第3話

騎士団に来て知ったことがある。

まだ6歳だった俺を拾ってくれたけど、ロルトが俺を引き取ってくれたのは、俺の目が赤いからだった。


赤い目は、大抵持っている魔力が多いのだという。平民は通常、焦茶の目をしており魔力が少ない。

青や緑の人も魔力が多いが、赤には敵わないそうで、魔術部隊のトップにいる部隊長は赤だそうだ。




連日の書類仕事がつまらないこと、王都に来て始まった貴族の作法の勉強も嫌だったし、ロルトが俺を拾った理由が目の色だったことを知ったモヤモヤで、俺は逃げ出した。


騎士団本部から抜け出して、王都の門から出て、近くの森に入った。




そう言えば、あれからいつもそばに人がいた。寮は個室だから部屋に他の人はいないけど、壁は薄いし隣室の音や廊下を歩く音など人の気配はあった。


ここは良い。近くに誰もいない。誰の気配もない。

赤い目か・・・自分の魔力が多いのは気付いてた。


他の魔術師に比べて、連発もできたし、重ね掛けや、身体強化を使ったまま他の魔術を繰り出すこともできた。



打算がなきゃ子供なんか拾うわけない。

ロルトは魔術部隊の中隊長だし、魔力の多い子供を保護するのも間違ってない。


それは分かってる。


騎士団の隊員だから何の能力もない子供を見付けたとしても、見殺しにしたりはしないだろうけど・・・。




思考の海に沈んでいると、人の気配がした。


何だ?走ってる?気配は2つ、片方は動物か、人は小さいな、子供か?

子供が動物に追われてるのか?



俺は身体強化をかけて気配の下に走った。


そして、今にも猪に追い付かれそうになっている女の子をサッと抱き抱えると、猪から距離を取るために後方へ跳び、ウォーターボールを猪に向けて放った。


顔に大きなウォーターボールを浴びると、猪は驚いて森の奥へと逃げ帰って行った。



人でも動物でも、目的のない殺しは良くない。魔獣は別だが。

今回はただの猪だ。森の奥へ逃げ帰れば、そこで大人しく暮らすだろう。




殺さなくても良いなら殺さない方がいい。





俺は抱き上げていた女の子を地面に降ろそうとすると、女の子は震えながらしがみついてきた。

自分の身体より大きな猪に追いかけられたんだから、そりゃあ怖かっただろうな。

俺は女の子を抱き上げたまま、落ち着くように背中をトントンと一定のリズムで叩いた。



しばらくすると女の子の震えは止まって、俺は女の子を抱き上げたまま移動して、木の根に腰を下ろした。


「あ、」


なんかヒリヒリすると思ったら、さっき走った時に枝で手の甲を切っていたようで、血が滲んでいた。



「ヒール」


女の子は俺の目線の先を見ると、俺にしがみついていた手を放し、俺の手の甲に掌を翳してヒールをかけてくれた。



「ありがとう」

俺がそう言うと、女の子は俺の膝から降りて微笑んだ。



「天使か妖精?」

今までは小さな女の子だということしか認識していなかったし、俺の腕の中で顔を伏せていたから見えていなかったが、目の前に立った女の子の姿を見たら思わず口をついて出ていた。



女の子はサラサラでストロベリーブロンドの髪を胸の辺りまで伸ばし、肌は雪のように白く、クリクリとした大きな目は溶けた蜂蜜のように潤んで、唇はぷっくりと、シンプルな真っ白のワンピースを纏っている姿は、本当に森に現れた天使か妖精のようだった。




「ふふふ、私は天使でも妖精でもないですよ。

それよりも、先ほどは危ないところを助けていただきありがとうございました。」

女の子はペコリと頭を下げた。



俺はその女の子の可憐な姿に、しばし言葉を忘れて見惚れてしまった。

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