太郎と花子の御近所な日々

歩弥丸

萌え袖の日

 制服を着させられて1年。わたしの手は、母が予想したほどには伸びなくて、今年の冬もまだ袖が余る。

手を通して袖をまくって、家を出る。

「お早う」

 太郎が道端で声をかけてくる。あいつの方が小6まではわたしより背が低かったのに、今ではあいつの方が10cmは背が高い。

「お早う。わたしに合わせてるとまた遅刻するよ?」

「まあ、それはそれで」

 鞄を振った太郎の袖は、ぴったりを通り越してちんちくりんになりかけてる。来年の冬には制服を買い替えなきゃいけなくなるんじゃないか、こいつ。

「……何じろじろ見てるんだよ」

 太郎が言った。

「あー……いや、あんたは背が高くなっていいなあ、って」

 ばつが悪くなって眼を逸らした。まあ、嘘は言ってないんだけど。

「花子は、そのままでも可愛いよ」

 いきなり太郎がそんなことを言う。

「い、いやでも、袖もこんなで」

 手を振ったら、まくってた袖がほどけてしまって、ぶらぶらしている。みっともないったらありゃしない。

「その袖もそれはそれで可愛いし」

 ――正気か。というか、こいつ、朝っぱらから何を言うんだ。

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