第二章『きらきらひかる夏休み』 ⑧
八月二週目に入った。
ノートの端の“正”の字をなでる。二回と一回。どちらがどちらか忘れてしまったけれどそれは、両親がこの家に帰ってきた数だった。
“正”どころか、ただの横線と、アルファベットのT。そこに手と足と顔をつけて、更にその周りに花を描いた。もはや原型はない落書きになったそれを、ぼんやり眺めていたら時計の針は14時をさしている。
そろそろ散歩に行こうかな、と鏡の前に立つ。
今日も髪の毛をうしろでお団子にしてみたけれど、ゆるいふわふわのお団子に憧れているのに、直毛でつくったそれは面接にでも行くように見える--そう思った瞬間面接に行ったことなどないのに、とも。
サンダルを履いてドアを開ける。顔全体に八月の容赦ない日差しを浴びて下を向く。
今日も夕方、可絵と待ち合わせをしている。いつも通りファミレスのガレージで待ち合わせしてから、家で過ごすのだ。
あれから可絵は何度も家に来ていて、バイトがない日などは一日中、テレビを見たり、見よう見まねでご飯を作ってみたりしている。だから、直接家に来てもいいのだけれど、なぜかファミレスのガレージで落ち合うのがお約束になっているのだった。
そうだ、今日は可絵にホットワッフルを作ってあげよう。とつぜん思い付き、お決まりのお土産屋さんで時間をつぶそうと思っていたけれど方向を変える。
可絵もわたしも、甘いものが大好きだ。
夏休みは一度、二人で喫茶店に行った。
そこで食べたあたためられたワッフルが、とても美味しくて周りのお客さんに驚かれたほど、叫んでしまったのを思い出す。
とはいえ、お菓子作りは経験がない。
売られているワッフルを買ってあたためて、アイスをのせよう。そこにハチミツをかけよう。妄想はふくらんで、口の中までハチミツの味になる。
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