第14話。心遥と青春
「
学校の昼休みの時間。一人でコンビニのパンを食べている来栖に私は声をかけた。来栖は私を見るなり、呆れたような顔をしていたけど、逃げたりはしなかった。
数日前、私と
結局、来栖は自分の力で問題を解決していたけど、私達が来栖に会いに行かなければ、きっと来栖は佐々木紡の言いなりのままだったと思う。
「こんなところでぼっち飯?」
来栖が居たのは校舎の外。運動場に向かう階段の真ん中辺りに来栖が座っていた。今日は空も晴れていて、重苦しい空気の教室に居るよりは全然よかった。
「ぼっちじゃない」
来栖の視線の先。少し離れたところに芽依が座っていた。芽依は本を読んでいて、特に何か食べているわけじゃなかった。
「あれから、芽依ちゃんの様子変だよね?」
「紡に会ったからでしょ」
私は来栖の隣に腰を下ろした。
「
「どこが?」
「距離感。私とアンタは友達じゃないでしょ」
私も来栖と友達に戻ったとは思っていない。
来栖がクラスでいじめられるようなことは無くなったけど。それを私のおかげ、なんて言うつもりもなければ、佐々木紡の魔の手から助け出したことを感謝してほしいわけでもなかった。
私はただ。来栖と話がしたかっただけ。
「なら、私はただのクラスメイト?」
「他人よ。た、に、ん」
私は気にせず持ってきたパンを食べることにした。
来栖は教室に居ずらいから外で食べているみたいだけど、今なら教室で食べられると思う。ただ、それだと芽依が来なくなってしまう気がした。
「芽依ちゃん、こっちに来なよー」
私が呼ぶと、芽依が立ち上がった。そのまま私の隣に来るかと思えば、芽依は来栖の反対側に座った。
「二人って仲直りしたの?」
「さあ」
少なくとも私よりも来栖の方が芽依に好かれているように見えた。そもそも嫌いなら、来栖を連れ戻すこともなかったと思うし。
「芽依ちゃん、ご飯食べないの?」
「買いに行くのが面倒だったので」
私は自分の持っていたパンをちぎって、芽依の方まで手を伸ばした。来栖が私のことを邪魔そうに見ているけど気にしない。
「ほら、食べないと午後の授業でお腹空くよ」
「自分で食べられ……ん」
芽依にパンを食べさせる。なんだが、子供の頃に動物園で餌やりをやったことを思い出すけど、芽依相手の方が楽しかった。
「芽依。私の分も食べていいわよ」
来栖と二人で芽依にパンをあげた。途中、食べさせ過ぎて芽依がむせていたけど、飲み物も買っていたから急いで飲ませた。
「お二人に殺されるかと思いました」
芽依は手にペットボトルを持ちながら、そんなことを口にした。私もかなり焦ったけど、来栖は芽依の背中をさすっていた。
「ところで、心遥。この前の話どうなったの?」
星を見に行くという話なら忘れてはない。だけど、行くと言ってから特に何も決めていなかった。
来栖と芽依とは今の連絡先を交換していつでも連絡が取れる状態だからこそ。何も言わない私に文句も言いたくなったんだと思う。
「二人の予定を聞いてなかったから」
「勝手に決めておいて今さらそこを気にするのね」
「私にも常識はあるから」
二人が断る可能性もあった。だけど、あの日だけは来栖と芽依が私の話を聞いてくれる気がした。そんなズルをして、今も私は二人との関係を繋ぐことが出来ていた。
「バイトがない日なら問題ないわ」
「芽依ちゃんは?」
来栖と二人で芽依の顔を見る。芽依はペットボトルを置いて、再び本を読んでいた。
「私はお二人に合わせます」
なら、来栖に合わせるのが一番よさそうだ。
「後は移動手段だけど……」
車を
「兄に頼むのはどうでしょうか?」
芽依の提案を採用しようとしたけど。
「それ、大丈夫なの?」
来栖が不安そうな顔で訊ねた。そういえば、芽依の兄が交通事故を起こした話は二人とっては重い過去の出来事だった。
「やはり不安でしょうか?」
「あの人、あれから運転してないって聞いた」
「いつもお酒を飲んでいますからね。普段は運転しないようにしてるんです」
私は気になったことがあった。
「芽依ちゃんのお兄さんってさ、どうして事故を起こしたの?まさか、飲酒運転じゃないよね?」
「違いますよ。兄が事故を起こしたのは飛び出してきた子供を避けようとしたからです。結局、他の人を轢いてしまったみたいですが」
芽依の兄が悪くないとも言いきれない事故。
「まあ、事故自体はたいしたことなかったですよ。ただ、その事故のせいで、色々と問題が起きてしまって……亡くなったのは事故が原因と言ってる人もいて……」
私は芽依の話を聞いて、思い出したことがあった。同じような事故が他にもあったとは考えられないし、まず間違いない。
「私の制服。その子のやつかも」
来栖と芽依が私の顔を見てくる。
「心遥……アンタ、いったいどこで手に入れたのよ……」
「心遥さん。流石にそれは……」
もしかして、拾ってきたと思われてるのだろうか。
「ちゃんと譲り受けたやつだから!」
でも、因果というものは存在していると思った。
この制服が私のところに届いたのは偶然じゃないような気がして。運命というものが本当に不思議に感じてしまった。
「とにかく、芽依ちゃんのお兄さんに聞いてみてよ」
「わかりました」
この前会った時の様子からして、色々と思い詰めてる感じだったし。私は芽依の兄が悪い人だとは思わなかった。
「心遥って、今どこに住んでるんだっけ?」
「親戚の家だよ。ほら、例の幽霊屋敷」
その名前を聞いたのは子供の頃だった。
まさか、幽霊屋敷の正体が親戚の家だなんて思わなかったけど。子供にしてみれば、噂だけでも十分に恐ろしいものだった。
「ああ。確か小説家が住んでた家だっけ」
「なんだ、そこまで知ってるんだ」
「バイト先で話を聞いた。亡くなった小説家の幽霊が現れるから、幽霊屋敷って言われてること。まあ、実際は屋敷とも呼べない建物のようだけど」
確かに少し立派な戸建てではあるけど、屋敷とは言えない気がする。もし、今よりも建物が広ければ
「芽依ちゃんなら、その小説家のことわかる?」
「作者の名前か作品名を教えてください」
「えーと、なんだろうね」
そういえば、小鞠から話を聞いた後、小説家のことは詳しく聞いていなかった。一応、親戚の人ではあるんだろうけど。
「で、私の家を聞いてどうするの?」
「待ち合わせ場所とか色々決めないとでしょ」
「来栖ちゃん。なんだかんだノリノリだよね?」
来栖が私を殴るふりをする。それに合わせて私は避けようとしたけど、来栖は腕を下ろしていた。
「アタシは借りを返したいだけ」
「借りって?」
「心遥が屋上から飛び降りた理由はなんとなく察しがついた。感謝するつもりは微塵もないけど、心遥のわがままに付き合うのはアタシなりのケジメみたいなものよ」
もしかしたら、私と来栖の関係は次で本当に終わってしまうかもしれない。なら、今のこの時間を大切にしたいと思うのは悪いことだろうか。
「ありがとう。来栖ちゃん」
まだ、来栖と芽依の関係は完全には修復出来ていない。
この前、来栖が芽依のことを庇ったように見えたけど、過去の出来事あったから、本音みたいなものが二人の間で行き場を失っている気がした。
そんな中途半端な二人の仲を私は戻したい。
お節介だとわかっているけど、私に出来る最後の償いだと思った。私の持っている命も時間も来栖には必要ない。
だから、次もダメなら私は最初に決めていた通り旅に出ようと思った。もう二度とこの町に戻れなくなったとしても、最善を尽くした後なら、きっと後悔することはなくなるから。
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