第24話 イケメン5人衆との戦いが始まる
身体の大きな男だ。背は自分よりも高いと思う。
「さあ始めようか勇者よっ! この俺とのイケメンバトルをっ!」
男が黒衣を脱ぎ去る。その下から現れたのは……
「ぐははははっ! 俺様こそがハイパーサタン様に仕えるイケメン5人衆の一角、イケメン・ザ・ストロングこと、グレートバーン様だぁっ! ぐははははっ!」
筋骨隆々のでかい男だ。イケメンと言うだけあって容姿は整っており、身体は魔物のオーガよりも大きく、一目でパワーがあるとわかる。
「むぅんっ!」
グレートバーンはさらに着ている衣服を脱ぎ去り、上半身を裸とする。
「ぐははははっ! どうだこの筋肉はっ! あまりの美しさに眩暈がするだろうっ!」
「きゃーっ! 素敵ーっ!」
身体を披露するようなポーズをとるグレートバーンに、観衆の女たちが声を上げる。
「あんなの筋肉の塊なだけで、ぜんぜん良くないですよっ! ねえハバンさんっ?」
「いや、俺に聞かれても……。ツクナはああいうの好きなんじゃないか?」
なんか筋肉とか好きらしいし。
「馬鹿にするな。ツクナが好きなのは芸術品のように美しく鍛え上げられた肉体じゃ。あんなただ筋肉をつけただけの肉体などに興味は無い」
「そ、そうなのか」
以前に部屋で見たポスターの男が美しく鍛え上げられた肉体の持ち主だろうか? 俺にはその男と目の前の男との違いがよくわからなかった。
「さあ勇者よっ! 貴様も脱いで肉体を披露するがいいっ!」
「えっ? ぼ、僕も脱ぐのか?」
「ふっ、貴様も戦いを主とする男だろう。ならば肉体以外なにでイケメン度を現すというのだ?」
「むう……そうだな」
そうなの?
首を傾げる俺の眼下でデムーロニーも衣服を脱いで上半身を裸とする。
デムーロニーもなかなか鍛え上げられた肉体をしているが、相手のほうが何倍も身体はでかい。単純な殴り合いならば分は悪そうだが……。
「どっちが勝つと思う?」
イケメンバトルなどという女性が判定する珍妙な対戦方法では、男の俺に勝敗の予想はできない。
「向こうの男じゃな」
「えっ?」
考えることもなくツクナが答える。
「どうして……」
「見ていればわかる」
「う、うん……」
両雄が相対する舞台に視線を戻す。
はたしてどのように戦い、決着をするのか? 成り行きを見守った。
「ふむ、なかなか良い身体をしているが、俺の相手ではないな」
「な、なに?」
「さあ判定を頼むぜレディたちっ!」
「うん? あれは……」
舞台の上空に看板のようなものが2つ現れる。そこには数字のゼロが並んで表示されており、それぞれの上部に舞台で向かい合う2人の名前が書いてあった。
ゼロだった表示はやがて別の数字に変化していき……。
「む……」
デムーロニー40。グレートバーン60。最終的に数字はそう表示された。
「ふっ、俺の勝ちだな」
「くっ……」
デムーロニーが膝をつく。
「あーっ! 負けちゃいましたよーっ!」
「そ、そうだね」
いや、どういう判定基準なんだ……。
「やはりの」
「どういうことだ? なぜデムーロニーは負けたんだ?」
「2人の男をよく見るのじゃ」
「うん」
デムーロニーとグレートバーンを凝視する。
「2人のイケメン度は同じくらいじゃろ。肉体の美しさも同じくらいじゃ。ならば単純に筋肉の量で判断する者が多いということじゃ」
「な、なるほど」
わからん。
しかしいきなり勇者が負けてしまうとは。これはかなり厳しい。
「ぐははっ! さあ勇者よっ! イケメンバトルで敗北した者の末路はわかっているなっ?」
「……わかっている」
立ち上がるデムーロニー。そして、
「あっ!?」
「うおおおおっ!」
走り出し、丸い地面の端から崖下に飛び降りてしまう。
「えっ? あ……ほ、本当に自害したのか?」
「それがイケメンバトルのルールですから……」
リュアンの暗い声音を聞き、俺はグッと唾を飲み込む。
これがイケメンバトル。
命懸けでやるには、なんて馬鹿らしい対決方法なんだろう。
「あ、で、でも勇者のデムーロニーが死んだら……」
目的が達成できないのでは。
「問題ない。ともかく今は奴らとの戦いに集中すればよい」
「えっ? あ、そ、そうなの?」
まあツクナがそう言うならばと、俺は懸念を胸にしまい込む。
「ふふふ……早速、勇者が敗北か。これは我らの勝利が決まったようなものだな」
対面の崖上で黒衣の男がせせら笑う。
いきなりデムーロニーが負けてしまった。こうなると自分が5人を相手に勝たなければならないわけだがと、俺は頭を悩ませる。
自分とデムーロニーの外見にそれほどの違いは無い。彼より勝っているのは背丈くらいで、身体つきは似たようなものだろう。
「がははっ! 結果は見えているが、戦いはまだ終わっていないなっ! そこの従者よっ! 早く降りて来いっ! 終わりにしてやろうっ!」
……とはいえ、こうなってはいかないわけにもいかない。
意を決して舞台へ向かって飛び降りようとする俺の服を、背後から誰かが掴む。
「ん? ツクナ?」
「ま、気軽にやってくるのじゃ。ハバンは絶対に負けんからの」
「そ、そうかな?」
絶対とまで言い切れるその理由はわからない。しかしツクナが言うならきっと大丈夫だろうと俺は自信を持って舞台へと降り立つ。
「ほお、負ける戦いを逃げずに立ち向かってくるとは良い度胸だ」
「やる以上は、負ける気なんかないさ」
俺も上着を脱いで上半身を裸とする。
「がははっ! そんな貧相な肉体で俺に勝つつもりとは笑止っ! 貴様も勇者と同じように俺の鍛え抜かれた肉体に敗北するがいいっ!」
「くっ……」
グレートバーンのほうが俺よりも背は高い。そして筋肉の量は圧倒的だ。
これはやはり勝てないかと俺は顔をしかめる。
「さあ判定だっ!」
グレートバーンの声とともに、頭上の数字が変わっていく……。
やがて表示された数字に、俺は目を見開いた。
「な、なんだとぉっ!?」
しかし俺よりもグレートバーンのほうが目をカッと見開き、それと同時に驚きの声を上げる。
判定は100対0。俺が100でグレートバーンが0だった。
「なぜだっ!? どういうことだ女どもぉっ!?」
グレートバーンが周囲の女たちを振り仰ぐ。
「格好良い……」
「素敵……」
「な、なにっ?」
女たちの視線がすべて俺に注がれる。
数多の熱っぽい目で見られて俺は少し戸惑う。
「なんて言うか……芸術的な身体だよね」
「あの人の身体とくらべたら、グレートバーンのはただでたらめに鍛えてでかくなった身体ってわかるね」
「てか、身体とかどうでもよくなるくらいちょーイケメン。はぁ……」
どうやら予想に反して自分のほうが女たちの評価は高いようだったと、俺は驚いていた。
「なにかの間違いだっ! この俺がこんな貧相な身体の奴に負けるはずが……っ」
「ただ鍛えれて身体をでかくすればよいというのは間違いじゃ」
ツクナの声が崖上から聞こえ、そちらをグレートバーンが仰ぐ。
「ハバンの肉体はバランスよく筋肉がつくように鍛え上げられている。だから美しい。お前の肉体は無計画に鍛えてでかくしただけの不細工な筋肉がついているだけじゃ。だから醜い」
「が、がーんっ!」
グレートバーンが舞台に膝をつく。
「お、俺はただがむしゃらに鍛えればでかく美しい肉体が手に入ると思っていた。しかしそうではなかった。く、くそっ! 俺は……俺は……うおおおおっ!」
その場から跳躍したグレートバーンが崖下へと飛び降りて行く。
「あ……」
なにかしたつもりもないが、とにかく勝ったようだ。
「ふっ、なかなかやるようではないか」
崖上の男が嬉しそうに口元を歪めて俺を見下ろす。
「いや、ただ上着を脱いだだけなんだが……」
「くくく……それじゃあ次は僕が行かせてもらうよ」
2人目の男が舞台へと飛び降りて黒衣を脱ぎ捨てる。
「うん?」
今度の男はグレートバーンほどでかくはない。なんだか暗い雰囲気の男で、なぜか右手には蛇を持っており、左手にはワイングラスを握っていた。
「僕はハイパーサタン様に使えるイケメン5人衆のひとり、イケメン・ザ・ミステリアスこと、シノンダートさ。肉体では後れをとっても、ミステリアスさでは僕のほうが圧倒的さ。ふふふ」
確かに蛇とワイングラスを手にしているのは意味不明でミステリアスだ。しかしそれがこの戦いにおいて有利になる理由がさっぱりわからない。
「その……ミステリアスなのはイケメン度に関わることなのか?」
「当たり前さ。ミステリアスはイケメン度を上げる重要な魅力だよ。不思議さを持ったイケメンに、女性は探求心をくすぐられて参ってしまうのさ」
「は、はあ……」
よくわからないがそうなのだろうか?
「ふっ、見たところ君にはミステリアスのミの字も無さそうだ。これは僕の勝ちだね」
「う、うーん……」
蛇とワイングラスを持っているだけで魅力が上がるとはまったく思えない。
しかしそうだとすれば、ミステリアスな部分が無い自分は負けてしまうかもとちょっと不安になる。
「ハバン」
「うん?」
崖上を見上げると、ツクナが右腕の内側を指差していた。
「右腕の取り外しボタンを押せって? なんで? まあいいか……」
指示通り右腕の取り外しボタンを押す。
プシューっ!
煙を吐いて外れた右腕を左手で持ち上げる。と、
「う、腕がはずれたーっ!?」
目の前でシノンダートが声を上げた。
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