第28話 バードダンジョン③

 うまく逃げきれたようだ。二重さん達はまだ来ない。

 しかし生まれてくる種族を決めてしまうなんて無粋な装備もあるものだな。

 普通に育てても十分成長の余地があると言うのに。

 キャディ、君はどんな姿で生まれてくるのかな?


 たどり着いた通路はレベル19をもってしても薄暗い闇が広がっている。

 キャディの成長値はさっきの戦闘で随分と伸びた。


 成長値:138/150


 お肉を三枚も食べさせれば次の成長が始まる。

 と、その前に。

 

「二重さん達がくる前に事前調査しておこうか?」


 さっきいい顔されなかったからね?

 自分たちの仕事を優先してもらっただけなのに、これみよがしに休憩したら冷たい視線を向けられた。

 こっちは助っ人くらいのつもりでいるのに、完全に仲間意識全開で厳しい目を向けてくるのはやめてほしいよね。もっと自分たちの仕事に敬意を払ってもらいたいものだ。こっちは生い先短いお爺ちゃんなのにね。


「キャディ、天井の採掘は任せても平気?」

「くえ(大丈夫だよ!)」


 うん、いい子。

 しかし掘っても掘ってもそれらしいものは出てこない。

 いや、違うな。何も出てこないのではない。

 さっきから変な匂いがする。

 これはそう、石炭……まずい!


「キャディ! 採掘中止!」

「?(え?)」


 ガッツン、ガッツンくちばしで天井を叩いてたキャディ。

 当然天井に負けない嘴の強度があるもんだから火花が散って同時に洞窟全体に閃光が散った。


 カッ

 真上から叩きつけられる極光。

 夜が真っ昼間に変わったような状況の変化。

 昼にしたって日光が強すぎるけど。


 にしても、ただ眩しいだけ?

 いや、違う。これが新しい素材なのだろう。

 石炭みたいな匂いでありながら、それは火花を散らすと燃えることなく周囲に閃光を与え続ける。


 なにかに使える素材か?

 あるいはこのバードダンジョン探索の鍵か。

 

 どちらにせよ拾い集めて肩掛けバッグに入れてみる。

 その前にこの明るい光の中で鑑定もしてしまおう。

 


┏━━━━━━━━━━━━━┓

 アイテム:閃光石

 熱を加えると眩い光を放つ

 合成可能【錬金術師】

 付与可能【付与術師】

┗━━━━━━━━━━━━━┛



 鑑定すれば何かの素材みたいだ。

 付与術師だなんて謎のジョブまで出てくる始末。

 まぁ、そういうのは詳しい人に丸投げすればいい感じに回してくれるでしょ。

 やはり持つべきものは優秀な人材ってやつだよね。


 しかし今回のこれは餌じゃなかったか。

 流石にこんな油臭いのは食べたらお腹壊すもんね。


「爺さん! これは一体なんだ!」


 ようやく二重さんがご到着した。


「暗いから適当に掘ってたら採掘した」

「……」


 ありのままを伝えたのに、なんでそんな疑いの視線を向けてくるのさ。


「取り敢えずこれ、データ抜いたから共有しとこう」


 メモ帳にもう一度書取り、破いて手渡す。


「良いのか?」

「私に使えそうもないしね。それに私は暇をつぶしに来ている。それが最終的に君達の実績、引いては手助けになれば私も嬉しいさ。で、さっきの色違いの水晶なんだけど、情報は出た?」

「ああ、交換条件か」

「別に帰り際に採掘させて貰えれば……いや、この後ボスに遭遇したら階層が丸々変わるか。ちょっと採掘しに行ってきて良い?」

「そんなに欲しかったのか?」

「情報をね。あ、そうだ。うちの地域でこんな催しやるんだけど、よかったらこっちの地域でもやってみない?」

「スタンプラリー? なんだそれは」


 え、知らないの?


「ログインボーナスみたいなのをトータルで何日まわれば最後に美味しい報酬もらえる形式のやつだよ」

「ああ、ああいうのか。ゲームから離れて長いからな」

「えー、リアルでは結構イベントで」

「VR勤務だ。リアルのことを持ち出してマウント取らないでくれるか?」


 えー?

 何でもかんでもマウント取ってるように取られちゃうの?

 まぁ知ってる前提で話を振った私も悪いか。


「要は各地のダンジョンは警察が管理するでしょ?」

「ああ」

「けどそのダンジョンを置く街は新たに集客する事業として町おこしも兼ねて動き出すという予想が出てる」

「こっちの気も知らずにか?」


 二重さんは重いため息を吐く。


「会社ってのは現場を知らずにニーズに合わせて資金投入するからね」

「頭の痛い話だな」

「いつだって苦労するのは実際に足を運ぶ営業さ。でも警察だってずっと所轄内だけで回していくのは無理が出ると薄々勘づいてるよね?」

「ああ」


 ロウガ君曰く、ダンジョン一つにつき所轄単位で運営する。

 世界中に何十個も同時に出没したもんだから、一つの県だけでも2、3個受け持つ。

 通常業務ををやりながらのダンジョン運営だ。

 人手がいくらあっても足りないだろう。わざわざそのために警察官に志願するって子も出てくるだろうが、規律の厳しい警察官より探索者になった方が楽と考える子も少なくない。

 同行他社が増えていくのが目に見えているのだ。

 今はまだ警察の一強で済んでいる。が、砂上の楼閣なんだよね。

 どうしたって国が軍隊を投入すれば全ての利益を持っていかれる。

 このままいけばジリ貧だ。


「実際うちの街は光苔採掘場所として有名になりすぎて泊まり込みの探索者が多い。警察はダンジョンの内部を管理してくれてるが、外の取り締まりの手は回ってないよね?」

「流石に寝床云々は探索者各自の判断に委ねられるな」

「そこに目をつける企業が出る。というか水面下で動いてるとみて良い。ここにくるまでの空き地が買収されてた。来週くらいには工事が始まるだろう」

「うちのダンジョンの利益を当てにしてか?」

「または近隣ダンジョンの最寄りのベッドタウンとして機能すれば投資分のお金の回収は見込めるさ」

「どっちにしろ、気分の悪い話だ」

「だからそんな大手が来る前に、自治体を丸め込む。これは警察が他業種に呼びかけてコラボすることで他企業に顧客を持っていかれないための策だ。実際にうちの自治体の警察関係者もそこを懸念して動き出した」

「で、これがその策か」

「そう。探索者っていうのはどうしたって移ろいやすいから、ずっと同じ場所にはいてくれない。でも情報は絶対に欲しいじゃない? だから情報はあまり表に出さないでこのスタンプラリーの報酬にする。もちろん探索者が拡散することも踏まえて小出しにしていくさ。あ、私はそのネタを集めるか勝ちに任命されてるから、あの色違いの水晶のネタはまだ表に出さないでね?」

「上には提出するが……」

「それがお仕事だししょうがないよね。こっちとしてはネットへの書き込みを控えてくれるだけで助かるよ」

「それくらいでよければ。まあ爺さんには世話になってるしな」

「じゃあネタ提供の為に水晶掘ってきて良い?」

「今回だけは目を瞑ってやる」


 ありがたく情報をゲットしてメモに書き込む。

 

「いやぁ、助かった。ボスが出ても恨みっこなしで進もうか」

「ボスを倒すと何か変わるのか?」

「変わるというか……階層が変わるからフロアも変わるよね? まずあの色違いの水晶が出るかわからないよね」

「つまり?」


 本当にわからないと言いたげに二重さんが目を細める。


「階層が進めば難度が変わる。それに応じてギミックも変わるから全く同じような状況は起きない。偶然私がその場にいてテイマー用の試練も受けなければ、色違いの水晶が出る可能性もあまりにも低い。後のこの油臭い石も出てこないかもしれない」

「よーし、一旦探索は中止だ。採掘に励むぞー」


 まあ普通にそうなるよね。

 攻略はいつでもできるんだ。

 私もすぐにクリアしたいわけでもない。


「よし、これで成長値150。キャディ、調子はどうだい?」

「くぇ(背中がむずむずするー)」

「何か餌をあげてるように思えたが、それは何をしてるんだ?」

「ちょっとした儀式だよ。テイマーはモンスターに経験と餌を上げることで成長を促すことができるんだ。孵化は四回。今回は三回目だ」

「へぇ、みてて良いか?」

「仕事はいいの?」

「少し働きすぎだ。休憩だよ」

「ならお飲み物でもどうぞ」

「みたことない容れ物だな」

「ダンジョンドロップ品だしね」

「おい、サラッととんでもないものを渡すな!」


 悪いけどクーリングオフは受け付けてないんだ。


「大丈夫、情報は出てる。というか渡したから多分出てる」

「それ絶対出てないやつだぞ……まぁいい。口に入れてやばいものは渡さないだろう。ん、コーヒーの味がする……」

「不思議だよねぇ、なんでこっちの植物の加工物を再現できてるんだろ」

「それを突っ込み始めたらキリないだろ。お、卵割れんぞ。縦かよ」


 ピシリ!

 と縦にヒビが入り、左右にパッカーンと割れる。

 中から出てきたのは……

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