第22話 いざ魔王城へ向かう
「えっ? 君らはついて来ないの?」
勇者のデムーロニーとその一行を加えてこれから魔王城へ行こうというとき、仲間の女3人が共に来ることを拒んだ。
「うーん。だってあたしら行っても足手まといになりそうだしー」
「そんなことは……」
「ありますって。勇者のデニーとハバンさん、それに元魔王もいるんですよ。私たちなんている意味ないですって」
「そうですわ」
「いやでも……」
俺はデムーロニーのほうへ目をやる。
「そうだね。確かにそうかもしれない。これからの戦いは厳しいだろうし、自分の身を自分で守る自信が無いのならばついて来ないほうがいい」
「そうなの?」
「うん。彼女たちの実力ではこの先の戦いについてはこれない」
「そうか……」
これまで仲間として共に過ごしてきたデムーロニーがそう言うならば、自分がなにか口を挟んで止めたりすることもないかと、俺は納得する。
「そういうことだから。それじゃーね」
そう別れを告げて3人は去って行く。
残ったのは俺とツクナとリュアンとデムーロニーだけとなった。
「なんか薄情だね。今まで魔王を倒すために戦ってきたのに、あっさり勇者を置いて去って行っちゃうなんてさー」
「うんまあ……その魔王は君なんだけどね」
この子は自分が魔王だって忘れているんじゃないだろうか。
「彼女らだって自分の命は惜しいだろう。これでいいんだよ」
「う、うん」
彼はすっかり別人だ。まさに俺が思い描いていた勇者そのものとなっていた。
「ハバン君、この子も連れて行く気かい?」
デムーロニーはツクナを見下ろしながら言う。
「えっ? そうだけど?」
「こんな小さな子を連れて行くのは危険だと思うけど」
「うん? うん」
まあそう思うのも無理はない。
「この子は大丈夫だよ。むしろ俺たちの中でもっとも頼りになるから」
「そ、そうなのかい? 僕には普通の子供にしか思えないけど……」
納得いかなそうな表情でデムーロニーはツクナに目をやる。
「ツクナはお前の女ではない。じろじろ見るな」
「あ、ごめんね」
「ふん」
不愉快そうに鼻を鳴らしたツクナがパソコンを操作する。と、デュロリアンが異空間から走り出て姿を現す。
「うあっ!? なんだいこれはっ!?」
デムーロニーが声を上げて退く。
驚くのも無理はない。自分も最初は驚いたと苦笑う。
「移動の手段じゃ。早く乗れ」
腰を抜かすデムーロニーをよそに、ツクナは助手席へと乗り込んだ。
2人を後部座席に乗せた俺は、運転席に座って出発をする。
「わ、動き出したっ! どうなってるんだいっ? これはっ?」
「ふふふ、これはカガクというものだよ勇者君。君には難しいかな?」
「お前もわかっておらんじゃろ。のう、ハバン?」
「ははは……」
自分もよくわかってないので、俺はなにも答えずただ笑う。
「カ、カガク……魔法とは違うのですか?」
「魔法などよりずっと高尚なものじゃ」
「そ、そうなんだ。すごいんだなカガクって」
「すごいんじゃ。のうハバン」
「ははは……」
まあすごいというのだけはわかる。
雑談をしつつ、ツクナの設定したナビに従って目的地である魔王城へと向かう。
「前から疑問に思ってたんだけど、わざわざ走らせて移動しなくても、異空間道を使えば一瞬で目的地に着くんじゃないか?」
「異空間道での移動にはガソリンとは別に、貴重なエネルギーを使用しなければならん。それの調達が少々、面倒での。異世界移動以外ではあまり使いたくないんじゃ」
「そうなのか」
ならしかたないか。
しかしガソリンとは違う貴重なエネルギーとはなんだろうか? 少し気になった。
「あ、じゃあ飛ぶのは?」
「リュアンをはねとばしたときに空を飛ぶ装置が壊れたようじゃ」
「ええ……」
城壁に突っ込んでも壊れなかったのに。
どんだけ丈夫にできてるんだリュアンは……。
それからほぼ丸1日デュロリアンを走らせ、やがて魔王城へとやってくる。
「ここからは歩きじゃな」
「うん」
いかに敵の城とはいえ、さすがにデュロリアンで中を突っ切るわけにはいかないか。
全員が降りると、デュロリアンはふたたび異空間へ消えた。
「き、消えたっ!? どうなってるんだいっ!?」
「カガクだよ。これがカガクなんだよ勇者君。ふっふっふ」
と、偉そうに胸を張ったリュアンの手がデムーロニーの背をポンポン叩く。
「カガク……。カガクってなんなんだ……」
「そんなことより、ハイパーサタンとやらが城のどこにいるかはわかっているんじゃろうな?」
「あ、うん。たぶん最深部の玉座に座ってるんじゃないかな?」
最深部。こんな大きな城の最奥まで行くなんて大変そうだ。まあ、元家主がいるから道に迷うことはないだろうし、そこは安心だろう。
「でも途中には魔物がたくさんいますからねっ。気を付けないとっ」
「魔物って……」
運転中に何度か見かけた奇妙な生き物か。襲い掛かって来るのもいたけど、みんなデュロリアンのバリアに弾き飛ばされてたからさほど気にならなかった。
「ここの魔物は手強いですからね。気を引き締めて行きましょうっ」
「うん」
と、道案内のリュアンを先頭に俺たちは魔王城へと入る。
「ん」
「うん?」
ツクナが両手をこちらへ伸ばしてきたので抱き上げる。
「怖いか?」
「馬鹿を言え。ハバンが迷子にならないようにこうするのじゃ」
「そ、そっか」
確かにこれほど大きな城だと、はぐれて迷ってしまう可能性はある。
「あ、ずるいっ! わたしもハバンさん抱っこしれもらいたいですっ!」
「君は先頭を歩いて、魔物が出てきたら教えて」
「ぶーっ!」
頬を膨らませてリュアンはひとり先頭へ出て行く。
あんなでも彼女は魔王と呼ばれる強者だ。元手下であろうここの魔物がでてきても、ひとりで倒してしまうかもしれない。
「あ、魔物が出てきましたよっ!」
「えっ?」
前へ目を向けると、青色のぐにゃぐにゃした物体が1つ蠢いていた。
「なにあれ?」
「スライムですっ!」
「スライム……」
生き物なのかあれは? だとして、あんなぐにゃぐにゃした生き物に銃弾や剣での攻撃なんか効果があるんだろうか?
「ファイっ!」
「お」
リュアンが魔法で炎を放つと、スライムは一瞬で焼失した。
「なんだ、たいしたことないな」
「ここはまだ魔王城の入り口ですからね。先へ進めばもっと手強い魔物が出てきますよ」
「そっか」
まあそんなに甘くはないか。
けれどやっぱりリュアンは強い。彼女だけでもだいぶ先まで進めそうだ。
「あ、また魔物が出てきましたよ」
しばらく歩くと今度は緑色をした人型の小人みたいな魔物が1体だけ現れる。
「あれはゴブリンだ。僕に任せて」
と、デムーロニーがゴブリンを一瞬で斬り伏せてしまう。
「さすが勇者だな」
「いや、あの魔物が弱かっただけさ」
謙遜しつつデムーロニーは剣を腰の鞘へ納める。
勇者と魔王。やはりこの2人は強い。
彼らがいれば自分の出番は無く、最深部まで到達してハイパーサタンとやらも倒してしまうのではないかと俺は思えてきた。
「気を抜く出ないぞハバン」
「えっ? あ、うん」
思いを見透かしたようにツクナが俺を戒める。
「お前の身体は右腕以外、生身なんじゃ。油断してると死ぬぞ」
「そ、そうだな。うん。そうだ」
俺は気を引き締め直して先へと進む。……と、
「ん? また魔物か」
さっきと同じスライムとゴブリンが今度は同時に現れた。
あれならまた2人があっさり倒してくれるだろう。
しかし気は抜かないようにし、俺も敵の動きをしっかり注視する。
「ファイっ!」
先ほどと同じようにリュアンの炎がスライムを包む。……しかし、
「あれ?」
倒せていない。
ダメージは負っているようだが、スライムはまだ焼失していなかった。
「むう、やはり手強い」
「さっきと同じ奴じゃないの?」
「さっきのはスライムデブスで、いま戦っているこいつはスライムフツです」
「えっ? 違うの?」
おんなじに見えるけど。
「外見の良し悪しで才能を高めて強くなるのは魔物も同じようじゃの」
「いやあれ、さっきの奴とおんなじにしか見えないんだけど」
「ぜんぜん違いますよ。よく見てください」
「うーん……」
……やっぱりおんなじに見える。違いがあるとは思えない。
「あっ、あぶないっ!」
「えっ? うあっ!?」
不意に俺へ襲い掛かってきたゴブリンの手斧を、デムーロニーの剣が防ぐ。
「気を付けてくださいっ! こいつはフツメンゴブリンですっ! さっきのブサイクゴブリンよりもずっと強力な魔物ですっ!」
「そ、そいつも違うのか……」
いや、やっぱりこっちもさっきの奴とおんなじに見えるんだけど。
俺が違いをじっくり探す間も無く、2体の魔物は2人によってあっさり倒される。最初に出会った2体より強いとはいえ、勇者と魔王である2人の相手ではなかったようだ。
「結局、違いはわからなかった……」
もしかしてからかわれてる? いや、そんなはずはないよなぁ。
「犬や猫などの動物と一緒じゃ。あれらもパッと見ただけでは美醜どころか、雄か雌かもわからんじゃろ」
「あ、なるほど。けどリュアンとデムーロニーはわかるみたいだけど?」
「あいつらは魔物に携わることが多いからの。なんとなく違いがわかるんじゃろ」
「ふーん」
その2人に目をやると、
「さすが強いねリュアン」
「あなたも。勇者と言われるだけはあるね」
お互いに戦いの健闘を称え合っていた。
剣と魔法で戦う2人。なかなか良いコンビのようだが、今は新たな魔王であるハイパーサタンを倒すために共闘しているに過ぎない。目的を遂げれば2人はふたたび敵同士となり、リュアンは魔王城の最深部で勇者に殺されて生まれ変わることで不幸な人生を修正できる。けど、
本人の望みとはいえ、殺すのはやっぱりちょっとなぁ……。
リュアンは魔王でも、そんなに悪い子じゃない。
サワキフクのときのように、別の形での幸せにはできないものか。
先へと進む道中、俺はそれをずっと考えていた。
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