第142話 孵化用バスケット工房の長い一日1

「やあ、君が依頼を受けてくれた冒険者さんだね? 使役者ギルドから連絡があったよ」


 クエスト受注のボタンを押すと、画面が暗転して『ブランチ・シルク工房』と看板が掲げられた建物の前に、テイムモンスターごと転移させられた。私が何かアクションを起こす前に、扉からNPCの黒髪を刈り上げた男性――腰にたくさんのポーチが付いたベルトを巻いたつなぎを着て、革製の手袋と長靴を履いている――が出て来てムービーが始まる。


「私はこの工房の代表をしているトロン。よろしく頼むよ。……さて、ギルドからある程度説明されているとは思うけれど、うちは今、一時的な人手不足に陥ってしまっている。不幸中の幸いで、『孵化ふか用バスケット』を作り上げる錬金術師アルケミストは出勤しているが、それ以外の作業が滞っている状況だ。そこで君には、ここでの仕事をいくつか手伝ってもらいたい。やってもらえるかな?」


 依頼主、トロンの話を聞いた上で、あなたは快く頷いてみせる。それに安堵したトロンはほっとした様子で胸をなで下ろした。


「ありがとう! うちは他の工房と違ってただ商品を作るだけじゃなく、バスケットの素材となるフォレスト・モスの養蚕ようさんからやっているから、仕事が多くてね。とても助かるよ!」


 早速、最初の仕事を任せるべく、トロンはあなたを敷地内に招く。


 こうして、人手不足の孵化用バスケット工房で働く、長い一日が始まった。




「――確かに仕事が多い、とは聞いてましたけど、本当にタスクがたくさんありますね!? しかもマップをあっちこっち移動しなくちゃいけないの、けっこう疲れる!」

「ブルル……」

「ポポ?」


・がんば

・クリアできたタスクは5つか

・これはだるい

・愛華ちゃんは馬に乗って移動してるでしょ

・ファイトー


 冒証解析課検証班のネタバレ無し攻略ページには、確かに『イベントマップが広い』『渡されるタスクリストを全て熟さないとクリアにならない』って書いてあったけど、予想以上だよ!

 第三エリア『風鳴山』のふもと、森を切り開いたところにある工房の敷地は、アウトレットモールがすっぽり入っちゃうんじゃない? ってくらい広大で、しかもフォレスト・モスを飼育する建物や工房、従業員の宿舎などの施設はてんでばらばらに配置されている。そんな中で、やらなくちゃいけないタスクは『ハウスにあるエサを飼育小屋に持って行く』とか『工房の掃除をしてゴミを捨ててくる』とか、とにかくマップを駆けずり回る必要があるものばっかり。私は黒檀丸がいるから、まだましだけど、それでも重労働なことには変わらないよ……。

 しかも、大変なのは移動だけじゃない。


「おぉい、冒険者さん! すまないが果樹園に来てくれ! 鳥のモンスターが果物を狙っているんだ! あれはフォレスト・モスのエサにもなる大事な物だから、追い払ってくれ!」


『緊急タスク:【果樹園を死守せよ!】が発生しました (※制限時間:15分)』


「ぬああ!? また追加ミッション! というか戦闘? もー、移動するところからタイマー動くのやめてよー!」


・思った以上にきついなこのクエスト?

・走れ走れー

・またか

・緊急の方は失敗してもいいらしいけど・・・

・バトルだ!

・がんばれがんばれ


 これ! 最初のお仕事リストに入ってないくせに、急に挟まってくる緊急タスクってやつが面倒くさいの! 時間制限もそうだけど、内容がランダムっぽくて今回みたく戦闘だったりスキルを活用しないとクリアできないものだったりして、すごく大変。


「緊急タスクは、本来のタスクリストとは別カウントらしくて、失敗しても問題ないらしいですけど……スルーするのもなんか嫌です!」

「ガウ!」

「あ、着いた……ってもう青梅戦ってる!?」

「――!」


 黒檀丸を走らせて、数分もかからず果樹園に到着する。そこでは既に先行していた青梅がエネミーに襲いかかっていた。私は慌てて『識別』スキルを発動させ、魔法の詠唱を開始する。




ラージダウ LV18

状態:アクティブ

属性:獣 弱点:水・闇

好物:シュガーコーン

テイム不可 コントラクト不可(※クエストモンスターのため)




「デイジーが選ばなかった分岐進化先のやつだ! 八体……青梅、撃ち落とすよ! 黒檀丸と菖蒲は落ちたのを追撃、デイジーは避けたハトを牽制! 『マジックミサイル』!」


・判断早くなってる

・デイジーの親戚

・10分で倒すぞ

・久しぶりの戦闘シーン!

・かっけえ


 そこそこ数が多いのと飛んでいるのは厄介だったけど、レベルは私たちの方が上――菖蒲しょうぶだけは相手よりレベルが低いけど、ステータスは高めだから大丈夫――なこともあり、危なげなく倒すことに成功した。制限時間も……うん、余裕だったね。


『従魔『菖蒲』のレベルが上がりました。規定レベルに達したため、進化クラスチェンジが可能になります』


「菖蒲、進化できるの? やったあ!」

「ガオ!」


・お

・よっしゃ

・めでたい!

・おおお

・進化だーーー

・進化先見せて!


 相手モンスターの数がそこそこいたおかげか、菖蒲がレベルアップして進化可能になった! インペリアルタイガーの卵から生まれたブレイブタイガーの進化先……私も気になる!

 急いでウィンドウを操作すると、二つの進化先が表示されていた。




レックレスタイガー(ブレイブタイガー一次進化)

進化時、筋力+5、スキル『捨て身』『追撃』『怒り』を取得。

 命知らずの戦いをするトラ。自身の傷をかえりみず、ひたすら目の前の獲物を倒すことに執心する姿は、見る者を畏怖させる。


剣牙虎サーベルタイガー(ブレイブタイガー一次進化)

進化時、筋力+3、走力+1、器用+1、スキル『追跡』『剣牙』を取得。

 牙が剣のように発達したトラ。森林に身を隠しながら隙を伺い、牙の一撃で敵を屠る。狩りをする姿を目撃し、生きて帰った者は少ない。




「えーと、これは……剣牙虎一択ですね! なぜなら、うちの子たちのスローガンは『命を大事に』だからです! あとサーベルタイガーって絶対かっこいい!」


・草

・レックレスタイガーの振り切れっぷりよ

・(愛華ちゃんならそう)ですよねー

・しのはら ¥1,000- どっちも見たいけどここは飼い主さんの意見が最優先かな?ちなみに『レックレス』は『命知らず』って意味です

・ただでさえ前のめりな菖蒲くんが更に捨て身になってまう

・サーベルタイガー??

・ココバーガー ¥300- 剣牙虎はテキスト的に暗殺者√入るっぽい?

・即決

・うちの子たちの ※愛華ちゃんは必要あらば捨て身になります


 色々言いたいことはあるけど、レックレスタイガーは絶対地雷でしょ! 進化時のステアップが筋力極振り、しかもスキルが『捨て身』、『追撃』、『怒り』とか完全に防御を捨てて深追いする構成だし。そんな危なっかしいの、私は許しません!

 というわけで、迷うことなく『剣牙虎』を選択。黒檀丸、デイジーに続いて三度目となるBGMと光の演出が入り、菖蒲の進化が完了した。




菖蒲

種族:剣牙虎サーベルタイガー LV15

ステータス

体力24 筋力31 走力21 器用10 知力7 精神6

HP110 MP26


スキル

威嚇 夜目 気配察知 ダッシュ 追跡 体当たり 噛みつき 剣牙 強襲


ハイスキル

猛虎襲来


好物:スタンピード・ブルのフィレ肉、肉類


装備

ステラバンダナ“サザンクロス”




「グルゥッ!」

「おおぉっ! おっきくなったねぇ、菖蒲! なんていうか、全体的に筋肉がついてがっしりした感じ? 顔も精悍になったし、何よりこの牙! 超かっこいいよ!」


・でか!?

・一気に成体になった

・こう見ると前まではまだ成長途中だったって分かる

・牙!

・うおお

・でっかいネコちゃん! でっかいネコちゃん!

・もふらせて!!!!


 進化した菖蒲は、かなり姿が変化していた。

 まず目を引くのは巨大な牙。サーベルタイガーのように、犬歯が発達して杭のような、刺突剣のような形になっている。それだけでなく、身体全体が一回り以上大きくなり、ネコ科猛獣らしくしなやかで力強い体格になったようだ。

 鳴き声が一オクターブ以上低くなったこともあり、大人に成長したのだと感じられる。


「よぅし、楽しくなってきた! この調子で、クエストクリアしちゃいましょう!」

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