91.辺境伯家の領地へ向けて

 結婚式が終わり一段落すると、領地へ帰還の準備が始まりました。もちろん、辺境伯の領地は国境付近です。国境警備と侵入者の排除がお仕事ですもの。


 国王陛下には、王妃殿下を通じてひとつの案を呑んでいただきました。辺境伯はこの国に三つあるのですが、どの家も財政状態が厳しいのです。国で予算を組んで、他の領地から集めた税金を投入するべきです。


 国を守るために命懸けで戦う兵士や騎士に対して、対価をケチるなんて失礼ですわ。民も危険を承知で耕し、収穫物を王都へ送っています。その販売金額が、王都の半分なのは納得できません。輸送コストがどうのと言い訳する商人は、豪華な家を王都に構えているではありませんか。


 お母様と詰めた書類を王妃殿下に提出し、ご納得いただいた上で国王陛下に突きつけました。すぐに理解してくださいましたわ。今後は辺境伯家の財政も安定するでしょう。


 幸いにしてレードルンド辺境伯家は、賠償金として受け取った宝石や金貨、領地が増えたことによる利益もあります。だからといって他の辺境伯家の窮状を放置すれば、国が傾いてしまいます。この点をよくよくご説明させていただきましたわ。


 執事アントンを筆頭に、使用人達は大急ぎでお屋敷の片付けに入っています。王都の屋敷は次の社交シーズンまで、閉鎖される予定でした。残るのは管理人として数名だけです。


 意外だったのは、侍女長が残ることでした。なんでもご家族が王都住まいのようです。離れるのは寂しいのですが、ご家族と過ごすのが一番ですわ。来年またお会いできますし。


 ドレスも半分は置いていきます。馬車に乗せきれませんし、独身時代のドレスは半分ほど売りに出しました。一般的には購入層が限られます。我が家は公爵家なので、伯爵以下のあまり裕福でない貴族のご令嬢やご夫人が購入しますの。


 ところが、男性から購入希望が殺到したそうです。心当たりがあるので、女性限定にしました。今度は姉妹や母上の名を騙っての申し込みがあり……検討した結果、すべてお母様に引き渡しました。


 後日王妃殿下と相談の上、伯爵家以下の希望する女性を集めて、格安販売するそうです。転売禁止は絶対条件ですわね。王家が間に入ることで、愚かな行為は減ると思います。


 装飾品を纏めて箱にしまい、執事のアントンに引き継ぎました。彼に直接渡すことで、紛失を防ぐ効果があります。加えて、万が一事故があった場合の責任の所在がはっきりしますわ。これはお母様の教えでした。


 侍女に頼んで、何らかの事故で数が足りなくなった際、盗んだと疑われるのを防ぐためです。そのため高位貴族は、装飾品や貴金属の扱いを叩き込まれますの。執事や家令、侍女長に直接手渡しする。その際に二人で中身を確認するのが、最低限のマナーでした。


 荷物を積み終えると、屋敷は家具だけになります。ほとんどが埃除けを被り、空き家のようでした。女主人として執事アントンと共に見回り、確認を終えて馬車に乗り込みます。


「出発!」


 アレクシス様の号令で走り出した馬車は大きな隊列を組み、騎馬の騎士達に守られて領地へ向かいました。新しい生活が始まります。私、頑張りますわ。

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