第03話 アップデート

 あれから、洞窟のあちらこちらでスライムと遭遇した。

 スライム、と言っても色が違えば攻撃方法も多彩。

 青いスライムはブルージェル。赤いスライムはレッドゼリー。

 黄色いスライムはゴールドボール。黒いスライムはダークジュレ。

 緑のスライムがグリーンポッド。


 名前も似てるようでみんな違う。

 一つ名前的に危ないものもあるが、なぜイエローボールにしとかなかったのか疑問である。


「緑の奴は魔法を使ってきますので気をつけて!」


 スライムの中でも1番厄介なのがこのグリーンポッドだ。

 自身を中心に円を広げ、その中に入った対象の足元に根を広げて縛り付けてくる恐ろしい拘束魔法。

 拘束時間は10秒と短いが、その間無防備にならざるを得ないので特に注意が必要だった。


 なんせこのグリーンポッド、やたら群れて現れる。

 なんだったら複数のスライムと混ざってくるものだから、どうしたって混戦になった。

 だが、こういう時にこそ役に立つのが我らが欽治さん。

 振り回すは【殴】効果だが、範囲攻撃なので魔法の拘束を解くことが可能なのだ。

 そして私のコアクラッシュはスライム特攻。

 態勢を崩したグリーンポッドを一匹づつ始末した。

 あとは金塊を落とすゴールドボールを倒せば一件落着。


 しかしこのゴールドボール、倒されそうになると即座に逃げ出す特性を持っていた。運良く倒して得た金塊は、スキルのグレードを上げるための素材。

 これによって私はコアクラッシュのグレードをⅢまで上げており、スライム系統のワンターンキルを可能としていた。


「ゴールドは絶対に逃さないで!」

「この、すばしっこい!」

「魔法があればいいんですけど!」

「ゴルフクラブを振り回してる限り無理でしょうね」

「そこ、わかってることをいちいち口にしない!」

「ああ、逃げられた!」


 戦闘終了。

 上がるレベルアップのメロディ。

 増える獲得可能スキルの中に並び立つ物理攻撃群。

 私達の探索はまだまだ始まったばかりである。

 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 ユウジロウ・ササイ

 レベル9

 スキルポイント:★★★

         ☆☆☆☆

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 <アイテム・情報>

 ◯金塊【スキルグレード+1】

 ◯光苔【武器グレード+1】

 ◯スライムコア【属性付与・食欲解消+15%】

 赤【火・林檎味】/青【水・檸檬味】

 緑【木・抹茶味】/黒【闇・珈琲味】

 金【光・バナナ味】

┣ーーーーーーーーーーーーーーーーーー┫

 <武器>

【火】パタークラブ【斬・打】Ⅱ

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 <スキル>

 コアクラッシュ【斬・壊】Ⅲ

 草刈り【斬】範囲Ⅰ

 クリーンヒット【打・貫】Ⅰ

 食いしばり【減】Ⅰ

┣ーーーーーーーーーーーーーーーーーー┫

 <獲得可能スキル>

 ☆挑発Ⅰ【怒】

 ☆☆☆煽り芸Ⅰ【怒】範囲

 ★消火Ⅰ【殴・貫】火特効

 ★伐採Ⅰ【斬・貫】木特効

 ★水切Ⅰ【斬・貫】水特効

 ★剣閃Ⅰ【斬・貫】闇特効

 ★漆黒Ⅰ【斬・貫】光特効

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 

 ドロップしたコアを拾い、空腹を満たすべく口に運ぶ。

 スライムコアは、本当は武器に属性を付与することができるのだが、お腹に入れることで空腹も満たせる魔法の食材。

 色によって味も違うので、飽きることはないのも特徴だ。

 そしてそこらへんに落ちてる光源の一つ、光苔も強化素材になり得た。


 最初は光源にするべく集めてたんだけど、例の如く画面がポップアップして、強化素材であることが判明した。

 まぁ、レベルが上がるたびにダンジョン内の奥行きが見えるようになったから問題は無くなったんだけどね。


 まるで肉体がダンジョンに適応したみたいな感覚である。

 ちなみに特攻系のスキルは、武器に属性を付与して相手を殴ってたら勝手に生えた。

 わざわざ取ってないのは、普通に付与して殴った方が早いから。


 因みにスキルポイントの☆は10個貯まると黒塗りになる。

 そして始まりのダンジョンの横についた☆の数は★☆☆☆☆。

 これ、普通に難易度五段階のうちの1段階くらいに思ってたけど、スキルポイントと同じトリックなら14とかになるのかな?

 とはいえ憶測の域を出ない。

 気のせいってこともあるしね。


「僕たち、随分ここに馴染んできましたけど、最深部に近づいてるんでしょうか?」


 抹茶味のコアをもぐもぐしながら欽治さんが呟いた。


「さぁ? いろんな色のスライムを見ますが、どこがゴールかも知らないですし」

「そういえばそうですね。帰ろうにもどこを歩いたかも覚えてません」

「マッピングが得意な人を連れてくるべきでした」

「あの人は引退もせずにAWOにひきこもってますよ」

「でしょうね」

「いつまでも若くないのに」

「それは言わない約束という奴です」


 私の同級生である長井君はゲーム内でも頼れる相棒だった。

 情熱的な一面を持ちつつ頑固者。その癖変人と来ているので周囲を振り回す事においては右に出るものはいない。

 そんな彼がようやく夢中になれる居場所を手に入れた。

 親友だからこそ、応援してやりたい気持ちもあるのだ。


「と、今まで以上に大きな間取り。これはひょっとするとひょっとしますかね?」

「どうやらビンゴのようです」


 大きな間取りの中央には、一際大きなスライムが鎮座していた。

 私達は武器を握りしめ……それに向かい合う。


 ◇◇◇


 同時刻、世界を大地震が襲っていた。

 集合マンションに暮らす一般人は避難勧告の出されるアナウンスに従って地下シェルターへと誘導される。

 しかしそこで人々が見たものは……VRの世界と同様に動く肉体と、レベルの表記されたステータス画面だった。

 訳のわからない人々はすぐさまSNSにアクセスし、情報を交換し合う。


 そこで一つの情報がもたらされた。


 それは現実世界に起き異変にまつわる事象であり、なんら確証のないデマ。

 この世界にもゲームのような異世界的空間ができた。

 空気中に蔓延するウイルスに打ち勝つ抗体ができたのだ。


 根拠のないデマだと判断するにはあまりにも都合が良すぎた。

 そして、人々の脳内に鳴り響くアナウンス。



<始まりのダンジョンがクリアされました>


<世界がグレードアップされます>


<世界にレベルが継承されました>


<世界にスキルが継承されました>


<世界にダンジョンが出現しました>


<世界に魔法がアップデートされました>


<ダンジョン内に無数の資源がポップしました>


 その信じられない脳内アナウンスは一夜にして全世界に広がり、人々はダンジョンを求めて旅立つのだった。


 そして始まりのダンジョンをクリアしたたった二人の老人は……


「いやぁ、驚いた。最後にあんな仕掛けがあるなんて」

「出口を探す心配はありませんでしたね」


 現れた魔法陣から、パターゴルフ場へと無事帰還していた。

 手には強化済みのパタークラブと、幾つものスキルを携え日常への帰還を果たす。


 だから世間が大ダンジョン時代に移行したことを知らず、お茶の間でその発表を聞いて、思いっきりお茶を吹き出すのであった。

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