"恋愛恐怖症"の俺が、もう一度人を好きになる方法。

いろいろ

第1話 恐怖症でも恋がしたい

トイレからクラスに戻ってくると、クラスの陽キャ男子たちが俺の机を占拠していた。今月に入って三回目だ。


どうやら俺の席は陽キャグループにとって恰好のたまり場らしい。

何人かの男子が机を取り囲んで口うるさくしゃべっている。


俺はそのまま席の前に近づくと、グループの一人に声をかけた。


「そこ、俺の席なんだが」

「うおっ、そうだったっけ?ごめんな~」


ワックスで頭を固めた陽キャその1は、そう言って大げさに肩をすくめてみせた。

俺が無表情のまま手で追いやると、そいつはそのまま近寄って何事かを囁いてくる。


「で、たちばな。お前河合さんとは今どうなのよ?」

「は?」

「いや、そんなすっとぼけなくてもいいだろ。どこまで行ったんだ?キス?それとも

「うるせえな、関係ないだろ」

「そんな怒るなって~みんな言わないけど気になってるんだぜ?」

「まあ、上手くやってるよ」


俺はそう言って陽キャたちを押しのけ、席に座った。

周りに人がいないのを確認して、ゆっくりとため息をつく。


一か月前に別れた元カノ、河合南かわいみなみは別れる直前に俺にある提案をしてきた。それは、”別れたことを他人に言わない”というものだった。


他人に余計な詮索をされないように、お互い穏便に別れるために———


そんなことを言われたような気もするのだが、実を言うとその時の会話を俺はよく覚えていない。ただいちいちどうでもいい人間に別れたと言うのが面倒なので、適当にあしらっているだけだ。


おかげでクラスメートは今も学年一の美少女—河合南かわいみなみ—と、冴えない俺—橘葵たちばなあおい—が付きあっていると思い込んでいる。


頬杖を突きながらスマホをぽちぽちいじっていると、またまた不快な奴が俺の席に近寄ってきた。


「なーんで別れたって言わないのさ、葵くん?」

「今度はお前か、凪咲」

「確かに河合ちゃんはめちゃくちゃ可愛いけど、そろそろ次へ進まないといけないと思うけど?」

「ほっとけ」


机に手を置くなりそう言って来たのは小学校からの俺の幼馴染、柊凪咲ひいらぎなぎさだ。中学まではよく一緒に遊びに行っていたが、最近はまともに話もしていない。


ショートに切り揃えられた髪と整った顔立ちは嫌でも人目を引くし、現に凪咲はよくモテる。そんな彼女の隣にいるうちに、いつの間にか俺は話しかけづらくなっていた。


「というか、なんで別れたことを知ってるんだ?一応秘密にしてるんだが」

「もう忘れたの?死んだ魚みたいな声で電話してきたのはどこの誰だったっけ?」

「・・・あー」


前言撤回。恋に破れた俺はどうやら、幼馴染に恋愛相談をしていたらしい。なんでよりにもよって凪咲に相談したかというと、他にろくに話せる友人がいなかったからだ。


「あの時は大変だったんだよ。わけわかんないこと喋ってるって思ったら急に落ち込むし、なだめるのに精一杯だったんだから」

「その件については非常にご迷惑をおかけしました・・・」

「うむ」


凪咲はそう言って満足げに胸をそらした。こいつ、どこがとは言わないが成長したな・・・どこがとは言わないけど。


「それで、葵の”恋愛恐怖症”は治ったの?」

「”恋愛恐怖症”?」

「言ってたじゃん。俺はもう恋愛はしたくないし、人が手をつないでるだけでもぞっとする、って」

「ああ、言ってたな。そんなこと」


”恋愛恐怖症”—言葉のとおり”恋愛する”ことに恐怖を感じ、積極的に踏み出せない状況のこと、恋愛をする意味がわからなくなること—


俺は別れたその日からずっと、それにかかったままだ。


「まあ葵もすぐに女の子に興味が出るでしょ、こんなに可愛い子が話しかけてあげてるんだから」

「それ以上言ったら小学生の時の卒アル写真をクラスのグループLINEに上げるぞ」

「もーそんなに怒らなくてもいいじゃん。ま、楽しみにしてるからね」


凪咲はそういって微笑むと、クラスの女子グループの元へ弁当を食べに戻っていった。お節介な奴だ。


スマホに目を戻し、さっきの会話を頭の中で繰り返す。

すぐに興味が出る、か・・・・


人の制服や、じゃれあっている様子を見るたびに俺はいつかの事を思い出す。

うるさい心臓の音や、手汗で湿った手、そして甘ったるい唇の味を。


忘れてしまえば楽になるのに、いつまでも忘れられないままだ。


そう考え、漫画アプリをスワイプすると同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


――――――


高校の授業というものは眠っていればすぐに過ぎる。

机から体を起こし、軽く伸びをしていると、気づけば午後のHRが終わっていた。


さっさと家に帰ろうと教科書やら財布やらを鞄に入れ、俺は教室を後にする。

廊下に出ると、”一軍”の女子たちが笑いながら横を通り過ぎるところだった。


無表情で歩いていると、ふとその中の一人と目が合った。


何度見たか分からない位きれいな黒髪と、誰もが見惚れる華奢な体――――

学年の”高嶺の花”、河合南は俺を少しだけ見つめ、すぐに目をそらした。


彼女は声をかけてくる男子に笑顔で応じ、友人との会話に戻る。

こっちを見てひそひそと囁く女子グループを無視して、俺は階段を足早に駆け下りた。


玄関先でしゃがみこみ自分の靴箱を探していると、頭上から聞き覚えのある声が聞こえる。


「あれ?もう帰っちゃうの?」


上をちらりと見上げると、両手を後ろに組んだ凪咲が俺を見下ろしていた。

視線を戻し、靴箱に書かれた名簿を目で辿りながら適当に返事をする。


「帰宅部なんだよ。帰るのが早くて悪かったな」

「いやいや、帰宅部でも友達と喋ってて遅くなる人もいるよ?」

「俺はお前以外話す相手がいないんだ」

「・・・・そういうとこだよ」


口ごもっている凪咲を無視して辿っていると、ようやく自分の靴箱を見つけた。

中に手を突っ込むと、いつもと違った感触がする。


何だこれ。紙か?

靴箱にある紙らしき何かを取り出すと、それは花のシールで封じられた白い手紙だった。後ろをひっくり返すと、女子が書くような丸文字で”橘葵様へ”と書かれている。


これはもしかすると・・・・


俺は手紙を持ったまましゃがみこみ、深い深いため息をつく。

ふと上を見ると、凪咲が見たこともないような満面の笑みで立っていた。


人生で初めての、ラブレターという奴だった。


――――――


ほぼ初投稿です。


拙いところもありますが、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。


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