット枠から大きく外れた気がするぞ?

 まだただの植物の苗なだけだが、これがどう成長するか全く予想がつかない。

 でもどうして急に植物系が混ざったんだ?


「くわー(お父さん、見てみて!)」


 鳴き声が変わり、新しく生えた苗を見せつけてくるキャディ。

 これはこの子が欲してやまなかった特徴なのだろう。

 というか植物的な要素ってあったっけ?


「随分と見違えてしまったね。これが君のなりたかった姿なの?」

「くわ!(うん! お父さんと一緒に戦ってるとね、前の足は必要ないって思ったの。でもある程度動けるほうがいいから鳥さんの足を参考にしたんだ)」


 よりによってペンギンをチョイスしなくても。もっと他に居たでしょ?

 といっても翼もなしに空を飛ぶモンスターは参考にならないか。

 あれは手の代わりに足がものを掴める様に進化した姿だしね。


「しかし背中の苗はどんな物が出てくるのか気になるね」

「くわー(これはね、まだナイショ。楽しみにしてて!)」


 ナイショだそうだ。ちなみにくちばしの方はより採掘に力を入れられる様に進化したらしい。ツルハシから平鍬になったので、鋭さは無くなった代わりに一気に量を掘れる代物に変化した。

 農地の様に柔らかい土を掘り起こす感じに起用する様だ。

 私がスコップを多用してたのをみてたから、こんな変な進化をしたみたいだね。


 そして植物的要素は、多分だけどスキルの『根を張る』を多用してたからかな? 唯一使えるスキルだからって当たり前みたいに使ってたもんね。

 

<キャディは『吸収』のスキルを獲得しました>


 そして三段階目になって覚えたスキルがこれ。

 詳細を流し見れば、根を伸ばした先の属性を吸い取って自分のものにするらしい。ますます植物らしくなってきたな。

 これ、もうスライムドリンク必要なくない?

 まぁ、必要なくてもあげたくてあげてるんだけど。


 喉乾いた? じゃあお飲み。

 こんな感じで毎回与えてる。

 単純に喉を潤す要素がそれしかないわけだが。


 平鍬みたいなくちばしに浸すだけでスーッと中身がなくなるから不思議だよね。ダンジョン外でも普通に存在するし。

 いや、むしろモンスターがダンジョンから溢れ出てくる可能性も考慮して外での活動を見越しているのか?

 私の能力はパッシブが多くてあまり当てにならないな。

 唯一の武装はコアクラッシュくらいだ。日常での使い道はお掃除の際、頑固な汚れを落とす時に使われる。洗剤を使えって? それはごもっとも。


「とりあえず、欲しいものはこれくらいかな?」

「もう帰るのか?」

「一応主催主にコールしてからになる。現物をいくつか持っていくのが条件なので、それは持っていってもいいかね?」

「あんたの手柄だ。大量に持ち出さなきゃ、こっちから贈与するよ」

「なんというか、ここ数時間で随分と丸くなったね」


 あんなにツンツンしてたのが嘘の様に。


「うるさいなぁ、あんたに突っかかっても無駄だってわかっただけだよ。あたしだって実績は重視する」

「では私の行動は合格点を貰えたのかな?」

「これを評価しない奴がいたらあたしがぶん殴ってやるよ」

「それは心強いね。実は一人だけ思い当たる人がいてね。寺井グループの総帥の寺井欽治という人が私の功績を認めてくれないんだ。二重さんがとっちめてくれるかい?」


 特定の人物を晒すと、二重さんの勢いはぴたりと止まった。


「……流石にそんな大物相手に喧嘩売ればあたしの首一つで足りるかわからないな。というか、そんな大物と知り合いなのか?」

「ご近所さんだよ。これからも桜町町内会をご贔屓に」

「嫌ってるのか、慕ってるのかどっちなんだ?」

「慕ってるけどイケ好かない相手っているでしょ?」

「わかる様なわからない様な……」


 どうやら私と欽治さんの関係性は若い子には理解し難いらしい。

 人間ね、仲良しこよしだけでやっていけるほど単純じゃないんだよ。


「さて、ここでの助っ人としての役割もおしまいだ。それはそれとしてスタンプラリーの方もお願いね?」

「一応上には取り次いだが、上がそれを許可するかはわからんぞ? 探索希望者は増えてるが、警察官になりたいってやつは年々減っていってるからな」

「人手不足だからこそのコラボだよ。お堅い役職が率先して市民に協力を仰ぐことでイメージの緩和を図るのさ」

「あまり侮られるのは受け入れられないんだが?」


 まぁね。警察なんて怖がられて成り立つ商売だ。

 和気藹々過ぎても舐められると勘違いしてる人もいるだろう。


「だからってそれを態度で見せちゃダメでしょ。これから大企業が警察になり変わる新しい職業の投入をしてくる。先んじて動かなくてどうするの? 怖いイメージのまま進むと市民票を横から掻っ攫われるよ?」

「その企業ってさっき言ってた寺井グループか?」

「あそこは今はただの武器屋。でもそのノウハウで専用部隊を構築してるから遅かれ早かれだろうね。うちの娘婿もちょっとした製薬会社を経営してるが、そっち専門の探索者を募ってる。水面下でもう状況は動き出してるんだよ?」

「全部あんたの身内じゃないか」


 二重さんが私を飽きれた様な顔で見る。

 私のつるの一声で止められるんじゃないかと思ってるね?

 そんな権限を持ってると思われるのは少し誤解があるな。


「そうだね、情報源はそうだ。けど彼らも生活がかかってるからね、警察が可哀想だから事業進行は止めてあげてなんて言ったところで聞いてくれるわけもなし」

「爺さんでも難しいか?」

「無理じゃない? だってあの人達は私に関与せずにその地位についてるもの。私の話を聞いた上でGOサインを出すさ。何食わぬ顔をしてね。警察になり変わるつもりはないけど、ダンジョン事業には一枚噛ませてもらうって顔で近づいてくるよ。あの手の人達はまず外堀から埋めてくるから、市民票を獲得するのにまず注力する。ダンジョンスタンプラリーの協賛が警察か、一般企業か。どうなるかはその時になってからだね。あ、スタンプラリーが成功してから後乗りするのはお勧めしないよ。乗るか反るか。今ここで決めて」

「その件も含めて話を預かっていいか? あたし一人で抱えるには重すぎる」

「じゃあ話がまとまったらここにコールして。ダンジョン内じゃなきゃ出るから。あ、それとも主催主なら繋がるかな? これが彼のコール番号ね。私関連だと言えば話は通る様にしておくから」

「何から何まですまないな。正直、今の警察での活動には少し思うところがあった」


 二重さんが転職を考えてる様なそぶりで私に話しかけてくる。

 なぁに、私がなんでも相談に乗ると思ったら大間違いだよ?


「流石にそれ以上勤務先の愚痴を聞くのは怖そうだ。よそ者は退散させてもらうよ。キャディ、リュックに入れるかい?」

「くわー(大丈夫、根を張るから)」


 全然大丈夫じゃないよ?

 地面ならともかくリュックに根を張られたら繊維がズタズタになりそうだ。


 しかし意外なことにリュック全体に根を張ったキャディ。

 繊維に傷をつけず、根がクッションがわりになっていた。わぁ、便利。

 ただリュックからどうしても嘴が出るから、そこだけチャックから飛び出している。


「じゃあ、私はこの辺で」

「助かった。スタンプラリーの件は上に伺ってからになるが、それでいいか?」

「そうだね。まだ企画段階だからどれくらい進んでるかの進捗も合わせて連絡したい。ダンジョン課のコールなど教えてくれるかい?」

「だったらこれだ」


 二重さんから名刺を頂いた。リアルでの名刺なんて随分と久しぶりだ。

 今は電子決済でなんでも済ますからね。


「これはこれはご丁寧に。ちょうど私の名刺は切らしていてね」

「探索者ライセンスが名刺みたいなもんだろ?」

「それもそうだった」

「ついでだから押してけよ」


 そんな感じで鳥のマークの緑色のスタンプが押された。

 金色は初回クリア者にのみ贈呈されるので、仕方ないか。

 別に私はコレクターでもないのでね。


 鶯野を去り、電車内でエッグダンジョンの回転氏へとコールを繋ぐ。

 車内でやたらリュックを凝視されたが、きっと気のせいだろう。

 エッグダンジョンでも卵は売られてたし、そこまで珍しくないもんね、テイマーは。

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