ウワサは娯楽

定食亭定吉

1

 某物流倉庫。そこに新卒で就職して数ヶ月の荒木。予想より暇な現場だ。立ち上げばかりの物流倉庫。以前の所在地は老朽化で、そこからの転勤者も多い。

「おはようございます」

同じ入庫引き受け係の先輩、千葉に挨拶する荒木。だが、いつものように無視され、気分悪く一日がスタートする。

 そして、朝礼はスタートする。一方的に入庫引き受け係長が伝達事項を話す。その中で顧客から預かった商品てあるスナック菓子を横領したという事例が紹介される。防犯カメラの死角で、犯人を特定出来ず、内心、他人事だった荒木。

 朝礼後、各々、持ち場へ行く部署メンツ。そんな中、荒木が犯人だというようなウワサ話しが聞こえる。しかし、聞こえぬふりをしてやり過ごす彼。今回は、会社が横領された商品額を弁償することで事なきを得たようだ。

 入庫作業がスタートする。着荷トラックはまだ到着しておらず、バース前を何人かのグループ派閥ごとに雑談していた部署のメンツ。だが、雑談内容は同部署の誰かしらのウワサ。耳障りな荒木。これなら、仕事が多忙な方がマシと感じる。これなら、仕事が多忙な方がマシと思う。

 そのうち、着荷トラックが到着。

「すいません。先日、この〇〇一ケース不足だったようで、申し訳ありません。その分もお持ちしました」 

トラック運転手は何度も頭を下げる。

「そうですか?てっきり、ウチのアイツが盗んだのかと思いましたよ」

千葉は荒木を指す。その言動を見ていてた荒木。怒りは込み上げたが相手にしてても仕方ないと思った。

「今日は降ろし忘れないでしょう?」

嫌味な千葉。

「平気です!きっちり検品しているので」

運転手は気まずそうに帰る。この倉庫へ搬入されるのは主にスナック菓子だ。

「おいっ!在庫、盗むなよ!」

カート台車で、トラックバースから格納ラック移動時、千葉に絡まれる荒木。

「僕は盗むつもりないですし、お金に困ってないですから」

日頃の矛先を倍返しにして噛みつく。

「止めましょう!あの人を相手にしても時間の無駄でしょう」

様子を見ていた同期の黒井。大人しくウワサされない彼。

「そうかもね。大人の対応をしていればいいのだろうね」

黒井の助言により冷静になる荒木。意識的に仕事に集中する。

 ふと黒井の仕事ぶりが目に付く。携帯をイジリながら、ダラダラしている。その時、ポケットに商品在庫を入れるシーンを目撃。噛み付こうとしたが、論より証拠、すかさず、スマホカメラで撮影することに。内部告発し、黒井を退職させたかった。それぐらい彼が憎かった荒木。それぐらい彼が憎かった荒木。画像は鮮明に録画され、これで黒井を解雇に追い込む。

 だが、規模の大きい会社でないので、内部告発するような機関はない。それにウワサかはわからない。仮に発覚しても、弁済出来る範囲である。

 千葉がストレスなら退職するしかない。自分の担務を一段落させ、事務所へ向かう荒木。意を決し、所属長に撮影した画像を見せることに。

「これっ、千葉さんが」

スマホを所属長に見せる荒木。

「いつもの事だ」

「何で野放しなのですか?」

つい声を荒げる荒木。

「アイツは経営者の親族だから」

噂は真実だ。

「給料も薄給だからな」

それなら納得出来た。そして、彼がウワサを流すしか楽しみがないのに同情した。

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ウワサは娯楽 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi

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