クシャナの将来
その後、ミナルーシュの自動襲撃の〔魔術〕を切って、クシャナやルゥジゥも戦闘に参加して経験値をぼちぼちと稼いでいる時に、ふとルゥジゥがそれに気づいた。
「そう言えば、クシャナって〔魔女の箒〕を持ってたよね」
「うん。なんで?」
「いや、空飛んで相手の上取ったら簡単に影で捉えられるんじゃないかと思ってさ」
「……あっ」
今更言うまでもなくクシャナの〔魔術〕で特に有力なのが影に重力の檻を造り出して相手を〔束縛〕するものだ。そしてその〔魔術〕の難点は影の中に相手が入るように位置取りをして、多くの場合かなり接近しないといけないことだ。
それが空から影を落とせるとなれば、クシャナの安全をかなり確保できる。
「お、ルゥジゥいいこと思いついたね。グッジョブ」
「クシャナはともかく、ゲーマーのミナが気付かないってどうなんだ。自分のことばっかり考えてるんじゃないよ」
グッと親指を立てるミナルーシュにルゥジゥは冷ややかな眼差しを差し向ける。その発言にはクシャナもうんうんとうなずいている。
二人から自分勝手な部分を非難されたミナルーシュは一瞬だけ真顔で二人に向き合った。
「ま、あれだね。弘法も筆の誤りってやつだね!」
なのに悪びれた様子もなく、あっけからんと笑って見当違いなところで頭をかく。
クシャナは重苦しくため息をはき出して、イナバをちょこんとミナルーシュの頭に乗せた。
「やっちゃえ、イナバ」
「きゅい!」
クシャナのかけ声を受けて、イナバは気合を入れてミナルーシュの頭の上で跳ねる。
「痛……くはないけど、微妙に重いっ」
実害はなくてもミナルーシュはイヤがっているから、十分罰になっていると見て、クシャナはそのままイナバにがんばってもらうことにした。
イナバがぴょこんぴょこんと跳ねる下で変な声を出しているミナルーシュを放置して、クシャナは〔インベントリ〕から〔魔女の箒〕を取り出した。その細い柄に横座りすると、名前に違わずその箒はふわりとクシャナを乗せて宙に浮かんだ。
そのままクシャナはするすると上昇していく。ちらりと下を覗けばしっかりと黒い影が地面に落ちている。
「いけそう」
「だね」
「じゃあ、うぐ、クシャ、にゃ、ひゃ、もう!」
イナバに頭の上でジャンプされているのが喋るのに邪魔で仕方なくて、その大福みたいに白くて柔らかい体をぐわしと捕まえた。
「クシャナには敵を影で押さえてもらってあたしがとどめでいこう!」
ミナルーシュがそれ以外にどうするんだという感じの話をしている間に、イナバはもぞもぞと体をよじってその手の中から抜け出して地面に転がった。
クシャナはいったん地面に降りて、イナバに向かって腕を伸ばしてまねく。イナバはぴょこん、ぴょこんと跳ねてクシャナの腕の中にまた納まった。
「じゃ、わたしは上にいるからね」
「おけ」
イナバを抱えたクシャナがもう一度〔魔女の箒〕に乗って上昇すれば準備は万端だ。
そこからはまた敵を探して探索の再開だ。
「クシャナ、次は〔
移動のヒマ潰しにミナルーシュが次に取る〔ルーツ〕を話題してきた。
「テイマー?」
「そ。モンスターを〔テイム〕して一緒に戦う〔ルーツ〕だよ」
最弱モンスターの〔チビット〕とは言え、せっかく〔テイム〕の〔スキル〕を取得したのだ。ミナルーシュ達はこの先も〔ファミリー〕の三人だけでずっとプレイしていくつもりだから、テイムモンスターで戦力を増強できれば大型ボスとも自分達だけで倒せる。
「クシャナ、生き物好きでしょ?」
「好きだけど」
「こっちならいろんなのを飼えるよ」
「いろんな生き物」
箒に乗ってほわほわといろんな生き物を想像をしているクシャナはまんざらでもなさそうだ。
「そういうのって、〔HP〕が0になったらどうなるの?」
ふとルゥジゥがそんな疑問を投げかけた。
戦闘に参加させるのだから、〔テイム〕したモンスターもそんな事態になるだろう。プレイヤーは〔デスペナルティ〕を受けて女神のいる〔ログイン〕画面に戻されるが、モンスターも死に戻りはあるのだろうか。
「あ、普通に死んでロストするらしいよ」
「死ぬの!?」
「きゅぅ」
ミナルーシュがさらりと死亡すると言われて、思わずクシャナはイナバを抱く腕にぎゅっと力をこめてしまった。それでイナバは苦しそうにうめく。
「ああっ! ごめん、イナバ!」
「きゅー」
力を緩めた腕の中でイナバは特に気にした様子もなくすりすりとクシャナに体をこすりつける。
「あと、寿命もあるって掲示板に書いてあったね」
「寿命もあるの!?」
クシャナはおそるおそるイナバに目を落とす。〔チビット〕は普通のウサギよりもずっとちっちゃい手のひらサイズだ。小さい生き物の方が寿命が短い。
イナバがすぐに死んでしまったらどうしようとクシャナは思い悩む。
「イナバの寿命を延ばす〔スキル〕とかないかな……」
「いや、まだ書き込みでも見たことないけど……あるとしたらやっぱり〔使役者〕系統じゃない?」
〔使役者〕には〔テイム〕したモンスターを強化したり成長させたりする〔スキル〕があるというから、寿命に影響する〔スキル〕も獲得できるかもしれない。
ミナルーシュがそう思ってクシャナに教えると、クシャナは真剣な眼差しをミナルーシュに向けてくる。
「わたし、〔使役者〕になる」
クシャナはまるで将来医者になるとでも言うような気迫に満ちた宣言をしたのだった。
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