73.妖精王の加護だと? ――辺境伯

 ヴィーは徹夜明けでも美しかった。心配で眠れなかった俺は、彼女に強請られてベッドに戻る。半分うとうとしながら、手紙の内容を説明してくれた。夫婦に隠し事は厳禁だそうだ。


 すでに入籍を済ませたが、結婚式があるまで手を出さないと決めている。なのに無防備に服を脱ぎ捨て、下着姿で抱きつくあたり……ヴィーの性的知識は薄い。男を煽っている自覚などないのだろう。


 元求婚者達に救援要請を出す。だが助けてと書けば対価を要求されるので、お別れを告げたと聞いた。説明を終えて夢に旅立った彼女の横顔が、正直、悪女に見える。


 傾国の美女ではあるが、中身も傾国のようだ。ここは真っ先に夫である俺を頼るべきじゃないか? 確かに一国の王や王太子に敵わないかもしれないが、権力ではなく戦う技術なら引けを取らない。自信があった。


「ヴィー、悪いが他所の男に助けさせる気はないぞ」


 眠った彼女の額を指先でつつく。それでも起きない美女は、傷の上に手を当ててぐっすり。傷を怖がるどころか、自ら触れてくるロヴィーサが愛おしい。一時期、結婚できれば誰でもいいと思ったが、今になれば他の女など論外だった。


 ヴィーしかいらない。外見の美しさではなく、内面の破天荒でお転婆で突拍子もないことを言い出すところも、驚くほどの行動力も。すべてが愛しかった。絶対に離さない。そのためにヘンスラー帝国を滅ぼす必要があれば、俺は容赦なく戦う。


 愛している。声に出さず彼女に告げて、俺も目を閉じた。腕の中で眠るヴィーの重さは心地よい。俺よりやや冷たい手足を温めながら、意識を手放した。






 目が覚めたのは、ヴィーが身じろいだため。声を掛けようとした俺はびくりと反応した。部屋に誰かいる。枕の下に隠した短剣を引き抜き、構えた。


「アレクシス様、大丈夫です。妖精王様ですわ」


 にっこり笑うヴィーは、化粧がなくても美しい。窓の外はすでに夜、外へ続くテラスの扉は閉まっていた。妖精王に壁や扉は障害にならないようだ。


『我が愛し子よ、意に沿わぬ男を遠ざけようか』


「人の力が及ばなければ、お願いします。私の影響力って捨てたものじゃないんですのよ」


『知っておるが……そなたはやり過ぎる』


 その溜め息混じりの呟きに、妙に実感が籠っていて。ああ、そういえばロブへの偽装もこの方が手伝ったのだったな、と苦笑いが浮かんだ。


『愛し子が選んだ夫、竜殺しの力を振るうがよい。姫を守る者に加護を与える』


 妖精王の持って回った言い方に、意味を考えてしまった。その間に妖精王は暗闇に溶けるように消え、俺はヴィーを抱き寄せる。嬉しそうに首に手を回す妻を傷つけないよう、短剣を離れたサイドテーブルへ置いた。


「今のは、どういう意味だ?」


「加護を与える、と仰せでしたね。きっと何か特別な力が増えています」


 にこにこと、とんでもない翻訳をされて……俺は額に手を当てて呻いた。竜殺しだけでも恐れられるのに、さらに妖精王の加護だと? 抱きついたヴィーを見つめ、諦めが胸を占めた。


 こんな人外の美貌を持つロヴィーサに言い寄られた時点で、普通の人生は終わった。ならば、人並み外れた人生や力も悪くないさ。









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【新作】絶対神の愛し子 ~色違いで生まれた幼子は愛を知る~

https://kakuyomu.jp/works/16817330658294532401

両親の色を受け継がずに生まれた不幸な幼子は、神の庇護を受ける愛し子だった?! ハッピーエンド確定_( _*´ ꒳ `*)_

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