63.すでにエールヴァール家の一員です

 アレクシス様にエールヴァール家の日常を尋ねられ、素直にお答えしました。いつもあんな感じで、安全を確かめ合うのです。ええ、アレクシス様は慣れていないだけですわ。


「いつもか」


「はい。アレクシス様はすでに私の夫として認められておりますので、家族扱いですわ」


 照れたような顔で「家族」と呟くアレクシス様、とても可愛らしいです。食べてしまいたいですが、昼間なので我慢ですね。押し倒したい時に「食べてしまいたい」と表現すると聞いております。


「尋問は終わりましたの?」


「あ、ああ。傭兵達が担当してくれている」


 騎士様は見た目はいいのですが、荒事となると頼りないですね。近衛騎士団がお飾りと呼ばれるのは、貴族出身でお顔の整った方ばかりだからでした。あれはあれで、きちんと理由があるのですが。


 平民出身の強い方と違い、貴族の子弟は礼儀作法を叩き込まれています。国外の貴賓と接する機会の多い近衛騎士団に、さほど強さは必要ないのです。お客様を不愉快にさせず、丁寧に応対して送り返すのがお仕事でした。周囲を守る、本当に実力ある騎士や兵士がいるからこそ、お飾りで構わないのです。


 話が逸れましたわ。アレクシス様は平民に混じって戦った経験から、信じられる傭兵を屋敷の敷地内に常駐させていました。彼らは実力重視です。強いアレクシス様に忠義を誓い、厳しく尋問を行ってくれるでしょう。


「処刑はどうなさるおつもりですか」


「迷っている」


 なんてお優しいのでしょう。あんな汚物のような存在でも、元家族として扱おうと考えておられるのですか? 私はすり下ろすことを考えておりましたのに。やはり人は外見ではなく、内面ですわね。


「お父様にお任せしては?」


「ご迷惑だろう」


「すでに連絡済みですし、公平に裁いてくださる方ですわ」


 迷いながら頷くアレクシス様に、私は見えないよう微笑みを浮かべました。だって嫌な女に見えるではありませんか。婚約者の元家族を、より厳しい処分へ向かわせるのは私です。


 国王陛下にお願いしてもいいのですが、お父様の方がよりえげつない方法を選ぶと思いますの。こんな私のお父様ですから。


 にやりと笑った私に気づいたアントンが、さっと目を逸らしました。よい執事ですわ。見ないフリを出来るのは優秀です。


 お父様にご連絡したところ、即日引き取りに来てくださいました。移送用の馬車は鉄格子で、内部が丸見えになっています。晒し者にしながら運ぶところからスタートとは、さすがお父様ですわ。褒めたら、お母様のアイディアだそうです。この馬車、国王陛下からお借りしたとか。


 ご厚意に感謝します。アレクシス様に悪態をついた長兄と次兄は、乱暴に馬車に詰め込まれて運ばれました。ちなみに御者を務めた執事は、歩いて馬車を追う形で括られます。


「邪魔が入らぬよう、エールヴァール公爵領で裁く予定だ」


「承知いたしました。厳しくお願いいたしますね、お父様」


 残念ですが、処刑を見るのは諦めます。執事、領内まで残っていればいいですが、無理でしょうね。

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