第23話

 呼吸する音、筋肉が軋む音、肉体が風を切る音。

 相手の体の動かし方に、自分の触覚を打つ空気の揺れに、ほんの僅かな匂いの変化。

 自分の持つ味覚以外の五感全てを活用し、情報を手に入れる。


「行くよ」

 

 およそ人とは思えないほどに大きな筋肉の軋む音を耳で捉えた僕は半ば反射的に剣を持ち上げる。


「ぐっ」

 

 金属音が響き、僕の体に大きな衝撃が走る。


「……ッ!」

 

 僕はなんとか剣を滑らせ、自分にかかる力を後方へと受け流す。

 力を受け流され、ほんの僅かに態勢を崩した心美さんの方へと一歩。

 前へと進む。

 自分の前に立ち、剣を振るう心美さんへと近づき、剣の間合いから殴り合いの間合いにまで近づいた僕は膝を上げ、心美さんへと蹴りをぶつける。


「……うん」

 

 僕の膝蹴りを心美さんは軽々しく片手で掴み、そのまま力を入れる。

 心美さんに掴まれた僕の膝が握りつぶされる前に僕は転移のスキルを発動してその場から逃れる。


「断絶」

 

 転移を使ってその場から逃れた僕はそのまますぐにもう一つのスキルを発動して、空間を断絶。

 心美さんが自分のもとに来れないよう


「良いね」

 

 断絶された空間を叩いて捻じ曲げ、元の状態に戻した心美さんは僕との距離を一瞬で詰める。


「……はっやッ!」

 

 心美さんは僕へと剣を振り下ろし、僕はそれを己の剣で受け止める。

 自分のもとに降りかかる力を僕が完全に受け流し、心美さんの態勢を僅かに崩すよりも先に心美さんは再度剣を持ち上げ、振り下ろす。

 それを僕はまたもや受け止める。


 心美さんが僕へと剣を振り下ろし、それを僕が受け止める。

 僕が反撃に出る猶予はない。

 ただただ僕が心美さんの攻撃を受け止めるだけの剣での打ち合いが始まる。


「……あっ」

 

 どれだけ打ち合っただろうか?

 無限にも感じられた打ち合いの果てにとうとう心美さんの力と速さについていけなくなり、僕の手の中にある剣が弾き飛ばされる。


「終わり」

 

 心美さんの前で態勢を崩し、あまりにも致命的な隙を晒してしまった僕は自分の首へと突きつけられる。

 ……心美さんの速さじゃ僕が転移を発動させるよりも早く僕の首を貫いてくるだろう。


「……参りました」

 

 僕は一歩、後ろに下がり、口を開いた。

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