乃上 美心
信永先輩の言葉に背中を押されるように、夕花ちゃんは口を開いた。
「ねぇ、美心ちゃん。こっちに来て、もう少し話そうよ」
涙に濡れた瞳で唇を震わせながら、夕花ちゃんは口を開く。
「信永先輩の、言う通りだと思う。わたしも、もう後悔するのは嫌なの。確かに、美心ちゃんが翔梧くんに先に告白して、付き合うって知って、先を越されたって思ったこともある。でもそれは、わたしが一歩を踏み出さず、何もしなかった結果だから。だからもう、わたし、何もせずに後悔なんてしたくないの! ここで美心ちゃんまでいなくなっちゃうなんて、わたしーー」
「ごめんね、夕花ちゃん。もう私、決めたことだから」
そう言って私は、泣きそうになりながら笑う。
「わかってるの。自分が夕花ちゃんの立場だったら、どう思うかってことも。でも、やっぱり、私、私、無理なんだよ……」
「そんなことないよ、美心ちゃん! だって生きてればまだ、翔梧くんと付き合えることもーー」
「ないよ、そんな未来! 当事者じゃないくせに、勝手なこと言わないで! 今まで疎遠だったくせに、急にそんなわかったようなこと言わないでよ!」
「おい、それはないだろ!」
「重谷先輩は黙っててくださいよ! どうせ私のことは、誰も理解してくれないんだっ!」
そう言って私は、屋上の外へ、空へ飛ぼうと、振り向いた。
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