第3話 ~お前この聖剣抜いてみろ!~

「痛って……」


 首に鈍い痛みを感じながら、リヒトは目を覚ました。槍やら斧やらを持った、ルナと同じように原始人に似た格好をした老若男女が数十名がリヒトの周りに集まってる。

 リヒトは動こうとしたが、手が何かで拘束されており、動くことが出来なかった。立ち上がることもできず、膝立ちの姿勢になっている。

 もしかしたら、人類は魔王に負けたことで衰退し、技術も文化も忘れ去って原始人のような生活をしなくてはならないようになっているのかもしれないな、とリヒトは予想した。


「目覚めたか……お前さんがリヒト・アレンで間違いないな……」


 杖をついている長いあごひげを蓄えた老人が、リヒトの前に一歩進み出てきた。


「……違う」


 リヒトは自分が、魔王を殺し損ねたバルバトスの子孫だと思われていることは知っていたので咄嗟に否定した。


「違うのか……」


 老人はいぶかしげな眼でリヒトを一瞥したが、すぐに口元を緩ませた。


「な~んだ! それなら別にみんなでリンチにする必要はなかろう!」


 このおじいさん、ものすごく馬鹿なのかもしれない、とリヒトは思った。あと、肯定してたらリンチされてたのかよ怖、とも思った。


「なんで信じるんですか! しっかりしてくださいよ! 見た目は完全に封印されてたリヒト・アレンでしょう?」


 ルナが現れて老人の頭を叩いた。


「でも、本人が違うと言っておるぞ?」

「……はあ。もういいです。村長は下がってください。リヒト・アレン、私達に何かしようって気はないのよね? 胸を触ろうとしてきたのは性欲のせいよね?」


 リヒトは美少女から「性欲」という言葉を聞いて、ドキリとした。ルナは恥ずかしがっていない。


「そう、性欲のせいだ。決して攻撃しようとなんてないぜ」


 リヒトは正直に答えた。


「なら、一時的には開放してあげる。させたいことがあるから。もし何かしたらその場で殺すから」

「お、おう、ありがとう」


 リヒトは拘束を解かれたので立ち上がった。

 周囲にいる人々警戒を強めているみたいだ。何もしないほうが良さそうだ。


「俺にしてもらいたいことってなんだよ?」

「これよ」


 ルナはリヒトに剣を差し出した。柄も鞘も金色に輝いており、宝石で装飾されている。


(これは⁉ 聖剣エクスカリバー!)


 リヒトがゲーム内で主人公バルバトスに持たせて使っていた剣だ。バルバトスは岩からこの剣を引き抜いたことで勇者候補になった。初期武器ながら、バルバトスの成長に合わせて性能が変化し、終盤まで使うことができた強力な武器だ。

 この剣を鞘から引き抜けることが、勇者かどうかの証明になる。

 つまり、リヒトが鞘から剣を引き抜けるかどうかで、勇者の血を引いているのかどうか判断しようとしているのだろう。

 リヒトはとりあえず、エクスカリバーを受け取った。ずっしりとした重みがあるが妙に体に馴染むような気がした。リヒトはこれが自分の物であることを本能的に理解した。

 少しだけ剣を引き抜く。

(あ、これ抜けるやつだ)


「これを、どうしろってんだよ?」

「その剣を鞘から引き抜いてみて」


 やっぱりな、と思いつつリヒトは剣の柄を握る。


「おりゃあああああああああ!」


 必死で剣を引き抜く演技をする。嘘だと見抜かれれば殺されるかもしれないから全力で。


「なんだこれ? 抜けないぞ!」


 リヒトが演技をやめると、人々の顔が明らかに緩んでいるのが見えた。リヒトに勇者の才能がなくて安心したのだろう。


「え? 本当に抜けないの?」

「抜けない。マジで抜けない。ホントに、逆立ちしても、何しても絶対に抜けないわ。この剣」

「……」


 ルナはきょとんとして深紅の眼をリヒトの方に向けた。そして、今までの表情が嘘のように柔らかい笑みを浮かべた。


「ごめんなさい。強く当たりすぎたわね。百年封印されている間に、記憶が混乱して人格が変わってしまったのかもしれないわね。百年前のあなたは、聖剣を使えたみたいだし。同じ人だとは言えないと思う」


 リヒトは困惑しつつも、内心喜んだ。殺されずに済む。

 『トゥルー・ミソロジー』のヒロイン、エレナとは違ってルナは凶暴な性格をしているとリヒトは思っていたが、笑顔とやさしさに触れてみて、中身も遺伝している部分はあるな、と思った。


「そう、みたいだな」

「そこで、この人を村の仲間に入れてあげようと思うんだけど、どうかな? みんな? 男の人手は貴重だと思うし」


 エレナが周りにいる人々に問いかけると「賛成~」という言葉が多数聞こえた。何も考えていなさそうな声だった。


「というわけで、今日からこの村で暮らして良いよ」

「あ、うん。ありがとう」


 リヒトは突然、自分の処遇が決定して驚いたが、とりあえず受け入れることにした。それ以外の選択肢が無かったからだ。


「ところで、文字が読めるのは本当?」

「そりゃ、読めるが……」

「え⁉ すごいね⁉」


 リヒトの記憶上『トゥルー・ミソロジー』の世界の人間は文字が読めていたはずだ。もしかすると、人類は衰退の過程で文字を失ったのかもしれない。だとすれば、本当に「オープンステータス」を防御魔法として使っているのかもしれない、と利人は予想した。








 

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