人類の文化が衰退した異世界で、俺だけ文字が読めるので無双できますw~みんな「オープンステータス」をシールドとして使ってるけど、間違ってるからね!?~

藤翔(ふじかける)

第1話 ~責任取れよ♡~

 スピーカーから不穏な空気を纏ったBGMと、ドスの効いた威圧感のある声が発せられる。


「ついに我の元まで来たか、勇者ども」


 モニターにはいかにも強そうな巨体——魔王という言葉が良く似合う魔人が映し出されている。アニメーションから、美麗な3Dグラフィックに切り替わった。戦闘開始の合図だ。体力ゲージが何本も出現し、倒すのが容易ではないことを視覚的に理解させられる。


「うっし、気合入れるか」


 前田利人は暗い部屋で、モニターに照らされた顔に不敵な笑みを浮かべながらゲームコントローラーを握った。

 利人がプレイしているのは、有名メーカーから満を持して発売されたオープンワールドRPGゲーム『トゥルー・ミソロジー』だ。聖剣を岩から引き抜くことに成功した少年が勇者に選ばれ、仲間と共に魔王を倒すというありきたりな設定ではあるが、レベル上げのシステムが少々独特で、発売前から期待されていたゲームだ。ステータスに「寵愛」の項目があり、神からの好感度を上げることで「寵愛」の数値が上昇し、レベル上げを効率的に行うことが出来るようになる。主人公が信仰する神は、プレイヤーが十人いる神の中から一人選ぶ。

 「寵愛」のステータスを上げるには、神とのデートイベントで好感度を上げる必要があり、一部界隈からはギャルゲーだと言われることもある。

 ただ、ボス戦の難易度がべらぼうに高く、クリアした人数は発売直後だということもあって、まだゼロ。


 利人はすさまじい指捌きで、敵からの攻撃を躱しながら着実にダメージを与えている。順当にいけば勝つことが出来るはずだ。

 だが、魔法使い、戦士、プリースト、どんどん魔王の攻撃のたびに主人公の仲間たちは倒れていく。


 利人は好みな女であるヒロインが倒れると、少し眉をひそめたが、笑みは崩さなかった。


「ここからが本番だ」


 利人は唯一生き残っている主人公を巧みに操る。利人は最速クリアを目指しているので、主人公以外のキャラは育てていないし、最も効率の良いとされているロリ女神を信仰している。利人の好みは巨乳なお姉さんキャラだ。

 つまり、キャラや世界観やストーリーに愛はなく、ただ最速クリアを目指すためだけにゲームをプレイしているのだ。世界に自分の力を認めさせてやるためだけに。


「ご飯できたけど、食べる〜? 明日は学校行ってみたら?」


 部屋の外から母親の声がした。凶暴な猛獣をなだめようとしているような声だ。愛を持って接したいが、恐れを隠せないような声。


「後で食べる! 学校には行かねえ!」


 学校は利人にとって、理不尽な暴言と暴力を浴びせられる場所でしかなかった。人気者になろうとして、目立とうとしすぎたことが原因ではあるのだが。


「わかったわ。ちゃんと後で食べなさいよ〜」


 利人の顔が一瞬曇ったが、すぐ元に戻った。集中が乱れて苛立ちそうだったが、母親が自分のために言っていくれていることは理解しているので、暴言を飲み込んだ。

 

 魔王と主人公の体力ゲージを比べると、利人に部があるように見える。ただ、一発でも攻撃を喰らってしまったら形成を逆転されかねない。その攻撃力の高さが誰もクリアできていない要因だ。

 ギリギリで攻撃を避けられなかった。だが、直撃はしていなかったので生き残ることができた。回復する余裕はない。

 全身から緊張で汗が吹き出した。


「チッ……まだだ」


 一呼吸おいて、再び画面に集中する。攻撃を避け、攻撃を命中させる。

 

「よし、後一発! ……何⁉︎」


 手汗で指滑って、コントローラーのスティックを倒し損ねてしまった。指を戻そうとするが、モニターにはすでに魔王の攻撃をモロに喰らって吹き飛ぶ主人公が映っている。


《Game Over》の禍々しい文字。


「……クソ、クソクソクソ!」


 利人は怒りのあまりコントローラーを床に投げ捨てた。コントローラーが虚しく床を転がった。

 なんでだよ。得意なゲームですら一番になれねえのかよ。そんな想いが利人の頭に浮かび上がってくる。

 勉強は中途半端。運動神経は皆無。容姿は貧相。特技はゲーム。それでも一番にはなれないし、誰にも認めてはもらえない。

 聖剣を握って意気揚々と魔王に挑んで負けた勇者と利人は同じだ。


「俺は負け犬なのか……そうだよな。そりゃそうだ。今まで大した努力もせずに、傲慢だよな」


 利人は目の端に涙を溜めながら、ボソボソと呟いた。

 拾い上げたコントローラーのボタンがあった位置からはバネが飛び出していた。


「はあ……もう、人生諦めるか」

「そんなこと、絶対させない。私が幸せにするから」

「いや、幸せに……って、は? いや、たまたまか」


 モニターには悲しそうな顔で俯くロリ女神「バンノ」——メイド服に身を包んだピンク髪ツインテール幼女が映っている。ゲームオーバー後の演出だ。死んでしまった主人公は神の力でセーブポイントからやり直すことが出来る。「寵愛」が高ければ、その際にレアアイテムを貰えることもあったりする。


 利人は自分の呟きとバンノのセリフが嚙み合ったことに驚いたのだ。

 

「こんなセリフあったっけな? ボス戦の特殊ボイス? まあ、いっか。もうやる気もないし、このゲームは今日で終わりだ」


 利人はゲーム機の電源ボタンを押す。


「あん?」


 モニターには相変わらずバンノが映っている。バンノは周囲を探るように、利人の行動の意味を探るように視線をさまよわせている。

 何度も電源ボタンを押すが結果は変わらない。


「壊れたのか?」


 次はモニターの電源ボタンを押す。だが消えない。

 コードを引っこ抜くが消えない。


「はあ……幻覚か。もういよいよって感じだな」

「一体何をしているの? 幻覚だなんて、ひどい……」


 モニターの女神が利人を指さして非難した。


「お前を消そうとしてるんだよ。疲れてんだな~。ゲームのやりすぎだ。シコって寝よ」

「うう。消さないでよ」

「さーて、幻覚は放っておいて、エレナたんで一発ヌいときますかね~♪」


 エレナは『トゥルー・ミソロジー』のヒロインで、まさに利人が好むグラマラスな体形をしている。

 利人はパンツもろともズボンを下げ、そのままベッドに横たわった。


「キャアアアアアアア!」


 利人は飛び上がった。


「幻覚のクセにうるせえなあ! いいよ。俺はロリには興味ないんよ。さっさと消えるか、でかい乳を持って来いよ」


 女神は顔を真っ赤にして、地団太を踏み始めた。


「ひどい、ひどい、ひどい、ひどい! 早くソレを隠さないと、魔法でぶっ飛ばすよ‼」

「だからうるせえって。魔法が本当にあるなら見てみたいけど」

「いまから見せてやる。散々吾輩にあれだけ気があるような態度を取っておいて、絶対に許さん。気があるような振りだけして……責任取らせてやる……」

「いや、確かに、デートイベントでは最善の選択をしたが、俺の本心って訳じゃないからな。あくまで選択肢を選んだだけだ。だから、俺のことは諦めるか、女神パワーで巨乳になるかしてくれ」


 女神の顔が赤に染まる。


「わかった。じゃあ、これでも食らえ!」

「うわっ、なんだ?」


 モニターからにゅっと小さな手が飛び出した。すると、紫の光を放つ幾何学模様——魔法陣が利人の周りに展開した。


「発動してのお楽しみだよ♪ 私が君を好きになってしまったこと、ついでに魔王を倒し損ねたこと、諸々


 眩い光が魔法陣から発せられ、利人の視界は塞がれる。


 次の瞬間——利人の目のにはのどかな草原と、綺麗な赤髪をなびかせる美しい少女が映った。


「え、エレナちゃん?」









 



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