第26話 バードダンジョン①

 欽治さんのダンジョンに足を向けると、本格的に虹色の鉱石を出土させるのに忙しいからと門前払いを食らった。

 ちなみにテイマーダンジョンからの宝石のかけらの出土はない事をここに記しておく。


「どこか開拓の進んでないダンジョンとかありますか?」

「そうだなぁ、遠距離攻撃的な意味で一向に探索が進まない場所なら知ってるよ」


 ロウガ君から一筆認めてもらい、私は件のダンジョンへと赴いた。

 鶯町と呼ばれる梅の花が表通りに植えてある。

 駅から五分の最寄りの場所に、ダンジョンがあった。


「ここか。すいませーん」

「はいはい。バードダンジョンへようこそ。観光ですか? それとも探索でしょうか?」


 第一声から観光だなんて言葉が出るくらいには開拓が進んでないのは本当のことなのだろう。


「実はわたしはこういうものでして」


 ライセンスを見せつつ、ロウガ君から預かった手紙を添えた。


「あ、お噂はかねがね。待っててください、今調査員を連れて参ります。二重さーん」


 受付の女性が奥へ引っ込むと、一緒にコワモテの女性調査員が姿を現した。


「あんたが噂の先駆者だって? 年寄りじゃないか。本当に使い物になるのか?」

「追い先短い年寄りだからと言って侮られる言われはないよ。そこら辺は実際に動いて確認して欲しい」

「ちょっと、二重さん。せっかくお手伝いしてくださるっていうのに! ごめんなさい、この子悪い子じゃないんですけど。口の聞き方知らなくて」


 よくそれで警察官になれたよね。

 私の知ってることより基準は緩くなったのかな?

 もっと規律は厳しいと思ってた。


「笹井です。先駆者だなんて呼ばれてるけど、偶然が重なった結果だよ。よろしくね」

「フンッ、せいぜい足は引っ張るなよ、爺さん!」


 なんだか嫌われてるなぁ。

 そりゃあ若者のスペースに老人が来たら疎外感を感じるだろうけどね。


「くぇ(嫌なやつ)」

「君も嫌うほどの相手かい?」

「くぇー(あなたほどでもないですけど)」


 反応が冷たい! 心が凍りつきそうだ。

 神保さんめ、絶対に許さないぞ!

 あの人なんで私を目の敵にしてるんだろ。特に何かした覚えはないんだけどなー。

 

 取り敢えずご一緒することになった。

 早速接敵するも、相手は鳥なのに夜目が利く厄介なタイプ。

 天井付近を旋回し、急下降と同時に攻撃。

 ヒットアンドアウェイですぐに上空に戻るという非常に厄介な性質を見せた。


 まぁ天井付近を飛んでる時点で私たちの敵じゃない。


「キャディ、あれに近づける?」

「くぇ(時間さえもらえれば)」

「時間くらいは稼ぐさ」

「何をするつもりだ?」

「私とキャディの連携攻撃さ」

「???」


 二重氏は理解ができないという顔をしていた。

 私はグレードⅤのナイフを取り出すと壁を削って細工を始める。

 ボールを掘り出すのもなれたものさ。

 気持ち深く掘ったのはかけらが採掘できないかと思ってのことだった。


「くぇ(動き止めたよ、早くして)」

「でかした」


 私は天井に磔にした鳥型モンスターに向けてパターを打ち上げるように鋭く放った。

 もちろんまっすぐ飛んでくれる保証はなく、跳弾しながら旋回していたもう一方の鳥に当たる。


「ぐげぇ!」


 急所に当たったのか再び飛び上がる余力もないようで、調査員がとどめを刺しに行く。


「くぇ(ヘタクソ)」

「次こそ当てるよ。それ!」


 結局狙った的に当てるのはパターだけじゃ難しい。これならサンドショットも持ってくるべきだったな。

 ドライバーは……こんな狭い空間で撃つのに向いてない。

 チェインクリティカルの恩恵でただでさえ出鱈目なダメージが出るのに、オーバーキルも見えてくる。

 私はここで無双するつもりはない。ちょっとお手伝いするだけなのに周囲の視線が早速痛いのはどういうことだろうね?


「爺さん、よくあんな暗闇で的に当てられるな」

「え、狙ってないよ? むしろ狙った場所に行かなかったからね。跳弾でクリティカル率が上昇して、流れ弾が当たって運良く倒せただけさ」

「おい、そんな危ない攻撃だったのか、アレは!」

「実際に君たちに危険はなかったでしょ? なら、それで良いじゃないの」

「このジジイ……だから第一世代ってのは嫌いなんだ」


 全くもって話が通じないよね。

 まぁ今日初めて会ったばかりの他人だし、すぐには仲良くなれないよね。


 バードダンジョンはテイマーダンジョンを彷彿とさせる造形だった。

 一つのフロアは広いが、そこから先の通路を出すにはフロア内のモンスターを全滅させる必要がある。

 身に見える敵だけが全てではないと知ったのは次のフロアに入ってからだった。


「ここは随分と冷え込むね」

「あたしだってくるのは初めてだ。悔しいが爺さん、あんたのおかげで先に進めたからね」

「そう気を遣わなくて良いよ」

「フン」

「くぇ(来ます、前方)」


 キャディが上ではなく前から来ると聞いて体勢を立て直す。

 足元が妙に滑ると思ったらアイスバーンのようになってるではないか。


 そしてその上を滑ってきたのは……


「ペンギン!?」

「クワーーーッ」


 群れで、ロケットのような速度で突っ込んでくるペンギン達。

 何これかわいい、じゃなくておっかない。

 市場で冷凍されたマグロが滑ってくる時より恐怖を覚えた。

 そのほかに上空を旋回する鳥型モンスターも健在だ。

 なのでここは仕方なく、


「そぉい!」

「おい、地面を掘ってどうする! 気でも触れたか爺さん」

「まっすぐ滑れないようにしてやれば、敵も勢いを増すことはない。表面がツルツルだからこそ、速度が増すんだ」

「だから凹凸を作って減速させると?」

「それもあるけど半分は目眩しだ。何か派手な行動をした相手に敵は注目するでしょ? その分別働隊への注意が散漫になる」

「あっ!」


 すでに上空に根を張るで移動していたキャディを見上げ、自分がヘイトを取る本当の理由を知った。


「爺さん、無理だけはするなよ?」

「引き際は心得ているさ。そしてビンゴ」


 床からはエメラルドのかけらが出土した。

 先程の鳥型モンスターは肉をドロップしなかったから、次こそはお肉をドロップさせるからね。


 ペンギン達は突如足場がトゲトゲになって、自らダメージを受ける形となって減速する。

 そこへ追撃のフルショット!硬い嘴がパターによって強打された!


「グペェ!?」

「ダブルスラッシュ!」


 チェインアタックの大切さを知っているのか、二重さんの攻撃がさらに野良ペンギンを追い詰める。


「くぅえ!(この、良い加減に倒れなさい!)」


 上空では天井に磔にしたモンスターを、キャディが自慢の嘴で突いていた。

 そういえばまだ武器強化がまだだった。

 壁から宝石のかけらこそ出なかったが、普通に光苔はあったので回収してたんだった。


 戦闘はつつがなく終了した。

 が、新しい通路は開かない。


「おい、今ので全部じゃないのか?」

「私だって初めてここにきたんだ。モンスターを倒すだけじゃダメなのか? ほかに何かギミックがある。二重氏、君も考えてくれたまえ」

「言われなくたってやるっつうの」

「よし、では私はキャディに餌の時間だ」

「じゃぁ、このジジイ!? あたしらにだけ調査させようってのかい?」

「だってそれが君たちの仕事でしょ? 今日私はお手伝いに来たんだ。それとも私がギミックを解明外に情報漏らして良いの? 君たちのお給金に影響すると思って譲ってあげてるんじゃないの。ほら、行った行った」

「くそ、後で手伝わせつからなー?」


 遠のく二重さんの声を聞きながらキャディの性格を温和に戻す。

 

「くえ(お父さん、お肉食べたい)」

「よーしよし。今鶏肉をたくさん食べさせてあげるからなー?」


 やはりテイムモンスターはお利口さんくらいな性格でちょうど良い。

 クールすぎるのはアニメのキャラで十分さ。

 実際にお付き合いすると結構心にダメージが入るんだよね。


 ついでにくちばしのグレードもⅢまで上げておいた。

 ちょっと嫌がってたけど、君が活躍すれば私も嬉しいからと言いくるめて鍛えてあげた。

 採掘以外にも活躍させたいと思うのは親心ってもんでしょ?

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