50.大切な予定を忘れていました

「というわけだ。ヴィーの意見が半分ほど通った」


 報告を受けて、喜びに笑顔が溢れました。朝食のサラダに突き立てたフォークを置いて、口の中に残った食べ物を飲み込みます。察した侍女エレンが用意したお茶を一口。


「それは良かったです。自然災害のフリをすれば平気ですし、妖精王様に頼んでみますわ」


「あ、ああ。その時は頼む」


 アレクシス様ったら、動揺しておられますね。何かあったのかしら。首を傾げた後、食事を再開しました。オムレツの柔らかさが最高の状態です。パンと一緒に頂いてから、カトラリーを置きました。料理長にお礼を伝えてくれるよう頼み、食後の果物とお茶に手をつけます。


「作戦の許可をもらいに、王宮へ行こうと思うんだが」


「ご一緒しましょうか?」


「いや、そうではなく。私が留守の間、絶対に屋敷から出ないこと。守ってくれるな?」


「はい」


 お屋敷から出なければいいのですね。では探検がてら、裏庭の方を散策しましょう。騎士や兵士の鍛錬場があると聞きました。


 これでも剣術は習いましたのよ。手にマメが出来るたび、妖精王様が消してしまいましたけど。マメを消してしまうと、また痛い思いをするのですが……そう話したら、お兄様はマメが潰れるよりマシだと仰いました。


 マメって潰れるんですのね。状況がよく分かりませんが、痛そうな気はします。それに、潰れた後が気になりますわ。そうだ! アレクシス様なら経験があるかもしれません。


「アレクシス様、ちょっとよろしいですか」


「なんだ……っ! 何!?」


「手を見せてくださいませ」


 さっと近付いて、慌てるアレクシス様のお膝に腰掛けます。ぐらりとした腰を支える腕に寄りかかり、手のひらを掴んでじっくり観察しました。


「この硬くなってるところ、マメが潰れたのですか?」


「何度も潰れてタコになったんだ」


 マメはタコになる? 初めて知りました。そう言えば国王陛下も王太子殿下も、以前触れた騎士団長様も、手のひらが固かったですね。殿方の特徴かと思っておりましたが、違うようです。


「気が済んだか? ヴィー」


「はい」


 するりと滑るように降りた私を、アレクシス様がエスコートしてくださいます。そのまま自室へ戻り、扉の前で別れました。名残惜しいので頬にキスを送り、お見送りの挨拶とします。


「今日の予定はどうなっていたかしら」


「以前お手紙を出されましたシベリウス侯爵夫人より、訪問のご連絡を受けております」


 そういえば、アレクシス様に許可を出して頂いたんだわ。危うく出かけてしまうところでした。ほっとしながら、お茶菓子の準備を伝えてもらいました。お茶は以前に王妃殿下に頂いたものがありますし、あらやだ……ドレスの色を決めなくては。


「お庭にお茶の用意をして頂戴ね。それとドレスは……」


「シベリウス侯爵夫人は青をお召しになるそうです」


 さすがは侯爵夫人、気遣いが素晴らしいです。お陰でドレスの色が重なる心配が消えました。


「では私はライトグリーンのドレスにしましょう。金刺繍の……それよ」


 クローゼットのドレスを示し、準備を始めました。実家ではないから戸惑うけれど、これからは積極的にお茶会を開く予定なの。早く慣れなくちゃね。

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