第5話 クリスのバグ

 女性刑事ルナが帰ったあと、レオは酔い醒ましに水を注文する。


(センスは最初から問題があったのか・・・)


 彼は頭の中でこれまで知り得たセンスに関する情報を呼び出すが、いまひとつバグに関する有力なものは見つからない。


(ダメだな)


 レオはグラスの中の水を一気に飲み干すと、バーをあとにする。ちょうど外に出たところでクリスから連絡が入るが、彼が出る前に電話は切れてしまった。不思議に思ったレオはすぐにクリスへ折り返しの連絡を入れる。


(出ないな・・・)

(普段のクリスならすぐに電話に出るはず)

(もしかして・・・)


 レオは何かに気付いたのか、走っているタクシーを止めると、クリスの自宅へ。


(大丈夫であってくれよ)


 数分ほど走らせたところで彼の自宅に到着。レオはノックもせずに玄関を開けると大声で呼んだ。


「おーい!!クリス!!」


 開けたドアもドンドンと叩くが、彼からの返事はない。


「おーい!いないのかぁ!?」


 いくら呼んでも家の中は静まりかえっている。レオは不安を募らせながら家の中へ。すると、奥からかすかに物音が聞こえる。恐る恐る音の方へ近寄るレオ。どうやらシャワールームから聞こえているようだ。


(シャワーを浴びてるときにバグが起きたのか?)

(頼む!大丈夫であってくれ!)


 そう思ってレオはクリスのシャワールームを覗いた。


「どうした?」


 そこには普通にシャワーを浴びているクリスの姿が。レオは拍子抜けしたのか、その場にへたり込んだ。


「何?いきなり来て覗きか?」


 クリスは意味が分からないといった表情で彼を見つめる。


「いや、何でもない」


 レオはそう言うと、シャワールームからリビングへ。そのあと、少ししてからクリスがリビングへ顔を出すと、レオはテーブルに置かれていたピザを食べていた。


「おい!それ!俺の晩メシ!」

「ごちそうさん」

「はぁ、お前何しに来たんだよ?」

「そりゃあお前から電話があったからだよ」

「あっ!?」


 クリスは何かに気付いたようにシャワールームへ行くと、画面が割れたスマホを持ってくる。


「そういえばお前に電話をしようとしてたらさ、スマホ落として壊しちゃったんだよ」

「なんだそりゃ?」

「すまなかったよ。別にいたずらで電話したわけじゃないんだ」

「俺はお前がバグでも起きたのかと思って心配して飛んできたんだ」

「そうなのか?」

「そうなのか?じゃねぇよ!家に来ても返事がないときはどうしようかと思ったぜ」

「悪かったよ。でも、ピザ食べたんだからそれで許してくれ」


 レオはピザを食べ終えると、タバコに火をつけ、バーであった女性刑事ルナとの会話をクリスに話す。彼は真剣な表情でレオの話を聞くと、大きなため息をついた。


「はぁ~、それってもうセンスの取り外しをしたほうがいいってことだな」

「そうだな、俺たちも取り外ししないと、記憶喪失で大変なことになるかもしれない」

「便利だったんだけどな。暇になればセンスで色んなデータ引っ張り出してたからさ、取り外ししたあとは暇な時間が増えちゃうよ」


 クリスは名残り惜しそうな表情でキッチンへと向かった。レオもタバコを吸いながらセンスで過去の色々なデータを漁りはじめる。


「ドンッ」


 突然キッチンの方から鈍い音が聞こえた。レオは何事かと思い、すぐに音のした方へ駆け寄る。


「おい!大丈夫か!」


 そこには床に倒れたクリスの姿が。


(バグだ)


 そう思ったレオはすぐに911へ電話を入れる。数分ほどで救急隊と警察が駆けつけると、クリスはそのまま病院へ搬送。レオは駆けつけた警官に事情を説明し、センスのバグではないかと伝えた。


 一通り説明が終わり、現場検証も終わったところでレオは帰宅。次の日はあまりのショックから仕事を休むことにした。


(なんで身近な人ばかりに・・・)


 レオが部屋のソファーに座り、うなだれているとテーブルに置かれた一枚の名刺が目に留まる。


(あの女性刑事のか)

(そういえばクリスがどこの病院なのか聞いてみよう)


 彼が名刺の番号へ連絡を入れると、ルナはすぐに電話に出てくれた。


「どうしたの?」

「昨日、俺の友達がセンスのバグで・・・」

「昨日のバグの通報はあなたの友達だったの?」

「それでその友達がどこの病院に行ったのか聞きたいんだ」

「私も聞きたいことがあるから署まで来てくれる?」


 レオが自転車で警察署を訪れると、入り口にはルナの姿が。どうやら彼の到着を待っていてくれたようだ。


「昨日は大変だったわね」

「あぁ」

「とりあえず中で話しましょうか」


 レオはそのまま警察署の中へ。取調室へ通された彼はクリスがどこの病院へ搬送されたのかを聞いてみた。


「あなたの友人はここからすぐ近くの病院よ」

「そうか」

「でも、今はまだ面会謝絶だと思う」

「わかった」

「気になるようなら病院へ連絡を入れてみるといいわ」

「ありがとう」


 ルナの言葉に少しホッとしたレオはタバコに火をつける。


「それであなたの友人はいきなり倒れたみたいだけど」

「あぁ、そうだ」

「何の前兆もなかった?」

「そうだな、キッチンに行ったかと思ったら突然『ドンッ』って音がして、見てみたら倒れてたんだ」

「そうなの」

「昨日説明したのが全部だよ」


 とくにセンスの闇につながるような情報は得られず、ルナは落ち込んだ表情を浮かべる。

 少し話をしたあと、レオはクリスの病院へ足を運ぶことにした。

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