年の差ぶんのプロローグ

しょうりん

プロローグ

 今年の春は、俺にとってまさに一番輝いている春だった。


 新しい学年、新しい教室、新しいクラスメト。

 そして、新しい先生。


 開け放たれた窓から、優しい春の風が吹いて、その人の長い髪をさらさら揺らす。

 伏し目がちにした大きな目、つんとした鼻、適度な厚みのある唇。


 何時もはくるくると忙しく表情が変わるのに、今日はいやに落ち着き払った様子なんかしている。


 俺は、そんな彼女を優しく見つめながら、教科書を朗読する涼しげな声に耳を傾けていた。


 綾子の声は、ソフトだが張りがあって、見かけの童顔とは違ってやや大人っぽい。

 その声が、何時も俺を励まし、惹き付け、ときめかせる。

 その指が俺の肩や髪に触れるたびに、抑えきれない衝動を感じさせる。


 年上の女。


 そう、俺は四月生まれなので、今年で十七歳。そしてその人は、八月生まれの二十三歳。


 俺がやっと高校を卒業した時、彼女はとっくに二十六歳になっている。

 どうあがいても、六つの歳の差が埋まる事は一生ない。


 けれど、何時かきっと、歳の差なんて意味が無くなる日が来る筈だ。いや、きっと意味なんて無くしてやる。


 ・・・・・・綾子。


 俺の隣の家に住む、可愛い人。

 子供の頃は、大好きなお姉さんだった。

 そして今は、俺のクラスの国語の先生。

 俺が、唯一愛する女。

 目を閉じると、様々な思いが甦ってくる。  


 俺は、ずっと綾子を見て来た。綾子だけを、見つめてきたんだ。

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