五話 カエルとハサミは使いよう

 ボスガエルは残った下半身を食べようと近づこうとした時、下半身が光の粒となって空中に霧散した……

 キョロキョロとあたりを見回して見たが溶かしたはずの獲物は消えていた。 

 

 

「ブッハ〜、あっぶねー!危うく死ぬとこだった!

 マジで命拾いしたわ〜」


 魔王バエル=オルゾビュート・デメキシスは自分のキャラが崩れていることなどお構いなしに捲し立てる。

 

「あの時咄嗟に《虚像鏡ファントムミラー》を使って逃げたあの時の我ナイスッ‼︎」

 


 そう、賢い我は『ヘルファイアストーム』でボスガエルの視界を遮断し、その間に魔法で囮を作って逃げたのだ。


 「だがあの猛者(ボスジャイアントフロッグ)から逃げられるくらいの力は持っているのだ!

 つまり勝てる可能性も0では無い!いずれはあの蛙を下し、この世界で最強の称号をほしいままにするのだ!はーっはっはっは!」


 ピロリン『称号【井の中の蛙】を獲得しました。称号特典として【不屈の闘志】を獲得しました』


 「やかましいわ!」


 こんな時にシステムにさえバカにされるとは、それに井の中の蛙って…

 

 その時ほんの小さな疑問が生まれた。

 システムに何気なく与えられた【井の中の蛙】という称号。


「ん?確か我はLv99でカンストしていたし、それからどれほどの強敵を倒しても称号やスキルは得られなかった」


 そしてだんだんある仮説が信憑性を帯びてきた。


 「我のレベル上限が上がったのか?…………

 くっくっくっ、ふーはっはっはー!!

 やってくれたな『管理者』よ!これで確実により高みへと登る事ができる!

 我がこの世界の魔王になってやるのだ!

 はーっはっはっは!」


 ピロリン『【不屈の闘志】の熟練度が上昇しました』


 「だからやかましいわ!」


 コホン(*´ω`*)とはいえ、これは嬉しい事である。頭打ちかと思われたがまだ成長の兆しがある!


そしてあのカエルを倒すのだ!


まずはレベルを上げてあの憎きカエルに肩を並べなければならない。


 「よしっ!自分より弱い者を倒そう!」


 我ながら何とも情けない宣言だと思うが、そうでもしないとこの世界で生きるのはつらそうだ。


 ちょっと待てよ、あのカエル魔法抵抗力が高かったくせに我の《虚像鏡ファントムミラー》に引っかかっていたな

 ……もしかしてあの魔法はある程度知能がないと魔法防御力をすり抜けて作用するのか?

 

 ここにきて新たな発見だな。

 後で他の魔法も調べる必要があるな。


 「きゃー」


 突如森の奥からのかん高い悲鳴をバエルの耳が拾い上げた。


 「何事だ!」


 「《千里眼せんりがん》」


 素早く遠視の魔法を使い辺りを確認する。


 どうやら南西の方向で馬車を取り囲む盗賊の姿が見える。

 

 馬車には家紋が描かれておりどこかの貴族の馬車のようだ…

 

 その時バエルの頭を一筋の電流が駆け巡る。


 「そうだ!人間の書いた英雄譚に良く書かれていた、盗賊が貴族の娘の馬車を襲い、それを主人公が華麗に助けて感謝されるお決まりの展開ではないか!

 まさしく我の戦闘の初舞台にするにふさわしい(さっきのボスジャイアントフロッグ戦はノーカンとする)」


 すぐに現場に駆けつけようとしたが立ち止まる。


 「やはり盗賊だけではパンチが足りない。一瞬で倒してしまっても感謝の度合いが足りない。英雄譚のようにドラマチックに仕上げねばなるまい…そうだ!

 あのカエルを突撃させよう」


 (あのカエルはHP、防御力お化けだった。おそらく一方的な蹂躙劇になるだろう。

 盗賊をカエルに始末させた後、我が《虚像鏡ファントムミラー》を使いカエルを遠くに行かせて、盗賊と、より強いボスガエルをも撃退したという最高の手柄を上げるとしよう)

 

 なかなか魔王としてふさわしい考えになってきたじゃないか。


 「そうと決まれば待っていろボスガエル!」


 幸いボスジャイアントフロッグは遠くには行っておらず近くをうろうろしていた、自分自身が囮となってもよかったのだが念の為という事で


 「《虚像鏡ファントムミラー》」


 幻影にアホなカエルがまんまと引っかかる。


 そのまま誘導して行った時、不意にカエルがぴたりと止まった。

 そして、カエルの口元が霞んだ瞬間、魔法で作った囮の自分は胸に大きな風穴を空けて倒れた。


「なっ、何をした!」


 驚きに声が上ずる。

 あまりの速さに最強の魔王(元)であるわれが見切れなかった。


 おそらくは舌を高速で出して魔法で作った囮を瞬殺したのだろう。


 先ほどの戦闘でベロ攻撃をされなかったのは幸運以外の何者でもないと知り、血のけが下がる。


 しかし、ここで足止めを食らっていてはあの貴族の方は間に合わないだろう。


 すぐさま再度魔法を発動させる。

 それに合わせてカエルが動き出す。

 そしてようやく馬車の近くまで来た。


 「さあ、カエルよ!やっておしまい!」

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