第36話 風林火山

 外に皆で急いでいくと鮫島さんが倒れていた。腹を刺されているみたい。


「誰か! 治癒士をつれてきてくださいませんか!?」


 周りの人達は冷ややかだ。こんな時に僕に人望があったら。そんな事を考えてしまう。


「賢人は止血してて! ギルドに要請してくる!」


 ボーゼンとしている皆を置いてギルドに走る。

 そこまでは離れていないけど、少し時間がかかる。


 携帯端末を取り出し薫ちゃんに電話する。


「薫ちゃん? 真理さんに連絡取れる?」


『取れるわよぉん。こっちはしっかり止血しているわ。慌てず治癒士を連れてくるのよん。連絡先を送るわねぇん』


「うん! ありがとう!」


 送られてきた連絡先に急いでかける。


『もしもし? どちら様ですか?』


「あっ! 収斗です! すみません! 治癒士を僕たちの家の近くまで派遣して貰えませんか!? 人が刺されたんです」


『あぁ。収斗くん!? 人が刺された!? 分かったわ! 治癒士を向かわせるから!』


 ギルドの方向へ向かっていると一人の女性が走ってきた。


「もしかして、治癒士の方ですか?」


「そうよ! 怪我人はどこ?」


「こっちです!」


 先程居た場所まで駆けていく。


「みんな! どう?」


「抑えてたけど止まんないぞ!」


 賢人が避けると治癒士の人が治療に取り掛かる。

 しばらく治療していると血が止まってきた。


「どうですか?」


「血は止まりました。けど、血が流れているのが多いので、輸血が必要かもしれません!」


「病院に運ぼう!」


 薫ちゃんがおぶって行く。

 賢人は警察に連絡する。

 病院は幸い近いからよかったのだ。


 病院で救急の入口から運び入れるとストレッチャーを寄越してくれた。連絡がいっていたようだ。


 鮫島さんは血塗れの服で運ばれて行った。

 僕もあんな感じだったんだろうなとそう思った。


「くそっ! あれも奴等なのか!?」


 賢人は怒りを露わにして声を荒らげた。


「分からないけど、気をつけた方がいいみたいだね。あれで逮捕状を出すって言ってたはずだけど。これは警告なのかな?」


「俺達は負けねぇ!」


「おぉー。そりゃ大層な自信やな?」


 俺たちの背後にいたその人に気が付かなかった。


「お前らは目障りなんや。雑魚のくせにランカーなんぞになりおって」


 その人は動画で見た人だった。

 武田悠玄、その人であった。


「あなたは、何がしたいんですか? こんな事をしてまで地位を守りたいんですか?」


「お前たちに質問する権利はないんや。あれをみぃや」


 そう言われて見た先にはボロボロの猛と衣服が少し乱れて涙を流す奈々が縛られてナイフを突きつけられていた。


「女は無事や。男は抵抗したからしゃあない。返して欲しけりゃ、一時間後に東のA級ダンジョンにきいや。一層目で待っとるからな」


 僕がスキルを使おうと少し近づこうとする。


「動くなや。刺すで? そうや、二人で来るんやで? 他には連れてこんようにな?」


「くっ!」


「ハッハッハッ! そな、またな?」


 そういうと去っていった。

 猛達についていた人も風林火山の人のようだった。あのパーティはみんな共犯なんだ。


「1時間で言ってたよな?」


「うん。僕たちが助けるしかないよ」

 

「だな。回復薬と」


「僕はナイフを買い込んでいく」


 街に戻るとナイフを買い込む。その最中に薫ちゃんに色々聞かれたが、後で説明すると言って誤魔化した。


 僕たちが行くことをバレてはいけない。二人以外がいったらきっと容赦なく殺される。それだけは阻止しなければ。


 賢人と合流してA級ダンジョンへ急いだ。


 二人で一層をおりて行くとそこにはズラリと風林火山とおもしき人が四人ならんでいた。そして、武田悠玄が前に一人たっている。


 その前には猛と奈々が座らされている。


「来ましたけど? 猛と奈々を返してくれるんですよね?」


「はっ。約束や。返すで」


 ロープを切ると猛を奈々が支えながら歩いてくる。僕達は駆け寄ってとにかく離れた。


 いつの間にかダンジョンの入口は風林火山の人によって塞がれている。

 逃がす気はないという意思表示だろうか。


「どういう事ですか? 二人は返してくれるんですよね?」


「返したやろ? そっから逃がすとは言うてへんで?」


 そういう屁理屈はたしかに予想していた。

 それも覚悟の上で僕達は乗り込んできたから。


「すまないっす。自分が不甲斐ないばっかりに……」


「そんなことない! 私こそ何もできなかった!」


 猛と奈々はそう言うけど、僕はあまり悲観的には捉えていなかった。そうだよ。だって、僕達は最強なんだから。


「猛、奈々。少し力を貸して。僕と賢人はこうなることも覚悟の上で来たんだ」


「そうだぜ? ほら、飲め」


 猛に回復薬を賢人が渡すとそれを飲み干した。傷がいくらか消えていく。スっと立つ猛の目には闘志が宿っていた。


「自分は何をすればいいっすか?」


「いつも通り、これで僕達を守って?」


 重量のある大盾を穴から出す。それは今まで持っていたものより素材がいいもので、アダマンタイトとオリハルコンの合金だ。


「やるっす!」


「私は?」


「奈々はこれで」


 古代木から作られた杖だそうで魔力伝導率がかなりいい物らしい。ちょっと僕には良いかどうかはわからないけど。


「全体に攻撃を」


「わかった! 任せて!」


 僕達は風林火山に対峙する。


「明鏡止水、いざ、参る!」


 生き残りをかけた戦いが始まった。

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