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アスファルトの道路と少し高くなった歩道の間に、落ち葉が固まっていた。それが通り抜けた数台の車により、バラバラになって舞う。街灯はそろそろ明かりを灯そうとしており、その上に止まった一匹のカラスは黒い羽根を
街には様々な人間がいる。
白いセーラー服を着た少女が、その人群れの中で青白い顔をしながら
「危ないですよ」
少女は小さく会釈し、歩みを止めた。ずっと携帯電話を弄っている。けど、何かを見つける度に小さなため息を吐いていた。
――ああ、死にたい。
「ならアタシが殺してあげようか?」
その少女の目の前に突如現れた黒衣のミニスカートの女性が、赤い舌をちろちろと唇から覗かせながら笑う。けれど少女には見えていないようで、何度も「死にたい」と繰り返すだけだ。
「駄目よ、キリエ。そんなに簡単に魂を刈る、なんて言っちゃ」
続いてもう一人、目の前に現れる。同様に足元までを
「刈るんじゃない。殺すのよ、姉さん。死神が殺さないでどうするの?」
キリエはそのお下げを揺らして振り返ると、姉、と呼んだ黒ワンピの方をぎっと睨んだ。しかし姉の方は全く意に介さないで淡々と返答をする。
「まず殺す、という言葉は使ってはいけないわ。死神は人間を殺すのではなく、その魂を刈り取るの。いくら死神だからといって適当に人間の魂を刈っていい、ということにはならないのよ。あなたは志願者ではなかったから確かに講習を受けなかったけれど、それは無知で無学のままでいい、ということではない。ちゃんとその魂の色を判別し、該当する人間のものに対して処罰するという判断が必要なのよ。その為にわざわざ二人一組になっているの」
「わーかったから。いつも姉さんの小言は長いのよ。で、さっきの女子学生は?」
辺りを見回すと既に信号は青へと変わり、大勢の人間が横断歩道の上にいる。
「あっ」
先程のセーラー服の女性は向こう側の通りに渡り、分かれた路地の一本へと入っていくところだった。けれど彼女はそこで一旦立ち止まる。自分の携帯電話を見て、少し笑った。
「あれが死にたい人間に見える?」
「まだ分かんないじゃん」
「ちょっと来なさい」
そう言って姉はキリエの腕を
後ろから覗き込むと、彼女と友人らしき人物のLINEのやり取りを見ることができた。それによればどうやら彼女は今日、中学三年間ずっと片思いをしてきた男性に告白をしたけれど、振られてしまい、自暴自棄になっていた。それに対して友人は「自分は十連敗した玉砕マスターだから、今夜は一緒に泣いてあげる」と返していた。
彼女はセーラー服のリボンを引っ張って外すと、空を見上げて思い切り「ばーか」と叫んだ。
「ねえ」
「何よ、キリエ」
「どうして人間てすぐ死にたいって言うの? さっきの子だって全然死にたくないじゃん」
駅前は会社帰りの人間や買い物に来た主婦、学校が終わった学生たち、店の客引きやセールスマンたちの声で賑わっていた。その人混みを眺めながら、キリエは唇を尖らせる。
「死という言葉はね、一番目立つ場所に置いてあるからよ。疲れた。今すぐやめたい。休みたい。どこか遠くの場所に行きたい。やり直したい。そういうネガティブな感情が、一番目立つ言葉に乗っけられて口から思わず出てしまうのが、死にたいっていう言葉なだけ。本当に死にたくなったらね、人間、そんな風に外側には出さなくなるものよ」
「わたしには分かんない。死んじゃったら楽しいこと、何もないのにね」
そう
それは人間には見えない、死神の姉妹の苦笑だった。
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