隣のゾンビちゃん

メグリくくる

第1話

「ぎーちゃん!」

 横断歩道の向こう側。幼馴染の弓子が、俺の名前を呼びながら嬉しそうに手を振っている。夏の太陽すら霞んで見えるその笑顔に、俺も自分の頬が緩んでいくのを感じていた。

 今日は夏休みの初日。一生で一度しか来ない小学校四年生のその日に、俺と弓子は一緒にプールへ行く約束をしていた。

「急ぐのはいいけど、信号だけはしっかり守れよ!」

「わかってるよー」

 十字路に設置された歩行者用の信号機を見つめ、早く青にならないのかと、弓子はその場で足踏みをしている。足踏みする度、両耳の後ろに輪ゴムで作った二つのおさげが、機嫌がいい時の犬のしっぽみたいに揺れている。

 今か今かとその瞬間を待ちわびていた弓子の願いが叶えられ、ついに信号が青になった。

「ぎーちゃんっ!」

 同年代と比べて身長の低いその体を目一杯使い、弓子は横断歩道に飛び込んだ。その勢いは、弾丸もかくやというほどだった。

 だが、横断歩道に飛び込んできたのは、弓子だけではなかった。

 弓子を弾丸とするなら、それは大砲? いや、ミサイルと例えた方がいいのかもしれない。それぐらい大きなものが、横断歩道に飛び込んできたのだ。

 トラックだった。

 信号無視をしたそれは、横断歩道の上で弓子と交わる。

「……ぁ」

 俺が口に出来たのは、それだけだった。慌てて手を伸ばしても、もうそこに弓子の姿はない。トラックに吹き飛ばされている。

 肉片が飛び散り、道路に鮮血の花が咲く。弓子の体は、バラバラになっていた。

 全身が震え、涙が溢れだす。わけもわからず、現実を否定するように首を振っていると、へたり込んだ俺の足元に、何かが転がってきた。

 弓子の、生首だった。

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