第42話 顛末


 密告の奨励と入念な調査の結果、魔薬を製造している者が判明した。

 リョウザンという地方を統治する領主のソウメルという人物である。


「予想外というほどではないな」

「ラブリアリの遺産を探し出し、解明しただけではなくて改造して別のものを作り出す。並の資金力や情報収集力でできることじゃありませんからね」


 皇帝の言葉に私は頷いた。


 今日も今日とて皇宮に呼び出されています。

 なんだろうねこの陛下、私のことを秘書かなんかだと思ってるんだろうか。三日に一回くらいの頻度で呼び出すんですよ。


 メイコンに相談しても「あんなんでも皇帝なんで、いうことをきいてやらないといけないんですよ」って笑顔で言われちゃったし。

 つらい。


「資金力、情報収集力、技術力。そしてもうひとつ必要なものがあるぞ、アリアよ」

「現王朝を打倒する意思、ですね」


 魔薬で儲けようとするのは採算が合わない。

 研究し、作りだし、販路に乗せるまでにかかるお金を考えたら、ペイするまでに何十年かかかるだろう。


 普通の商人は、そんな無謀な投資なんかしないのである。


 となれば後ろにいるのは権力者で、何らかの目的があって魔薬を国内に蔓延らせようとしていると考えるのが自然だ。


 何らかってのは考えるまでもないよね。

 国家転覆ですよ。


 政府の高官を魔薬で縛ってしまえば、操ることは容易だもの。

 正規軍に魔薬が蔓延しちゃったら戦うどころじゃなくなるもの。

 帝都が魔薬漬けになったら国としての機能が消失するもの。


 つまり魔薬は、権力奪取の布石になってるってこと。


「けれど、そのソウメルという人は、皇位継承権の高い人なんですか?」

「だったらこんな回りくどい方法をとるわけがないな」


「ごもっともです」

「もともと野心家ではあったのだ。自分は領主などで終わる器ではないと公言していたらしいからな」


 皇帝の耳に入るレベルで公言しちゃうのはまずいだろう。

 かなりやばい人物だね。


「魔薬の件がなかったとしても、いずれは排除しなくてはならなかったろうよ」


 この言葉の意味は、ソウメルを族滅するということだ。

 もちろん相手も黙って滅ぼされるわけがないから、戦になるだろう。


「アリアも一緒にくるか?」

「え? 嫌ですよ。なんでそんなこと言うんですかセイミン伯父様」


 なんで商人の私が従軍しなくてはならないのだ。

 随行しても何の役にも立たないどころか、私を護衛するのに兵士を割かないといけないんだから、あきらかにマイナスである。


「滅ぼした後、リョウザンをお前にやろうかと思ってな」

「いりませんて」


 貴族から平民へ、そしてまた貴族へってのは、ちょっと波瀾万丈すぎるよ。


「貴族にしてしまえばアリアをセルリカに留めおけるかと思ったが、残念だ」


 本気が四割くらいの表情でセイミンが笑った。

 怖いなぁ。





 逆賊ソウメルの討伐に関して、私はとくに語るべきことを持たない。

 禁軍(正規軍)四万を動かしてリョウザンを急襲し、ソウメル以下、主立った者たち五十人ばかりの首級をあげたという話を後からきいた程度だ。


 ことは政治や軍事の話だから、商人に出る幕はないのである。


 ただ、魔薬の製造過程と製造法の入手などについて、ラティーファがリョウザンの担当者を厳しく問い詰めたらしい。

 他に手に入れた技術はないか、どうやって手に入れたのか。

 拷問のようなこともおこなわれたらしいよ。


 で、判ったことが怪しげな行商から買った、ということ。

 しかも霊薬を魔薬に改造するための指南書付きでね。


「つまり、私みたいなラブリアリの末裔が、当時の技術を売っているってことなんだよ。しかも悪意をもってね」


 一連の処理が終わった後、ラティーファが疲れた表情で語ったことだ。


 ジーアポットや揚水ポンプのような、人々の役に立つ科学ではない。

 快楽をむさぼるだけの人間を作り上げる薬など、まともな目的ではありえないことである。


「となれば、私たちの次の目的もはっきりするわね。その謎の行商人の足取りを調べて、阻止するのよ」

「アリア嬢ちゃん。なんでそこまで……」


 ぐっと拳を握る私にラティーファが驚いた顔をした。

 そこまで付き合ってくれるのかい? と。


「科学が悪いことに使われると、私たちの利益が減るからね」


 科学というのが悪いものだと認識されてしまった、ジーアポットを普及させる計画だって修正を余儀なくされる。


 メイコンとも話して、庶民から富裕層までジーアポットを普及させ、かつ揚水ポンプによって水汲みの労働を軽減させることを目標においた。


 人々の生活が変わる。

 それだけ時間ができることになり、より以上にお金を稼げるようになるだろう。


 そうしたら、たとえばマコロン織物のような高級品を買い求める人が増える。間違いなくね。

 生活の質が向上するってことだから。


「だから、科学は人々の役に立つものであってほしいんだよ」

「そう簡単なもんではないんだけどね」


 苦笑とともに肩をすくめるラティーファだった。


 良いことばっかりじゃないってのは判ってる。

 でも、それに気がつくのはまだ先で良いし、人々でないといけないと思うんだ。


「それまではたっぷり儲けさせてもらいますよ」


 私は右手の人差し指と親指をつけて丸を作ってみせる。

 万国共通、お金のマークだ。


「アリア嬢ちゃんは悪徳商人なのか、世のため人のためにやってるのか、よくわからないね」


 私も儲ける、お客さんも得をする、地域の人々も幸福になる。

 そういう商売ができたらいいなって思ってるよ。


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