追放された防御力9999の私、まさかの鈍器になりました

メインウェポンは淑女の嗜み

「いやあ、この前のモンスターからの素材高く売れてよかったです。」レオンは嬉しそうに言う。

「今日は新しい剣を買うんだったよね？」私は尋ねる。

「はい。前の折れちゃいましたから。」レオンは悲しそうに言う。

「まあ、冒険者をやってればそういうこともあるよね。」

「結構まともなお金が入ったならこことかどう？私が以前所属してたパーティーもここでオーダーメイドの装備を作ってもらってたわ。」私は古くからこの迷宮都市に存在する老舗の武器屋に入る。

「わあ！すごい！」レオンは壁一面に並んだ武具を見て興奮しだす。

「すごい、この剣なんか薪みたいに置かれてるけど純度もすごいし装飾もしっかりしてる。うわ、高い。」レオンは値札を見てよろける。私はレオンを後ろから支える。

「高いけど、ちゃんといいものを買いなさい。迷宮の奥で丸腰になりたくなければね。」私の方が冒険者としては先輩なのでドヤ顔でアドバイスをする。

「そうですね。この前はイリーナさんがいたからどうにかなりましたが、毎回そう都合よく一緒にいれるわけではありませんから。」レオンは頷く。

「これなんかどう？」私は一本の剣を指差す。

「あなたが使ってたのと似た大きさだし、あとここの装飾も可愛い。」私はウッキウキで薦める。

「いや、シンプルなのでいいです。」レオンは素っ気なく言う。

「なんだよぉ…」私はしゅんとする。

そうだ。そうなのだ。彼には良い武器を買って欲しい。多様値が張っても壊れにくいものを。

それで私が鈍器にならずに済むならそれでいいのだ。少し超過分を払ってやることもやぶさかではない。

鈍器はいやだ。いやなのだ。緊急時なら仕方ないが、やはり私も年頃の女である。そんな私が鈍器として足を掴まれて振り回されるなんてあってはいけないことだ。緊急時なら仕方ないが。

「これなんかどう？水色でかわいい。」

「かわいくなくていいです。」

「むぅ…」

「取り回しがいいものがいいんですよ。短いのでいいんです。」

「なんで？リーチがあった方がいいと思うけど。」

「剣はあくまでサブがいいんです。メインウェポンはイリーナさんですから。」レオンは爽やかな笑顔を私に向ける。

「ア、ソウナンダ。ソウダヨネ…ジャア、コレトカドウカナ。」私は半ば意識を失いながら買い物に付き合った。

その時の記憶はあまりない。

色を失った世界に突如色彩が戻ってきた。

「はっ、これは？」

「今日買い物に付き合ってくれたお礼ですよ。クレープです。果物がいっぱい乗っててかわいいですよ？」レオンは笑顔でクレープを手渡してくる。

「ありがとう。」そう言うと私は鮮やかに彩られたクレープを受け取る。

一口目からすごく美味しいが具が溢れそうだ。魚を食べる鳥みたいな食べ方になる。

レオンはそんな私を微笑ましそうに眺めている。助けて。

「運動がてらダンジョンに潜ります？剣も使ってみたいですし。」

「いいね。今日は浅いところでいいよね？」

たしかに、具もりもりのクレープを食べたので少し運動をしておきたいところだ。

レオンは勢いよく剣を振る。新調した剣の切れ味はすさまじく、強力な魔物ではないとはいえ簡単に討伐することができていた。

「これすごいです！軽いし切れ味もいいです！」レオンは嬉しそうだ。

「そう。それはよかったね。いいのを買った甲斐があった、ね！」私も腕を硬化させて近寄ってきた魔物を殴る。大抵の魔物はこれでどうにかなる。

殴られてよろけた魔物はレオンの背後からの一撃で倒される。

「やりましたね！」レオンは嬉しそうに言う。

「新しい剣は気に入った？」私が尋ねると彼は満足そうに頷いた。

「それはよかった。」

「僕たちいいコンビですね。僕は正面きっての戦いはあまり得意じゃないんですが、イリーナさんが敵をひきつけてくれてるのでかなり戦いやすいです。」

「そうだね。でも、仲間が多いとタンクもどこを守っていかわからなくなるけど、仲間が一人だと役目をまっとうしやすいからそう思うんだけど、パーティーの規模が拡大していくとそうとも言えなくなるのよね。」

「そうなんですか？」レオンは目を丸くする。

「囮役は少人数パーティーでこそ輝くの。人数が増えると囮なんて危険なことを専門にする人を雇うより手数で圧倒した方が確実になるからね。」

「じゃあ、人数の多い上級パーティーほどタンクの必要性は少ないんですか？」

「まあ、そういうこと。特に、ダンジョンの下層に潜るなら敵の攻撃を受けるよりそもそも回避することに専念した方が消耗も少なくなるから、確実に敵の攻撃を受けて消耗し続けるタンクの採用率は低くなるの。タンクより回避バフをかけられる魔術師とかの方が重用されるの。」

「タンクも大変なんですね。」

「だから剣士になったレオンは賢いと思うよ。」

「そうでもないですよ。」レオンは顔を伏せる。

「剣士は汎用性が高くて皆がなりたがるせいで人数が増えて飽和状態なんです。なので仲間が見つからず冒険者を辞めて皿洗いをする同期も何人かいます。」

「うわぁ、過酷だね。全員剣士のパーティとか絶対弱いもんね。」

「じゃあ、やっぱり聖職者とか魔術師が一番いいんですかね？」

「まあ、そうだけど、聖職者も魔術師は生まれつきの才能が大きいから難しいよね。」

「ですよね…」レオンは悲しそうだ。

「でも、前に出て戦って損耗率も高い剣士は大勢いた方がいいし、回避不能な範囲攻撃に対してはタンクが刺さることもあるからお互い希望を捨てずに頑張ろう！」私は彼を鼓舞する。まあ、だとしても動けないタンクが刺さることはないのだが。

「じゃあ、そろそろ戻ろう。」私は提案する。鈍器にされる前にダンジョンから出たい。

「そうですね。今日はもう帰りましょう。」そう言って出口の方に歩き始めた時、いきなりレオンがぴくりとした。

「どうしたの？」私は彼の顔を覗き込む。

「今、悲鳴が聞こえました。」

「悲鳴？どこから？」

「下の階です。」

「六層か。なら私たちでも大丈夫そうね。」私とレオンは頷きあうと下の層へ向かった。