æːarendel

桃衣

Prolog

 「どのような形式で占いをするのですか?占いにも、タロットとかペンデュラムとか、色々ありますよね。」

 沈黙が続く。蝋燭にゆらめく炎が彼女のピアスに埋め込まれたジルコニアに反射し、眩い光を放つ。

 「私は、この左手さえあればどんなことだってわかってしまうわ。私の心にはもう1つの宇宙が広がっている。」

 そう言って左手の甲を撫でる彼女。なぜだか一瞬光が漏れたような気がして、言葉を失ってしまう。

 「貴女は未だ、これまでの光景を信じられないでいる。科学的に証明することができない、というところね?」

 もう一度左手の甲に触れると、それに連動して今度は目眩がしてきた。もう既に身体の感覚はなかった。夢を見ているようだった。

 「でもね、科学的に証明できないからこそ、人は占いに頼るものだと思わない?当たっていようが外れていようが、根拠を持って否定する人はいない。自分に都合のいい結果だけを信じたっていい。にわかには信じがたいようなことが、人生を幸せに導くのよ。」

 私は、とんでもない世界に足を踏み入れてしまったと今更後悔した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る