再会2/2 〜べナット視点〜
数日すると、また少女は別の現場で作業をする俺のところに来た。
ドレスではなく、平民が着るような質素な服を着て護衛も付けずに1人で。
今日は橋の建築現場で、今は資材の運搬と土台作りをしている。
現場から少し離れた場所で、じっとこちらの様子を見ている。
まさか城を抜け出してきたのか?
平民の服を着ているが、金色の巻毛はどう見ても貴族の令嬢だ。あんなところを彷徨いていたら何があるか分からない。
昼休みになると、仕方なく俺は彼女の元に向かった。
「何しに来た?ここは王女様が来るような場所じゃない。」
「べナットに会いに来たの。」
なぜ俺に会いに来るのか分からない。
「なぜ俺に会いに来る?目的は何だ?」
「ただ会いたかっただけよ。べナットの顔が見たかったの。」
俺の顔?俺の顔などを見てどうするんだ?ますます意味が分からない。
「護衛や侍女はどうした?馬車は?」
「だって皆んなべナットに会いにいくのを反対するんだもの。今日はこっそり抜け出してきたから馬車も護衛もいないわ。」
「何でそんなことをする?
一国の王女様がこんな何処の馬の骨とも分からないような作業員の男に会いに来るのを賛成するわけがないだろ。」
「でも・・・」
「はぁ、仕事が終わるまで待てるか?」
早く帰って欲しいが、このまま1人で帰しては危険だ。何かあってからでは遅い。何せ王女様だからな。
グゥー
お腹が鳴った彼女は、真っ赤になって目を逸らした。
「昼飯、食うか?」
「いいの?」
「ああ。」
俺は木陰に、いつも腰に巻いている毛皮を敷いて彼女を座らせると、買ってあったサンドイッチ2つのうち1つを渡した。
腹が減っているはずなのに、なかなか食べない彼女。
「毒味か・・・。」
「・・・。」
「一口端を食べるぞ?」
「はい。」
俺は彼女に渡したサンドイッチの端を一口齧った。
「問題ない。」
ようやく彼女はサンドイッチを食べ始めた。
なぜか少し頬を染めながら、少しずつ口に運んでいく。
そんな食べ方をされたら、俺も恥ずかしくなるのだが・・・。
昼休みが終わると今日の現場監督に、早めに上りたいと申し出た。
「べナットは仕事が人よりも早いからいいよ、その代わり明日もお願いね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
俺はそこから2時間ほどで上がることができた。
「大丈夫か?疲れてないか?」
「はい。べナットの仕事をしてる姿を見られて楽しかったわ。」
「俺が仕事してるの見て楽しいわけないだろ。」
「いいえ、楽しいわ。橋ってこんな風に作っていくのね。」
「ああ、社会勉強が楽しいってことか。」
「え?」
「あ、いや、何でもない。」
俺たちは2人で並んで歩いた。
「もう勝手に城を抜け出すなよ。
皆んなが心配するし、色んな人に迷惑がかかる。
それに自衛手段を持たない若い女は狙われやすい。お前も襲われたり攫われたりはしたくないだろ?」
また城を抜け出してこられたら、次は何があるか分からない。もうやめて欲しい。
そう思いを込めて言ってみるが。
「大丈夫。その時はべナットが颯爽と現れて助けてくれるんでしょ?」
「いやお前、俺を何だと思ってるんだ?俺はお前の護衛じゃないし、この前助けられたのはたまたまだ。
いつでも助けに行けるわけじゃない。」
王女様は頭の中はどうなっているんだろう?
「そう。じゃあずっと一緒にいればいいわ。結婚するのはどう?」
「はあ?何言ってるんだ?俺は戦争のプロ。傭兵なの!
それに人に守られているような女はごめんだね。」
「・・・。」
全く何を言い出すのかと思えば。王女様は平民を揶揄って遊ぶのが趣味なのか?
とんでもないな。
そうして歩いていると、ようやく王城の門に辿り着いた。
「もうここまで来たら大丈夫だろ。
じゃあな。
くれぐれも、もう城を抜け出すなよ。」
そう言って俺は踵を返した。
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