チュートリアル
第04話 家族団欒
帰宅すると、いつになく騒がしい末娘の由香里がなにやら熱心に情報を漁っていた。
朝方のダンジョンアタックが終わる頃にはすっかりと日は宙天し、しかしスライムコアを食していたのでそこまで空腹ではなかったのも幸いした。
「ただいま。どうしたの、そんなにデバイスに齧り付いて」
「あ、お父さん! さっきの天の声聞いてないの? もう世界中大騒ぎだよ?」
「寺井さんとパターゴルフに夢中になってててね(叩いていたのはボールじゃなくてスライムだけど)」
「もう、相変わらず事件の外にいるんだから。でも大きな地震あったのは知ってるでしょ? 町中で避難勧告が出る規模よ?」
「地下シェルターの出番が出た訳だ。美咲たちは?」
「一応学校よ。VR学園だから地震さえおさまれば問題なく授業になるのが強み、とはいえパニックになった子はいるだろうから休む子も多いでしょうね」
「ゲームでそういうパニックにも慣れてるだろうに」
「現実ではそうもいかないのよ。私達の肉体はそこまで強靭にできてないでしょ? お父さん、ステータスって出せる?」
「うん? ゲームじゃないのに出せるのかい?」
欽治さんと帰る前に一度口裏を合わせて正解だったな。
今日起きたことは二人だけの秘密にしようと、彼らしくもない提案に乗ったのも記憶に新しい。
「それが出せるようになったみたいなの。他人のは見えないらしいから、念じるだけでいいのだけど」
「あ、ほんとだ。出るね」
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ユウジロウ・ササイ
レベル12
称号:スライムキラー、ジャイアントキリング
スキルポイント:★★★★★
☆☆☆☆☆
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<アイテム・情報>
◯金塊【スキルグレード+1】
◯金塊・大【スキルグレード+3】
◯光苔【武器グレード+1】
◯スライムコア【属性付与・食欲解消+15%】
赤【火/林檎味】青【水/檸檬味】
緑【木/抹茶味】黒【闇/珈琲味】
金【光/バナナ味】
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<武器>
【火】パタークラブ【斬・打】Ⅱ
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<スキル>
コアクラッシュ【斬・壊】Ⅲ
草刈り【斬】範囲Ⅰ
クリーンヒット【打・貫】Ⅰ
食いしばり【減】Ⅰ
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<獲得可能スキル>
☆挑発【怒】
☆☆☆煽り芸【怒】範囲
☆☆☆☆☆ドヤ顔【憤怒】
★消火Ⅰ【殴・貫】火特効
★伐採Ⅰ【斬・貫】木特効
★水切Ⅰ【斬・貫】水特効
★剣閃Ⅰ【斬・貫】闇特効
★漆黒Ⅰ【斬・貫】光特効
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ボスのジェネラルゴールドボールを討伐した時の称号まで合わせて出た。
ボスだから逃げないし、欽治さんとこぞって殴り倒したものだ。
間取りが広いと言っても、道中の細い一本道に比べてだから袋の鼠なのだ。
二人して金塊・大を入手したのはいい思い出だ。
「どんな感じ? 肉体の強度とか」
由香里は自身が現実世界から引き籠るまでに至る体験をしているからこそ、外に出るのが怖いのだろう。
第一世代と違って、第二世代のこの子達のホームグラウンドはVRだ。
孫の美咲たちはVRしか知らないまである。
なので会社勤めをリアルで過ごしてきた私の率直な感想を聞きたいのだろうね。
「そうだねぇ、今日のコース周りはすこぶる調子が良かったよ。柄になくゴルフバッグを持ち回って移動したくらいだ」
「キャリーカーもなしに?」
「普段は勝手に付いてくるそれらに任せるんだけどね。不思議と疲れなかった」
「なるほど、秋人さんにも聞いてみるわ。それよりお腹は空いてない?」
ちょうどお昼ご飯の支度をしていた娘は、私の好物を掲げて提示した。
私は二つ返事で頷いて、手洗いとうがいを徹底する。
こうも徹底するのは愛する家族の身の安全を守るためだ。
第一世代の私に取ってはなんてことないが、除菌室で育った娘や娘婿、孫娘にはそれが通用しないからね。1番上の娘の元で暮らしている妻からも釘を刺されたものだ。
昼食後、娘に習って情報を仕入れる。
早速外に出て歩いたという報告が何件かある。
第二世代〜第三世代の中間に当たる二十代の若者が中心になり、コミュニティを築いたようだ。
人の手が行き届かなくなったリアルは、少し住宅街を離れただけで魔境のように見えるのだろう。
ファンタジー世界や空想で作り上げたVRに親しんだ世代故に、捉え方が少し変わっていて面白い。
まるで攻略記事か何かのように第一世代の築き上げた偶像をバッグに記念撮影をしていた。若干我が物顔である。
「何か面白い記事でもありましたか?」
「あ、秋人君。会社は?」
「緊急家族会議の為、早退しました」
「それは大変だ。私にも何か手伝えることがあるかい?」
「お義父さんはそこにいてくれるだけでいいです。由香里、美咲は?」
「まだ学校よ。そろそろ帰ってくる頃だと思うんだけど」
VR学園はお腹が空いても給食は出ない。
お腹を膨らませるのは現実でしか出来ないためだ。
その為、昼食時には顔を見せるのが社会の基本。
特に下条家では食事の際、全員揃って“いただきます”をいうのがルール。
うっかり朝食を抜いた私が言えることではないけどね。
「ただいま! お父さん、お母さん、おじいちゃん! 聞いた? ダンジョンだよ、ダンジョン!」
学園でもその話題で持ちきりだったのだろう、ゲームで培った運動神経を活かすのは今しかない! と言わんばかりにワクワクした表情を見せる美咲。
今日の授業のことを聞いても、多分あまり頭に入ってないだろう。
「まずお手洗いしてきなさい。お昼ご飯を食べたらお父さんからお話があるそうよ」
「分かった!」
きた時と同じように、ダダダッと廊下を爆走する孫娘を微笑ましく見送り。
同じように帰ってきていただきますをご一緒する。
娘の食事はまだなので、私は食後の情報収集に勤しんだ。
情報の精査を終える。
どうやら早速大手の企業がダンジョン探索のための装備品の製作に手をつけたようだ。寺井電気も言わずもがな参戦している。
欽治さんが社長を務めるグループの一つだ。
あの人、アレで大会社の社長なんだよね。
会長職に居座って、息子さんにあれこれ指示出しをするパワフルおじいちゃんだ。本人は引退する気満々なのに、息子さんの方が縋り付いてきて会長の席を用意されたと言っていた。
なまじ優秀なもんだから後続が育ってないそうだ。
そして食後の緊急家族会議では……
「週末ピクニック?」
「うん、我が家でも週に一度。日曜日くらいはダンジョンに行っておこうという計画を立てておく必要があると思って」
本日はまだ月曜日。
ワクワクする孫娘はそれを聞いてスン、と目が死んだ。
「楽しみにしててくれたんだろうけど、その日まで先延ばしにする理由はいくつかある。まず、リアルダンジョンの危険度が未知数だということ。会社勤めの僕や、学生の美咲はそちらを優先するのは建設的ではない。ゲームと違い、命の保証はないんだ。分かってくれるね?」
「はぁい」
やや重たい空気。
「でも、それ以外理由もあるのでしょう?」
由香里のナイスアシストで、秋人君は水を得た魚のように語り出す。
「勿論さ。それが武器防具の調達ができないという懸念点だ」
「あ、そういえばそうだね。あたし現実で武器持ったことない!」
「僕だってそうさ。だから期間を置く必要がある。ゲームで得た技術をフルに使って、今はどんな武器がダンジョンに通用するかの試用期間だ。安全性が確保されるまでは勝手に行っちゃダメだよ?」
「そうだね、分かった!」
孫娘の元気のいい返事の横で、ゴルフクラブ片手に突撃した私たちはどれほど無謀だったのかと、今になって怖くなってきた。
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