102.領地の発展の裏に改革あり

 数日すると、私の作ったシチューを求める声は止まりました。実家でも同じでしたが、同じものを毎日食べたがるのは、栄養が偏るのでお勧めしませんわ。


 大きなベッドは多少派手に運動しても、ギシギシと音がしないので快適です。アレクシス様も大興奮ですが、ベッドから落ちる心配がなくなったのは素晴らしいことですね。エレンによると、ベッドのシーツが何枚も必要で大変らしいです。


「アレクシス様!」


 ベッドの中では「旦那様」と呼ぶようにしたのですが、外ではまだ恥ずかしいわ。お母様みたいに「あなた」と呼ぶには、まだまだですね。少なくとも子どもが出来てからでしょう。


 王都を離れると、お茶会の数が激減します。先日せがまれて開催したお茶会は、とても盛況でした。皆様のお目当てが、意外な場所にあって驚きましたけれど。何でも王都で学んだ私のマナーを知りたいそうです。


 それなら簡単です。マナー教室を開けば、皆さんに通ってもらえるでしょう。いろいろ考えたのですが、平民でも希望者は通えるように手配しました。教師を数人呼び寄せるのですが、もう引退された方ばかり。老後を過ごすのに、暖かな辺境の気候は適しています。


 危険なことがあっても、商人と一緒に逃げられるよう、受け入れ先も手配しました。安心して街から通っていただけるはずです。


「ヴィーの改革はすごいな」


 執務室へ顔を出し、アレクシス様に計画書を提出します。領主の許可は必須でした。ニクラスやアントンも目を通し、なるほどと頷いています。


「侍女や商人の奥様も通えるようにしたので、数が増えましたの。大広間をお借りしますわ」


「ああ、使ってくれ。ついでに広間の管理も頼む」


 交渉成立です。私が借りる広間は使われてきませんでした。理由は簡単で、辺境がきな臭い雰囲気だったから。宴会など開いている余裕がなかったのもあります。今後は参加する女性達によって、ピカピカに磨かれます。当然、覚えた作法の復習や披露の場として、簡単な宴も開きましょう。


 辺境の砦は平民と距離を詰め、商人を内側へ取り込むことで発展するはず。奥様達と仲良くなるのは、最短距離です。何しろ、家計を預かるのは奥様ですから。


 アレクシス様の助けになれるよう、私は最大限の努力をしますわ。妖精姫ではなく、エールヴァール公爵家から嫁を貰って良かった、と思っていただけたら嬉しい。


「ヴィーがいれば、この領地も栄えて富むだろう」


「本当に、そうなったら最高ですわね」


 ほほほっ、笑って退室します。今日は忙しく予定が詰まっていました。マナー教室に顔を出し、そこから大人しくなった騎士の宿舎へ差し入れを。夕方までに屋敷へ戻り、肌を艶々に磨いて旦那様をお迎えしなくては!


 いそいそと活動する私は、気づくのが遅れました。マナー教室で出されたお菓子の匂いに吐き気を催し……エレンが指折り数え始めます。周囲の経験女性は、わっと喜びの声をあげ、鈍い私もようやく理解しました。


「おめでとうございます」


 その言葉の意味を……。今夜からしばらく、旦那様の聖剣はお休みしていただきましょう。

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