防御力が高くても登山はしんどい。
「はぁ、やだ。」
「もうやだ。帰る。」
「辛い。辛い。死ぬ。」
「もうダメ。私を置いて行って。私はここで死ぬから。」
「イリーナさん?いつまでぼやいてるんですか?着きましたよ。」
「やっと来たか。お前たちも休憩するといい。」切り株に腰掛け弁当を食べるマグネスが言う。
「マグネスさんも手伝ってくださいよ!介護大変だったんですから!」
青息吐息になった私を横目に先に勝手に休憩しているマグネスとレオンが言い合っている。
今私たちは登山をしている。趣味でやっているわけではなく、山にいる魔獣を討伐する仕事を受けたのだ。
本来私たちはダンジョンの内部や迷宮都市の周辺で任務を受けるのだが、たまたま条件の良い依頼を見つけたのでこんな山まで登ってきたのだ。
だがもうしんどい。登山道なんてあってないものだし、私には防御力はあっても体力はないのだ。もう明日か明後日は全身筋肉痛だ。
「あとちょっとくらいで頂上なので頑張ってくださいイリーナさん。」
「ふええ、もう無理。登ったとしても疲れて戦えないよこれ…」
「? お前は戦わないだろう?硬化するだけならいいだろう。」マグネスは当然のように言う。
「ああ、はいはい。登るよ二人とも!」
「休憩はいいのか?」マグネスが不思議そうに言う。
「もういいのよ!」私は先に山を登り始めた。
「後一息ですよ!」
「もうちょっとで頂上だ。頑張れ。」上から男二人が応援してくれる。
「なんで」
「私が」
「一番」
「遅いのよ…」私は半ばキレながら山頂の土を踏む。
そのままへたり込んで一休みする。
「大丈夫ですか?水飲みます?飲みますよね。疲れすぎて喋れないんですね。」レオンはそう言って私の口に水を流し込む。
「二人とも、ここに討伐対象はいないぞ。」マグネスが困ったように言う。
「「え?」」私とレオンは半分憎悪も含んだ目をマグネスに向ける。
「二人が下で頑張っている間に探し回ったが山頂に魔物はいなかった。」マグネスは冷静に嫌なことを言う。
「ここまで苦労して登ったのに…」私はその場に倒れ込む。
「イリーナさん、依頼書にはなんて書いてありましたか?」レオンは私に尋ねる。
私は震える手でバックパックから依頼書を取り出す。
「ターゲットは頂上付近にいることが多いです。だって。」
「付近だから頂上にいるとは限らないってことですよね?」レオンは悲しそうに言う。
「それが分かってたらもっと下の方で探したのに。」私は説明をちゃんと読まなかった自分を呪った。
「無駄足だったな。」マグネスは楽しそうに言う。
「何笑ってるんだマグネス!」私はマグネスの脇腹をつつく。
「だが、久方ぶりの皆で登山ができて楽しかったぞ。」マグネスは嬉しそうだ。でもお前勝手に先行ってたじゃん…
「ともかく、探しましょう。」レオンが言う。
「そうね。ここまで来て何の成果も得られませんでしたなんて笑えないわ。」
「私は面白いと思うが?」マグネスは楽しそうに言う。
ともかく魔獣大捜索作戦が始まった。防御力カンストとそれを武器として使う男、攻撃力カンストのいるパーティーから魔獣は無事逃げ延びることができるのか…
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