雨を受け入れる花びらに千春を祈る

想田翠/140字小説・短編小説

第1話 雨を受け入れる花びらに千春を祈る

 下校する小学生の群れ。傘を差さない男子児童が数名。

濡れるのなんてへっちゃらとでも言うように笑い声をあげながら

ダッシュしていった。

貴方にもそんなところがあった。


 花冷えの日に置いてきた恋を思い出す。

はらはらと舞う春の雨を満開の桜は受け入れて、共に落ちていく。

道に広がる薄桃色の絨毯。


「五分咲きや七分咲きの方が雨に強いんだって」

「え、なんで?」

「しっかりと木にくっついているから、雨に降られてもびくともしないらしい」

「満開の桜は弱ってるってこと?」

「咲くまでに膨大なエネルギーを使ってるからね」

 あの日の会話を思い出す。


 満開になった後の方が脆い。

咲き誇るのは刹那で、散りゆく運命。

儚いことが美しさにつながる。

それは……恋に似ている。


 びしょ濡れになることさえいとわない貴方に、傘を差してあげるのが

私の役目だと思っていた。

自分の肩が濡れてもいいから、雨から守ってあげたかった。

他人からの批判や妬みや僻み……降り注ぐ冷たい雨から貴方を。


 これからは、私は私のためだけに傘を差して歩いていく。

貴方にあたたかい春が何度も訪れますように。

もう貴方のために傘は差し出せないけど、遠くから祈っています。

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