幼なじみが一人暮らしのお兄ちゃんの元へ家出してきた短編
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幼なじみが一人暮らしのお兄ちゃんの元へ家出してきた短編
幼なじみのひよりは三歳下、引っ込み思案の元厨二病患者だ。
コミュ障でアニオタ。引きこもり。そのクセして俺とだけは元気いっぱい。食べるものはよく食べて太らない。肌は真っ白で綺麗だし、いや外見はめちゃくちゃ美人だ。そのおかげで出かけるたびに数多くの、それこそ男女問わずの視線を集める。
残念なことに、ひよりはバカだ。小さな頃から危ないことに手を出しかけたり、首を突っ込みかけるクセがある。だから昔から兄貴分の俺がひよりを守ってきた。
そんな彼女と、俺は、まだ、幼なじみでいる。
いや、ちょっとだけその関係が「嫌」になって、大学入学と同時に家を出たんだ。
それなのにひよりときたら……。
「お兄ちゃん! 家出してきたよ!」
「…………」
家出だって? それにしては準備が良いように思える。キャリーケース。バックパック。そしてそこから溢れ出るアニメグッズの数々。まるで長期宿泊の旅行(?)のようだ。
……ひよりには言わなかったのに、どうやって俺のワンルームを見つけた。
いや、それよりもまずは家出の事について問いたださねば。
「親御さんと喧嘩でもしたのか」
「ちがうよ! 家出だって!」
「そうじゃねえよ。家出っていうのはな、両親との関係とか学校とかが嫌になって家から飛び出すもんだ」
「なんだって!」
「…………」
家出って言わねえよバカ。
「じゃあなんだ、俺の親に『お兄ちゃんと暮らしたい!』とでも言ってきたのか」
「なぜバレた!」
「そりゃあお前とは何年の付き合いになるんだと……いやマジで!?」
「マジよマジ、あまとう先生に誓って!」
めちゃニコニコ顔のひより。
ちなみに、あまとう先生とは、彼女の好きなライトノベル小説家だ。
「学校はどうしたんだ」
「あれ言ってなかったっけ、通信制高校にしたんだよ! だからどこからでも勉強できるからって、お兄ちゃんのお父さんお母さんにも許可をもらったんだ!」
家族公認かよ。
…………。
「帰れ」
「えーっ! なんでよぅ!」
「俺は大学生。そしてひよりは高校生。いいか、大学生ってのは良くも悪くも多感な時期なんだ。特に男女関係とかな」
「……?」
「あー、だからなんだ。お前のお兄ちゃんはひよりを大事にしたくて今まで接してきた」
「うん」
「なのにお兄ちゃんはひよりを傷付けてしまうかもしれないからって、一人暮らしをはじめたんだ。だからな、ここは穏便に」
「よく分かんないけど、お兄ちゃんのお父さんお母さんは『ゴネたら押し倒せ』だって言ってた!」
「なんだって!?」
ああ、ひよりになんてことを……。
「あとお手紙預かってる!」
と言ってひよりは便せんを渡してきた。
何々……。
『お兄ちゃんへ
そちらのご両親ともお話をして、娘の意思を最大限に尊重し、今回の事を決めました。娘をよろしくお願いします。あと、お兄ちゃんの事ですから大丈夫だとは思いますが、避妊だけはしっかりと。
ひよりの両親より』
ご丁寧に婚姻届まで記入済の……。
あああああああ!? びりっびりびりびり!!
「なんで手紙を破くのー!?」
「こんなのお前に見せられねえっつうの!」
「そう言うと思って、もう一枚手紙を預かってきた!」
「用意周到だなおい!」
『お兄ちゃんへ
ひよりの面倒を見ることに困惑すると思います。ですので、覚悟を決めるために一つだけ。ひよりとお兄ちゃんは、昔から両家公認の許嫁だったのです。
ひよりの両親より』
……なんだって。流石にこれはひよりも知っているのか?
「ひより、これ見てくれ」
「何々……いいなづけ?」
「知ってたか?」
「ううん」
ひよりも首を振る。
「でも、お兄ちゃんのところで花嫁修業したいって言ったら皆にこにこしてたよ!」
「ああ、もう……」
ひよりはやると決めたらやる子だ。
それを両親に言うなんて相当の覚悟なのだろう。
はあ……。
「まあ、あがれよ」
「やったー!」
そう告げるなりドタドタと俺のアパートに駆け込むひより。
「お兄ちゃんゲームしよー!」
「……あとでな」
取りあえずもう一つ布団、買ってこないとな……。
そう思いながら、俺はちょっとだけ騒がしくなるだろう生活に、期待を抱かずにはいられなかった。
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