第6話 3千の兵と戦う仮面の王子
3千の兵がやってくる。
そうソシアに聞いた俺は、どう考えても多過ぎるだろうと呆れてため息を吐く。
しばらくしたらここへやって来るだろう討伐隊を迎え撃つため、屋敷の玄関前に置かれたデュロリアンの上に俺はツクナの指示で座っていた。
「ハバン様ー。そんなところに座ってたら矢でうたれちゃうよー」
と、デュロリアンの中で座っているソシアが窓から顔を出して言う。
「ツクナが大丈夫って言うし大丈夫だよ」
「ど、どう大丈夫なのー?」
「説明してもわからん。ともかく大丈夫じゃ」
と、その隣に座ってるツクナが答えた。
やがて大勢の兵が屋敷に向かって来るのが見える。
目視では正確な人数はわからない。
しかしソシアの言った通り、3千はいてもおかしくない大軍勢だ。
たったひとりを討伐するのに3千って、やっぱりあいつは無能だな。
ひとりの討伐なんて50人でも多いくらいだ。
しかしまあ、今の俺には3千でも足りないだろうが。
屋敷の門前で止まった軍勢を前に俺は立ち上がる。
「勇猛なるマルサルの兵たちよ。ようこそ我が領土へ。とりあえずこの軍勢を率いてきた責任者は前へ出て来てくれるか?」
と、大きく声をかける。
しばらくして中年の男性兵士が前へ進み出て来た。
「お前が責任者だな。では一度しか言わないからよく聞け」
「はて?」
「死にたくなければ帰れ」
そう言った直後、一瞬の静寂があったのち、
「わははははははっ!」
軍勢が大きく笑う。
「ふはははははっ! わざわざ前に出て来させてなにをおっしゃられるとかと思えば、命乞いならまだしも死にたくなければ帰れとは。どうやら王子様は長年の辺境生活ですっかりおボケになられてしまったようだな。ふははははっ!」
ダァン!
「はは……」
右手の人差し指から放たれた銃弾が笑う責任者の眉間を撃ち抜く。
笑い声はピタリと止み、ふたたび静寂となる。
「無能な責任者はもういない。さあどうする?」
なにが起こったのかわからない。
そんな様子で軍勢は静止していた。
「……な、なにを」
「……っ」
「なにをしているっ! 相手はひとりだっ! 突撃してさっさと殺せっ!」
軍勢の中で誰かが叫ぶ。
まあ、責任者がいれば副責任者もいるだろう。
叫んだのはたぶんそいつだ。
「そ、そうだっ! たったひとりに恐れることなんてねぇーっ!」
声を上げて軍勢が門から攻め込んで来る。
「副責任者には責任者を諫める知的で冷静な人間を置くべきだが、どっちも無能か」
やれやれとため息を吐いたハバンは右手の人差し指を軍勢へ向け、
ダダダダダダダダダツ
掃射。
「ぐわっ!?」
攻め込んで来る兵が次々と倒れていく。
何百人か倒したところで銃弾を撃ち尽くし、
「それじゃあ次はこれだ」
手の平を開いてミサイルを3発連続で発射。
一気に数百の兵士が吹っ飛んだ。
「ハバン、右ひじの内側にある窪みを押せ」
「えっ? うん」
下からツクナに言われて窪みを押すと、
プシューっ!
黒い右腕の付け根あたりから煙が噴き出し、ガコリと音がして腕がはずれる。
「それを寄こせ」
「うん」
屈んでデュロリアンの中にいるツクナへはずした腕を渡す。
「攻撃が止んだぞっ! 奴に向かって矢を放てっ!」
後方に控えていた弓隊が姿を現し、弓を引きしぼる。
「ハ、ハバン様が矢が飛んでくるよっ!」
「大丈夫だ。俺はツクナを信じている」
やがて矢が放たれる。しかし、
「おおっ!」
見えない壁でもあるかのように、矢はすべてデュロリアンの前で弾かれる。
「す、すごいっ! どうなってるんだこれはっ?」
「バリア―じゃ」
「バ、バリア―?」
ってなんだ?
なんだかわからないが、弓での攻撃を防げるものらしい。
「ほれ受け取れ」
「お?」
下から渡されたのは短い丸太のような黒いごつごつした物体だ。
「な、なんだこれ?」
「ガトリング砲じゃ。それを右腕に装着しろ」
「うん」
言われた通り腕へ装着する。
「あとは敵へ向かって撃てば良い」
「これで……か?」
どこから弾が出るんだろう?
そう疑問に思っているあいだにも、敵はこちらへ向かって来ている。
「と、ともかく撃てばいいんだな」
右手を敵へ向けて撃つ……と、
キュィィイイイインンン
丸太のようなそれが音を立てて回転を始め、
ズガガガガガガガガガっ!!!
とんでもない勢いと激しい音で銃弾を掃射する。
慌てた俺はそれの付け根を押さえて狙いがぶれないように支えた。
「んーこの回転音と激しい掃射のハーモニーがたまらん。心に安らぎを与えてくれるのうっ!」
「そ、そうかっ!」
ものすごい銃弾の嵐が兵隊らの身体を粉々にしていく。
「うおおおおっ! なんてすごい武器だっ!」
興奮して撃ちまくる。
もはや向かってくる敵などいない。背中を見せて逃げ始めていた。
「はあ……」
撃つのをやめて俺は一息つく。
「……撤退したか」
というよりも、ほぼ殺してしまった。
たったひとりでこれだけの兵を無傷で倒してしまうとは。
とんでもない武器だと、俺はガトリング砲とやらを掲げて見つめた。
「す、すごい……」
デュロリアンから出てきたソシアがきょとんと死体の山を眺めていた。
「うん。けど……やりきれないな」
しかたがないこととはいえ、自国の兵を殺してしまった。
罪悪感に苛まれるも、しかし父やサリーノの思惑通りに死んでやるわけにもいかない。
「ん?」
門の向こうから数人の者がこちらへ来る。
逃げた兵が戻って来た?
いや、あれは……。
「村長と村人たちか?」
門からこちらへ来たのは村の村長と村人たちだった。
他にも見ない顔がいるようだが。
「どうしたんだ?」
俺はデュロリアンの上から降りて村長たちへ声をかける。
「は、はい。大勢の兵隊がお屋敷へ向かったので心配になりまして。あの、これはもしかしてハバン様がすべておやりに……」
これ、とはもちろん死屍累々となった兵たちのことだろう。
さてこの状況をどう説明したものか?
自国の兵が俺を殺しに来たなどと真実を言っては不安にさせてしまうだろう。
「も、もしもハバン様があの大勢の兵を倒してしまうほどのお力があるならば、どうか私たちの願いを叶えていただけないでしょうかっ?」
そう言って村長が平伏すると、他の者たちもそれに続く。
「願いって……どういうことだ?」
「はい」
と、村長は背後を振り向く。
前へと出てきたその者たちは跪き俺を見上げた。
「私たちは他の領地からこちらへ食料の支援をしていただこうと訪れた者です。バルドン国王の圧政に我々は苦しめられています。どうかハバン様のお力で我らを……いえ、この国を救っていただきたいのです」
「他の領地から来た者たちだったか」
どうりで見たことの無い顔だと思った。
「うん。いいだろう。バルドンは俺が倒す」
攻撃をされた以上、動かなければならない。
それにこれは圧政を打倒してほしいという国民の訴えだ。
正義として、俺は悪逆な連中を倒すことができる。
「おお、ではバルドン国王を打倒し、ハバン様が国王になられるのですね?」
「……」
その問いに対して、俺はなにも答えなかった。
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