なつやすみきらゆら

yuri

第一章『夏休みまであとすこし』 ①


 ひとりで昼ごはんを食べていたら、やっと可絵カエがやってきた。

 髪の毛はボサボサで、規定のカバンの他に袋を三つもぶら下げているせいで、カカシのように見える。

「もうすぐ五時間目の用意、しなあかんで」

 わたしの声に可絵は、分かってる、分かってるというような顔で二度頷いた。

「ごめん、一口だけちょうだい」

 そう言ってわたしのリンゴジュースを思い切り吸い込んだ可絵の、喉が動いている。

「どこが、一口やねん」

「ごめん、ほんまごめん」

「いいよ。とりあえず荷物置き」

 可絵は「そやな」と言って腕から下ろそうとするも、絡まって身動きが取れなくなっている。おまけに汗もかいているし、「あー、もう!」と苛立って放った大声に、教室内で笑いが漏れた。

 わたしは可絵に制汗スプレーを思い切り吹きかけた。前髪も手ではらっておでこにシュー、可絵は両目をつむったまま「うわー、ありがとう、天の恵みやー、神様、れんさま」と言って両手を合わせる。

「恋、また体育のズボン忘れてしまった。昨日まで覚えててんけど」

「もー、持ってくる気ないやろ」

 そうわたしが言ったのは可絵がズボンを忘れたのは、四回連続だったから。

「ごめん、借りてきてくれる?」

「はいはい、分かったよ」

 リンゴジュースをゴミ箱に入れて、教室を出た。


 隆の教室は隣。

 今日も隅っこの席で寝ていたタカシの肩をたたく。「なぁ、隆ほんまにごめん、体育のズボ……」「ああ、ええよ、そこ入ってるから」言い終わらないうちに隆は言う。

「ありがとう」

 いつも通りロッカーを開ける。隆は中学からの友達。サッカー部で、物静かなほうだけど人気がある。高校に入って隆しか友達のいなかったわたしは、「恋って、隆と友達なんや」とよく言われた。相手の顔は驚いていて、だから“恋なんかが”と書かれているようだった。

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